ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

「傾城反魂香」初心者はこう楽しんだ!〜三月大歌舞伎(歌舞伎座) 昼の部感想


一度ちゃんと観ておきたいと思っていた演目、「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
ぎりぎりですが幕見で観て参りました!


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今月のポスター、右から2枚目。
真ん中が又平松本白鸚さん)、左下が又平女房・おとく市川猿之助さん)、
右下が狩野四郎二郎元信松本幸四郎さん)。




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめます!

二幕ありますが、どちらもそれほど難しくないと思います。

一幕目は笑いどころやあっと驚く演出も多く、結構会場が沸いていました!
「この演目が初めて上演されたときはさぞかしみんな楽しんだだろうな」という感じ。

二幕目は打って変わって人情話ですが、これがとてもとても良かったのです。
あと数日しかありませんが、いろんな人に勧めてまわりたい。。
夫婦の情愛が溢れる、いい一幕でした。

***

一幕目に関しては、狩野四郎二郎元信松本幸四郎さん)が陥れられて縛られ、その危機を絵の力で脱してみせる、ということが分かればおおよそ大丈夫。

第二場で始まる立廻りは、この元信方の3人を追って、さっき謀った側がやってきます。
元信の弟子である狩野雅楽之助中村鴈治郎さん)が孤軍奮闘します。

二幕目は、絵師の浮世又平松本白鸚さん)が、何とかして「土佐」の苗字を許されたい(=土佐派の絵師として認められたい)と願う話です。
生来の吃りでなかなか思いを伝えられない又平を、女房のおとく市川猿之助さん)が甲斐甲斐しく助けます。

上手く話せないゆえに積年の望みが果たされず、絶望する又平。
それを支え続けるおとくの温かみが、とにかく沁みます。
 

■私はこう見た!ここが好き!


(1)近江国高嶋館の場、館外竹藪の場


先述の通り、一幕目は笑いどころ・見どころが多かった印象でした。

筋としては、
①この館の娘・銀杏の前中村米吉さん)が狩野元信松本幸四郎さん)と何としても夫婦になろうとする話、
②元信が不破入道道犬(どうけん、市川猿弥さん)・長谷部雲谷(うんこく、片岡松之助さん)らに謀られ、縛られてしまう話、
③その危機を、元信が自身の描いた虎で切り抜けるという奇跡のファンタジー(笑)、
④騒動に巻き込まれた銀杏の前一行を守ろうとする元信の弟子・狩野雅楽之助(うたのすけ、中村鴈治郎さん)と、追ってくる雲谷ら一味との立廻り
という流れです。

米吉さんの娘、いつ観ても可憐でかわいらしいですね…。

この銀杏の前、元信からは度々断られているのですが、この場面における元信への迫り方が結構策士で(笑)、
腰元・藤袴のふりをして「銀杏の前さんに諦めてもらうために私と夫婦になりましょう」みたいなことを言って、まんまと固めの盃を交わすのです。

あとあと本物の腰元・藤袴(市川弘太郎さん)が出てくるのですが、このインパクトがまた強烈で。
見た目もさることながら、動きが妙にキレキレなのがまたおかしく(「さぁさぁ」と詰め寄るあたりが大好き!笑)
「館外竹藪の場」の最初の方のセリフ、追われている状況で心細そうに「この身の細腕…」と言っているのがまた見た目とちぐはぐで笑いを誘います。笑

竹藪の場はほとんどの時間が立廻りになります。
鴈治郎さんも捕手も、ぴしりぴしりとしていて気持ちのいい立廻りでした!

さて、この場面は演出というか、趣向がすごくてですね、
絶体絶命のピンチで元信が、自らの肩を食いちぎり、その血で襖に虎の絵を描く(!)のですが、まずここの演出が面白いです。
実際にはもちろん描いていないのですが、ちゃんと展開に合わせて虎の絵が出来上がってくるのです!
私は純粋なので、「仕組みどうなってるの?!」と素直に驚きました。笑

そしてその後がさらに楽しいです、
この虎、本物の虎になって絵を抜け出してきます!おぉ!!
虎、動きがかわいいですよ。笑
道犬の動きを後から真似したりして、道犬がきりきりしているのがまた面白い。

この虎が道犬を倒し、縛られた元信の縄を食いちぎってくれるのです。
あれ、こういうの前に見たことある…「金閣寺」で雪姫が桜の花びらで描いた鼠と同じ流れだ!
と思ったのですが、去年「金閣寺」を観ているにも関わらず感想をまとめていませんでした。残念。


(2)土佐将監閑居の場(吃又)


通称「吃又(どもまた)」という、有名な一幕のようです。私も名前だけは聞いたことがありました。

さっきの虎が村を荒らしているので、虎を捕まえようと百姓がどやどや出てくるところから始まります。
このお百姓さんたちがどこかのんびりしていて、なんだか雰囲気が良くて、私は好きでした。

さて、この虎の正体を、「狩野元信が描いた虎に魂が入って抜け出たもの」と見事に言い当てる土佐将監光信坂東彌十郎さん)。
ここで、弟子の修理之助市川高麗蔵さん)が絵筆を使い、この虎を見事に消してみせます。

この画業の功績が認められ、修理之助は将監から、「土佐」の苗字を名乗ることを許されるのです。

修理之助は高麗蔵さんなのですが、失礼ながらもっとお若い方がやっていらっしゃるんだと思っていて、筋書を確認してびっくりでした。
完全に青年だと思って観ておりました。。すごい。

さて、ここにやってくるのが件の又平松本白鸚さん)・おとく市川猿之助さん)夫婦。

もう、花道から良いです。
おとくが先に立って、又平の手を取って出てきて、将監の家の方の様子を確認してから又平を振り返り、また手を引いて本舞台に行くのですが、
この部分、セリフが一つもないにも関わらず、動きだけで二人の間にある温かいものが伝わってきます

かねてから「土佐」の苗字を許されたいと願い続けてきた又平。
おとくは将監に向かい、又平に代わってその想いを滔々と語ります。

上手く話せない又平と正反対に、おとくはとってもおしゃべり。それが決して欠点ではなく、とことん又平を支えているのです。
又平も何か言いたいことがあるときは、おとくを頼ります。
おとくはすぐに耳を傾けて、又平の言わんとするところをちゃんと汲み取るのです。

さて、将監に思いを伝えた又平(おとく)ですが、現実はそうそう甘くはありません。
又平、やっぱり断られてしまいます。
話すのが苦手な又平が、自ら懸命に話して直々に頼んでみても、やっぱり上手く伝わらずにすげなくされてしまいます。

先ほどの雅楽之助が銀杏の前救出を頼みに来たときも、本当は自分が行きたいのに、吃音が原因となって行かせてもらえない。
弟弟子の修理之助に、苗字も先を越され、この場面でも大事なお役目を取られてしまうのです。

絶望する又平。
いっそ死にたい、と。
後ろを向いて涙を拭いているおとくもまた切ない。

将監が部屋に入ってしまい、いよいよ「土佐の苗字をもらう」という望みは絶たれました。
又平は自ら命を絶つことを心に決め、おとくにもまたその気持ちがよく分かっています。

刀に手をかける又平ですが、おとくはその刀に「待って下さんせ」とすがりつき、
傍の手水鉢を示して、あれを石塔に見立てて自画像を描いてからにしたらどうかと勧めます。

この「待って下さんせ」の必死の勢い、胸に刺さりました。
夫に絵を描くよう説得する様子も一生懸命で、ずっとこうやって又平の分までいっぱいしゃべって、夫を支え続けて来たんだなぁと。。

手水鉢に向かおうと立ち上がる又平を、両手を取って支えるおとく。
「手も二本、指も十本ありながら、なぜ吃りには生まれさしゃんしたぞいなぁ」という、おとくのどうにもならない慟哭が胸を打ちます。

そして又平は、全身全霊で石塔に自画像を描いていきます。
おとくは墨をすり、横で見守り、出来上がった絵を褒める。

あまり念を入れて描いたので、描き終わっても又平の手からはなかなか筆が離れません。
それを、またおとくが丁寧に又平の力を抜いていって、筆を離してあげるのです。

もうこのあたり、最期だと思えば辛くて愛しくてたまらない
本当に、本当にいい夫婦なんです。。

別れの水盃を、と手水鉢へ向かうおとく。
そしてびっくり!さきほど又平が手水鉢の裏へ描いた絵が、なんと手水鉢の表ににじみ出ている!!

そうなんです、本日2回目の「どうなってるの?!」演出がこちら!笑
さっきの虎の絵ではないですが、これも又平が熱心に描いている最中に、絵がこちら側の面にどんどん出来上がっていくのです。おぉ!

慌てて又平に知らせるおとく。
又平の「かか、ぬ、抜けた!」というセリフが良い!

これ、別に言わなくていいことだと思うのです。だって「抜けた」のを知らせたのはおとくの方なんですから。
それを、しゃべるのが苦手な又平が思わず口に出してしまうくらいにはすごい場面だし、それくらいおとくを信頼している証拠なんだと思います。

何度も何度も手水鉢の表裏を確認する二人の様子が微笑ましい。

さて、実は将監、この様子を見ていました。
そして又平の絵の力を認め、彼に「土佐」姓を許すのです。

気持ちのいいハッピーエンドだなぁ。。


■まとめ


すみません、今回まとめません。(どんな宣言)

ちょっとここで語らせていただきたいくらい猿之助さんが良かった。

きめ細かいなぁ、と思いました。
どの瞬間も抜け目なく美しくて、隙がないな、と。
後ろを向いて又平の羽織を畳んでいるときの手つきとか、部屋に入ってしまった将監にひっそりと語りかけるところとか、
些細なところかもしれませんが、ものすごく印象に残っています。

今まで猿之助さんは男役しか観たことがなかったのですが法界坊の野分姫はちょっと別として笑)、 女めちゃくちゃ良いじゃないか!と衝撃を受けて帰ってきました。

又平があまり話さない分、おとくのセリフが一つ一つとても良くて、それはもとの台本が良いということなのですが、とにかくおとくに泣かされた一幕でした。

もうちょっと早く観ておければもう一度くらい幕見に行けたのに…
いや、でも観に行かない可能性もあったことを考えると、観ておけて本当に良かったと思います。

来月は、猿之助さんの舞踊「黒塚」がかかります(4月の物知らずはこちら
今まで以上に楽しみになったのが嬉しいです。
 

「盛綱陣屋」初心者はこう楽しんだ!〜三月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


今月絶対に逃したくなかった演目、「盛綱陣屋」

中日を過ぎてやっと観にいくことができました〜!

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今月のポスター、左から2枚目が盛綱片岡仁左衛門さん)。びしり。




■初心者でも楽しめるのか?


先月の「熊谷陣屋」この記事と同じく、内容が少し理解しにくいかもしれません。
というのも、鎌倉方・京方という対立構図に兄弟・親子が絡み、人間関係の把握が一筋縄ではいかないのです。

そのため、「盛綱陣屋」を初めて観る、歌舞伎をあまり観慣れていない、という場合は大まかでもいいので筋を予習しておくと良いと思います。
私は筋書を買って、あらすじに目を通してから観劇しました。

正直分からない、聞き取れないところもたくさんありましたが、それでも何だか涙が止まりませんでした。。

歌舞伎に興味があるならば、観ておいてこれっぽっちの損もない一幕だと思います。 

***

一番の見せ場である首実検のところは、無言でいろいろなことが進みますが、
最低限、高綱の策略(=
我が子・小四郎を犠牲に、敵には自分が死んだと見せかけておいて油断させるという作戦)が分かれば大丈夫かと。

つまり「高綱の首」とされている舞台上の切り首は、もちろん贋物
しかし
これを本物と思わせるために、小四郎(=高綱の息子)はこの首に「ととさま」と呼びかけ、自らも腹を切るのです。 


■私はこう見た!ここが好き!


上述の通り、「盛綱陣屋」において一番有名かつ見どころとなるのは「首実検」の場面だと思います。
盛綱片岡仁左衛門さん)がセリフを一切言わずに、表情だけで自分の胸の内を表現していきます。

「討死した」とされている高綱(※超重要人物ですがこの場面には登場しませんは、京方の武士であり、鎌倉方の盛綱からすれば敵です。
しかし同時に高綱は、盛綱の大切な実弟でもあります。

智略に優れた武将であるために、この高綱を落とせば鎌倉方は勢いづくというもの。
当然ながら狙われやすい高綱には、影武者も多いわけです。
鎌倉方の実験を握る北条時政中村歌六さん)は、高綱の顔をよく知る盛綱に、この首が本物であるかどうかを確かめさせます。

本当は弟の首など見たくない盛綱。丁寧に首を扱う様子、表情にも哀しみが滲みます。

盛綱が首桶を開けた瞬間、「ととさまか、口惜しかろ」と声を上げ、自分も後に続こうと走り出て、止める間もなく切腹する高綱の息子・小四郎中村勘太郎くん)。

しかし先述の通り、盛綱が確かめたこの首、実は高綱のものではない贋首なのです。

弟が死んでいないと分かり、盛綱はひとまず大きく安堵の様子。敵とはいえ、やっぱり弟に無駄死にしてほしくはありませんよね。

しかし、ここで盛綱は気付く。
隣で腹を切っている小四郎はどういうことだ、と。

小四郎、この盛綱の首実検の様子を、腹に刀を立てたままずっと見つめているのです。
贋首であることは、最初から小四郎には分かっているはず。
どうかこれを贋首と言わないでほしい、高綱と言ってほしいと、必死に目で訴えるのです。

状況を考え合わせて、全てを理解した盛綱。
声には出さないけれど、小四郎としっかり目を合わせます
「全部分かった、よくやった」とでも言うように。

この場面、二人は叔父と甥でも、敵味方でもなく、年齢その他を超越して、武士と武士の関係なのではないかと思います。
そう思わせるような緊張感と必死さがありました。

一連の胸の内、二人の間のやり取り、セリフがないにも関わらず手に取るように届いてきます。
文字通り命をかけた小四郎の計略が盛綱に伝わった瞬間は、どうにも涙がこらえられませんでした。
劇場には音一つなく、誰もが息を詰めて、この場面の二人の心情を追っているようでした。

そして、盛綱は「高綱の首に相違ない、相違ない」と、自らの立場が危うくなるにも関わらず、贋首を本物と偽るのです。

盛綱が首を前にして過ごす時間、偽りを本物と言おうと決心するまでの過程、とても丁寧できめ細かい。
一人の人間の人生を背負う、歌舞伎というものの重みを感じました。

***

この首実検の前に、小四郎が一度、死ぬことを拒む場面があります。
祖母にあたる微妙片岡秀太郎さん)が、盛綱から「小四郎を討ってほしい」と頼まれ、小四郎に切腹を勧める場面です。
(これ、盛綱が悪意を持ってそんなことを言っているのではなく、弟・高綱を武士として立たせるために、致し方なく言っているのです。)

微妙ははじめ、そんなことはおくびにも出さず、怯える小四郎に「(自分は)そなたの婆じゃ」と声をかけます。

このセリフがとても優しくて、きっとそれは微妙の本心に違いないのですが、これから愛する孫を死に向かわせなければならない、ということが分かって聞くと胸が痛みます。

この場面の最後、死ぬ前にせめて母に会いたいとせがむ小四郎と、本当は小四郎を殺したくない微妙は、抱き合って泣く
戦乱の世の中で一家の中に敵味方がいるのは、なんて辛いのでしょう。
何もなければただの祖母と孫であったはずなのに。
小四郎だって、こんなに命の淵に立たされなくても良かったはずなのに。

この時代に生きる人々の、少しずつ重ねてきた無理が、この抱き合って泣く場面で一気に崩れてしまうようで、本当に切なかった。

***

上の場面で、縛られている小四郎が逃げようとしているのではないかと微妙が一度疑ったことを受けて、
小四郎は死に際、微妙に向かって「(自分は)縛られても卑怯じゃない」と言うのです。

その健気さに、どうしようもなく泣けてしまう。
そうだよ、あなたはこれ以上ないくらい立派だったよ。。

瀕死の小四郎に駆け寄って泣きに泣く母・篝火中村雀右衛門さん)にも胸が痛みました。

篝火は、割と早い段階から、一部始終をずっと近くで聞いています。
近くにいながら、何もできない。我が子の置かれた危機的状況を、自分ではどうすることもできないのです。

全てが終わったあとで、我が子の一番近くにいてあげることしかできない。

上手く言えないのですが、私はこの芝居の中で、一番この篝火という女性が好きだったかもしれません。

***

ずっと誰かの策略が動いている張り詰めた芝居の中で、唯一肩の力を抜けるのが注進の場面。
信楽太郎中村錦之助さん)と伊吹藤太市川猿弥さん)という二人の注進が、花道から駆け込んできます。
この二人、とってもキャラが濃いのです。笑

信楽太郎は「暴れの注進」と言われる、とは錦之助さんのお話(筋書p.55下段)
「暴れ」の名に違わず、とにかくびしびし動きます!
キレが良くて、観ていて気持ちが良かったです。

一方 伊吹藤太の方は、三枚目的なキャラクター。
丸っこい雰囲気の拵えで、汗を拭きふき語り出します。
しかしこちらもめちゃくちゃ身軽に動くんですよ、観ていてとても楽しいのです。
最後に陣笠を忘れてしまうあたりも軽妙で、ちょっとこういう場面が挟まれると何だか安心しますね。

***

最後に、印象に残っている細かいところをぽつぽつと。

盛綱の裃を直す仕草とか、膝詰めで相手ににじり寄ってきりっと睨むところとか、一つ一つの動作が美しくて格好よくて、目に焼き付いています。
2年前の年末に観た別の演目でも、仁左衛門さんの袴のさばき方に惚れ惚れしたのを思い出しました。

小四郎、最初に出てきて周りを窺うところ、縛られた状態での階段の上り下り、微妙の刃を避けるところなど…形がとてもきれいだったのが印象的です。
勘九郎さんと連獅子をやる日もそう遠くないのでは!と勝手に期待しております。笑

寺嶋眞秀くん小三郎、立派でした!
きっとあの衣装は重いと思うのですが、大人たちに混じって長い間微動だにせず、花道を一人で引っ込む歩き方もしっかりした足取り。
来月は全然違う役ですが(「実盛物語」の太郎吉。四月の物知らずはこちら、あの小三郎が今度はどんな太郎吉になるのか、とても楽しみです。

■まとめ


初めて「盛綱陣屋」を観たのは、何年か前。
地上波の何かの番組で、仁左衛門さんがこの演目を語っていらっしゃったのでした。

そのころはまだ歌舞伎にさほど興味があったわけでもなく、へぇ、と思って観ていたのですが、それでも表情だけで演じていく首実検の場面は印象に残っています。

それを、少し歌舞伎を観るようになって、改めて同じ仁左衛門さんの盛綱で観られたのはとても幸運なことと思います。

正直、武士の価値観は私からすれば分からないことだらけ。
いかにいい死に方をするかとか、そのために必要な犠牲とか…何か他の方法でどうにかならないものか、とどうしても思ってしまう。

「我が子への想いゆえに、高綱がみっともない死に方をするようなことがあってはならない」と、甥を犠牲にしようとする盛綱の考え方も、いまいち理解できないところです。

しかし、そういうことを一切抜きにして、ストレートに刺さる部分がとても多かった
冒頭にも書きましたが、本当に「何だか」泣けてきてしまう、という感じだったように思います。

この芝居をちゃんと観ておけて良かった、と心から思っています。
 

「雷船頭」(奇数日)観てきました!〜三月大歌舞伎(歌舞伎座)夜の部 初心者の感想


偶数日に観てきた「雷船頭」ですが、とても面白かったので奇数日にも行ってみました!

市川猿之助さんの女船頭に、市川弘太郎さんの雷。
偶数日とは演出も雰囲気も違い、興味深かったです!

【関連記事】「雷船頭」(偶数日)初心者はこう楽しんだ!〜三月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想

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劇場横のポスター。残念ながら「雷船頭」の写真はないのですが。笑

真っ暗な舞台がパッと明るくなり、真っ先に船頭が目に飛び込んでくるのは、偶数日の方と同じですが、
女船頭市川猿之助さん)は裾を引き、足元は裸足。ずるっとした着方がどこかあだっぽい雰囲気です。

女船頭の一人踊りの後は、市川弘太郎さん)の登場。

弘太郎さんの雷は、芝居っ気が強くて楽しかったです!

体の動きにわくわくするような愛嬌を感じるのが鷹之資さんの雷だとしたら、
ちょっとした動作や表情に見える役の雰囲気が、愛らしさに満ちているという印象でした。
どちらも明るい気持ちになれて、とても好きです!

雲から落ちたあとの「あれ?あれ??」みたいな表情、雲がないことに気付いた「あっ!!!」みたいな表情…
「?」「!」が溢れる雷でした。笑 
雲を取り戻そうとして跳ぶところ、より高く!という気持ちが足のばたつき具合に表れているようで、思わずにんまり。
 
男の船頭の方で、おかめのお面をかぶって女の振りでやったところは、こちらはストレートに女船頭が女性らしく。
口説かれて一緒にしなしなしていた雷も面白かったし、女船頭に文字通り尻に敷かれるところも笑いが起きていました。
女船頭が手酌をするところ、座った時の崩れた角度が妙に色っぽい。

偶数日は雷と船頭が連れ立って吉原に行きましたが、奇数日はまさかの、雷が舟を乗っ取ります。笑
置いていかれる女船頭。そんな…

そして!ラストは澤潟屋色に染まります!!

男の船頭と最も違うのが、この最後の場面。
女船頭の方は、若い者との絡みがあります。

裾をからげた若い者たちが、ぽんぽんと身軽にとんぼを切っていくだけでも観ていて爽快なのですが、
そのあとに一斉に広げられる傘には「おもだかや」の文字が!
たくさんの「おもだかや」傘がくるくると回る景色、とても華やかでした!

女船頭は若い者たちをばったばったと転がし、きまるところはきりりと。
花道では酔いを残しつつ、「いい姉さん」な風情で帰っていくのでした。

このとき女船頭がちょっと見せる着物の裏、あれはもしかして澤潟屋の柄なのでしょうか…?

***

同じ曲でも、演出と役者さんによって、がらりと味わいが変わりますね!
どちらも観られて良かったです。

そもそも日本舞踊は、流派ごとどころか、同じ流派の中でもお師匠さんによって全然振りが違うということがままあるようです。
知っている曲、観たことのある演目でも、いろんなものを楽しむ機会がある、というのはありがたいことですね。
 
プロフィール

わこ

◆東京都在住╱地味目のOL (平成生まれ)。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇2年目、毎月何度か劇場に通う日々。
◆着物好きの友人の影響で、着物でのお出かけが増えてきた今日この頃。

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