ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

秀山祭「幽玄」の賛否両論に、歌舞伎初心者が思ったこと

すごく感激した秀山祭九月大歌舞伎・夜の部の「幽玄」、
見事に賛否両論だったんですね。。

自分の感想は自分の感想なんだからいいんだ!と思いつつ、

初心者って安易に歌舞伎の感想書きにくいんだよなぁ
という思いがずっとあったので、
これを機につらつらと考えをまとめてみました。

***

正直、役者や音楽や演出がどうとか、
歌舞伎座がどういう場所なのかとか、
その月の公演がどういう意味を持ったものなのかとか、

初心者にはよく分かりません
 
観始めたばかりだから、全ての演目が新鮮で、
どれを観ても素直に感動できるし、
逆にどれを観てもどこかしら分からない(笑)

眼目を見落としたり、気付けなかったりするときもあるし、
歌舞伎好きにとったら常識みたいなことに甚く感動することもある。

そういうもろもろの知識不足を自覚しているがゆえに、
感想を書くことは恥を晒すようで、気後れしてしまうのです。


***

今回の「幽玄」、私は圧倒的に「賛」側です。

私はただただ純粋にあの舞台演出を楽しみ、 
もともと大好きな打楽器というものを味わい尽くし、
大好きな打楽器と大好きな踊りの出会いを心の底から喜びました。
(本音を言えば、玉三郎さんの舞踊をもっと堪能したかった思いはありますが…)

歌舞伎や能に詳しい、知識の豊富な方から見たら、
いろいろ思うところがおありなのかもしれません。

確かに私は歌舞伎初心者で、
劇場の意味も秀山祭の意味も深く考えておらず、
舞や踊り、演奏の本来あるべき姿も分からない。

でもそれは、舞台をつくる方々が
十分すぎるほど十分にご存知
なはずです。
生半可なお気持ちで舞台に立たれる方は、
誰一人としていらっしゃらないと思います。 

だから初心者の自分は、
細かいことは気にせず
まずは安心して楽しめば良い
のかな、と。

辛口の感想は批評ができる方にお任せして、

今の自分がその舞台をどう感じたかに素直になる。

純粋にその舞台を味わい、楽しんだのなら、
何を恥じることがあるでしょう。

***

初心者が気後れして口をつぐんでしまったら、
歌舞伎はいつまでも「ハードルが高い」存在から
抜け出せないのではないでしょうか。

もちろん全員が全員讃美してしまったら
それはそれで歌舞伎の未来はないと思いますが、

初心者こそ、まずは流されずに自分の感想を持ちたいものです。



というわけで、

近々「幽玄」の感想、アップします。笑



 

文楽「夏祭浪花鑑」を観てきました~観劇の感想~

以前、この記事で触れた「夏祭浪花鑑」

歌舞伎の方を観た直後に、
これを文楽で観てみたいと直感のように思った作品です。

念願叶い、国立劇場・九月文楽公演の楽日に行ってまいりました。

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いやもう、素晴らしかった

全編通して、情と心意気とどうしようもない因果とに
何度も目頭が熱くなりました。

***

圧巻だったのは、やっぱり「長町裏の段」
だんじり囃子が聞こえる中、
団七が、泥にまみれながら舅である義平次を手にかける場面です。 

義平次の執拗な嫌がらせと、子供じみた言いがかり。
それを「舅も親」と懸命に飲み込もうとする団七。
それでも悔しくて悔しくてならないのが、
「こなたは、こなたは、こなたは……!」という詞章で痛いほどわかる。

その後の泥沼義平次殺しの場面は、
語りは何もなく、煽るような三味線とお祭りの賑わいだけ。

大音量で華やかに盛り上がるだんじり囃子と、
「チョーサァ!ヨーサァ!」という大勢の掛け声が、
ただでさえ凄惨な場面に息を詰めているこちらの心拍数をさらに上げていく。

ことが終わって神輿が去り、祭り囃子も遠のき、辺りが静まり、
殺してしまった義父に「南無阿弥陀仏」と手を合わせる団七。

一瞬の静寂ののち、

「八丁目、指して」

の「は」の一音でがばっと我に返る、あの勢い。

心臓わしづかみでした。

***

このお話で好きな登場人物は、何と言っても
徳兵衛とその女房・お辰。 

男伊達とその妻なのですが、
これが非常に肝の座った、よくできた者どうしの夫婦です。

お辰は一場面だけしか登場しないのですが、
一度決めたことを貫くために、自らの美しい顔を犠牲にする強さは
どの登場人物にも負けないインパクトがあります。

吉田簑助さんのお辰、どの瞬間を切り取っても美しく、絶品でした。

徳兵衛は、主人公団七と義兄弟の契りを交わした相手。 
最後の「田島町団七内の段」での侠客っぷりが見事です。

団七の舅殺しの罪を知った上で、
あの手この手で、自分が悪者になってでも団七を逃がそうとする徳兵衛。
なんと義理堅いことでしょう。 

最後の場面、屋根上で団七を捕らえるふりをして
銭を渡し、玉島へ逃げるよう囁く徳兵衛のかっこいいこと。

***

「田島町団七内の段」 では、団七の女房・お梶も泣かせます。

夫に親を殺されるという、あまりに辛い板挟みの立場のお梶。
それでも夫の罪を少しでも軽くするために、
三婦や徳兵衛の芝居にのってみせるのです。

この場面でのお梶の言葉が、どれも胸に刺さる。

この流れで言うのもアレですが、
歌舞伎の立廻りと違って人形だと
倒された者たちが容赦なくぽいぽい飛ばされていくので、ちょっと面白かったです。

***

文楽は、筋書を買うと床本がついてくるのがいいですね。
心に残った場面や、理解が不安だった場面を振り返るときに、とても便利。

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圧倒されっぱなしで、本当にあっという間に終わってしまった4時間半。

しばらくは何にも触れずに、この余韻に浸っていたい。

痺れました。

 

歌舞伎まわりの用語が基礎から分かった一冊『歌舞伎音楽入門』

Twitterでも何度か挙げた、先日見つけた本です。

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『歌舞伎音楽入門』(山田庄一、音楽之友社 昭和61年)

古書店での出会いだったので、
新刊書店で扱いがあるか分からないのですが、
 
何となく疑問に思っていたことがいろいろ解決した
ありがたい一冊でした。

***

この本のいいところは、
流れを俯瞰しながら理解できるところ。

歌舞伎の発生から現代に至るまでの大まかな流れや、
種々の音楽がどこに起源を持ち、どう発展したのかなど、
概観していけるので とても分かりやすかったです。

一つひとつ理解しながら進むと、
その場で調べた取って付けたような知識よりも身に付く感じがします。


歌舞伎を見始めたものの、
何となく分からないことがちょこちょこある。。

といった方や、

大まかに歌舞伎について知りたい!

という方にぜひおすすめしたい一冊です。


ちなみに私がこの本ですっきりしたのは…

*ふつうの会話っぽい芝居と聞き取りにくい芝居とあるのはどうして?
*今年10月の芸術祭『助六曲輪初花桜』は何で『助六由縁江戸桜』じゃないの?
*長唄、清元、常盤津って何が違うの?
*新内とか大薩摩とか、名前は時々聞くけどどんなもの?
*文楽の太夫と歌舞伎の竹本って違うの?

といったもやもや。 

こういうの、インターネットでも出てくると思うのですが、
なぜかこういうものを画面で読むのは億劫なんです。

多分、ネットの画面でパッと理解するような
情報量ではない
のでしょうね。

そういうときに、やっぱり本は重要だなと思いました。

じっくり時間をかけて、それなりの分量の情報を理解していく。

その作業に向いているのは、ネットよりも本なのだと思います。 

***

昭和61年の本ですが、古典芸能ということもあって
情報は古びていないと思います。

ただ、現代で憂えていることを当時から憂えていたのだな、とか

当時抱かれていた危機感を、今解決できないままなんだろうな、とか

そういう寂しさは感じました。

そして何より、

途中に出てくる女子高生の文章力が凄まじい。。

国立劇場で初めて歌舞伎を観た高一女子の感想文なのですが、
非常にしっかりとした日本語で綴られていました。
見習いたいものです。どうしたら高校生であんな品の良い文章を…
本筋とは全く関係のないところで
いたく感動してしまったのでした。。






プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇5年目。このご時世でなかなか劇場に通えず悶々とする日々。
◆着物好きの友人と踊りの師匠のおかげで、気軽に着物を着られるようになってきた今日この頃。

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