11月の歌舞伎座、吉例顔見世大歌舞伎の感想と見どころです。

DSC_0625

今回は昼の部・三幕目の「十六夜清心」

IMG_20181116_154511

一番右が清心・尾上菊五郎さん
最初にこのポスターを見たとき、美しさにうっとりしてしまいました。
いや、今もうっとりしています。この形…




■初心者でも楽しめるのか?


正直な話をすれば、
最初の方は眠かった!笑

というのは、
清元が心地いいのですよ…

澄んだ声でこぶしをまわしてゆったり流れるような音楽(語り)で、
そのリズムに身を任せるとつい眠くなるのです。

でも船が出てきたあたりから、後半は本当におもしろかった。 
 
川に落ちる場面の舞台の仕掛けなどは
「どうなっているんだろう?」と思いながら見ていました。 


■私はこう見た!ここが好き!


まず出だし、細かいところなのですが、
一人で出てきた遊女・十六夜中村時蔵さん)の草履の鼻緒が切れてしまう場面、
そのときに手慣れた様子でその場をしのぐ、
一連の所作がとても美しくて見入ってしまいました
十六夜一人がしゃがんだままのお芝居ですが、ぐっときました。

それから、何せ江戸っ子口調がかっこいい
中村吉右衛門さん演じる俳諧師白蓮(実は大盗賊)、
余裕しゃくしゃくで、ふくよかな感じというか。
只者じゃない感じが漂っていました。笑
十六夜にもたれかかられて、「悪くねぇなぁ!」という台詞が圧巻。

そしていちいち絵になるんですよ…

これまた細かいのですが、
最後の方で船頭を蹴飛ばす清心(菊五郎さん)の足に見とれた
何なのですかね、切れ味というか何というか…

***

清心はたぶん、本当はとっても弱いんだと思うのです。
そりゃぁお坊さんなのに色で追放されているんだから、推して知るべし。
泳ぎに長けていたせいで身投げには失敗するし、その後も度々死に切れない。 
(このあたりの清心、哀しいけれど可笑しい) 

小姓のお金を取るところまでは、(お金をとる時点で十分に悪いですが)完全に悪者になり切れていなかったはず。
それは、弾みで殺してしまった小姓の姿をちゃんと整えてあげる辺りから伺えます。

ところが、「しかし待てよ」という台詞から、声質もしゃべるテンポもがらりと変わる。
完全に腹をくくったのが分かります。

そこから先、清心の勢いはただただかっこいいです。
歌舞伎の悪はかっこいいんです。。 

最後のだんまりで、せっかくお互いに生きていたのに
決して十六夜と交わることができない終わり方が哀しいですね。
清心はもう十六夜の好いた清心じゃない。
十六夜も、もう清心のものではない。
この場面のだんまりは、そんな関係性がよく見える手法なんだな、と思いました。

 

■これさえ押さえれば楽しめます


以下に挙げるのは、観劇してみて
「初めてでもこれが分かっていれば楽しめそうだな」
「これを知っていればもっと楽しかっただろうな」
というのをまとめてみたものです。

★大体見せ場の前には、
「待ってました!」という掛け声がかかります。
この声を頼りに、舞台にぐぐっと注目!

物語は、愛し合う二人がともに心中に失敗し、
お互いそれを知らぬまま 全く別の道を歩くことになってしまう、
ということが分かれば問題ないかと思います。

先述しましたが、清心の「しかし待てよ」からの台詞が聞きどころ。
ここから清心、一気に性格を変えます
「待ってました!」が聞こえます
これは三人吉三のときにもほんの少しだけ触れましたが(この記事)、
河竹黙阿弥の作品とあって台詞のリズムも耳に心地よかった。

そして最後、清心が花道から去り、白蓮が舞台に残るところは
大向こうのかけ声がすごかったです。

(本当は最初の、十六夜と清心だけの場面の清元が聞きどころなのですが、
特に今回は歌舞伎俳優の尾上右近さんが
清元栄寿太夫さんとしてお目見え
だったので尚のことなのですが、
どうしてもこのあたりの音が気持ちよくて別世界に誘われてしまったので
私はもう何も申し上げることができないのでございます…)
 


■まとめ


夜の部は「楼門五三桐」、昼の部は「十六夜清心」で
吉右衛門さんと菊五郎さんという素晴らしいお二人が見られ、
11月はなんとも贅沢だなぁと思います。

「十六夜清心」は、とにかく細部まで美しかったな、という印象です。
ふとした瞬間の形にはっとすることが多かった。

全く知らないお芝居だったのですが、また一つ好きなものが増えました