今月一番楽しみにしていた予定かもしれない。笑

国立劇場の「文楽鑑賞教室」に行ってきました!

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プログラム表紙は「菅原伝授手習鑑」の松王丸です。 松のお着物。
 
とってもとっても楽しくて素晴らしい時間だったので、
順を追って感想を語ります!!
 
その前に…

◆文楽鑑賞教室とは◆


太夫・三味線・人形それぞれの魅力を実演を交えて紹介する「解説 文楽の魅力」と、文楽を代表する名作を合わせて観ることができる企画です。
基本は初心者向けですが、文楽好きの方も結構いらしているようでした。
以下、ちょっとした情報をまとめておきます。

■公演プログラム
無料でいただけます!そして内容も十分充実しています!!
あらすじと配役はもちろんのこと、使う首(かしら、人形の顔の部分)、床本(台本)まで記載。さらに太夫・三味線・人形の解説も載っています!

■イヤホンガイド
450円+保証金1,000円で利用できます。(この1,000円は利用後に返金)

■字幕
舞台上方中央に一箇所、字幕が出ます。観劇の助けになります。

■服装
洋服の方もたくさんいらっしゃいましたし、着物の方は紬や小紋、アンティーク調の方まで比較的自由だった印象です。
 






1.団子売


私はとにかくこの曲が好きなんですー!
もう幕が開く前から一人でテンションが上がってしまって、
曲が始まるとまたつい体が動きそうになってしまって。笑

楽しく始まり、伸びやかな部分を挟んで、華やかに楽しく終わる、舞踊中心の演目です。

その名の通り、町中で団子を搗きながら売り歩く夫婦・杵造お臼(名前も面白い)が、おめでたい歌詞に合わせて踊ります。 

太夫四人、三味線四人という編成。
太棹三味線のあの独特な音がこれだけの厚みをもって届くと、体まで響いてわくわくしますね!

最初は夫婦が二人で餅つきの様子を見せ、
男(杵造)の一人踊り、女(お臼)の一人踊り、と続いて、
最後は二人で一緒に引っ込んで幕です。

この一人踊りがそれぞれ良いんですよ!

まず杵造の方は、ゆったりとした音楽。
途中でひょうきんな格好で止まったりして楽しい

ここの太夫さんは基本一人で歌う(でいいのでしょうか?これもやはり「語る」?)のですが、合いの手(「とこせ、とこせ」というところ)は全員です。
良い声が四人揃うと圧巻です。

そしてお臼の一人踊り、ここから曲調ががらりと変わります。
囃子が入り、歌も三味線も全員参加で、テンポも上がって、本当に華やか!
私がこの曲で一番好きなところです✨ 観ている方もつい音楽に乗ってしまいます。

そして、この楽しい気分のまま二人が引っ込み、幕となります。

この曲を生で聴ける嬉しさに、数日前からうきうきしておりました。笑


2.文楽の魅力(解説)


冒頭にまとめましたが、ここでは<太夫><三味線><人形>の方が、それぞれ実演を交えながら解説してくださいます。
Bプロのご担当は、豊竹靖太夫さん(太夫)、鶴澤友之助さん(三味線)、吉田玉翔さん(人形)。

どこをとっても非常に興味深いお話だったのですが、特に印象に残っていることを二つ。

まず、三味線の役柄による弾き分けのお話。

女性の登場によく使われる旋律があるのですが、その女性が娘なのか姫なのかによって、弾き方を変えるそうです。
娘なら、小走りに待ち合わせに向かうような感じ。
姫だと着物を引きずっているのでそうもいかず、自然と弾き方もゆっくり、高貴な感じになります。
知ってから文楽を観ると、一層楽しめそうです。

それから、人形を遣うときのサインのお話。

一体の人形を三人で遣うのですが、動きを合わせるのに声で合図を出すわけにはいきません。
そのため、主遣い(かしらと右手を遣う人)が、人形の首と肩、それからご自身の腰で、左遣い・足遣いにサインを出すのだそうです。

実際、その場で玉翔さんがやったどの動きにも、お二方が完璧に合わせていらして感激でした!

その他の場面においても、とにかく人形さんたちの息ぴったり具合がさすがの一言。笑

全体を通してみなさまとてもお話上手で、笑いどころがたくさんでした!
貴重なお話をこんな気軽な雰囲気で聴けるのは、何ともありがたいことですね😁


3.菅原伝授手習鑑(寺入り・寺子屋の段)


文楽といえば!というくらい有名な演目。文楽三大名作のひとつです(他二つは「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」)
テレビで観る機会も比較的多いのではないかと思います。

忠義と親心との間で思いを語る松王丸・千代夫婦にぼろ泣きでした…

ものすごくざっくりと筋をたどりながら感想を。
松王丸については思いが強すぎるので、別枠で語りますね。笑

***

※途中 現代語にしてある台詞は、筆者の意訳です。 

武部源蔵夫妻が営む寺子屋に、小太郎という男の子が入門してくるところから始まります。

この場面、手習子(寺子屋の生徒)たちがいたずら盛りでじっとしている瞬間がほぼなく(笑)、微笑ましいです。

さてこの小太郎、母親・千代に連れられてやってきます。
自分をひとり、寺子屋に残して出掛けようとする千代に、小太郎はすがる。
そして千代がそれを叱りつけるという、現代でも幼稚園なんかでよく見る光景なのですが、

後から考えるとここだけで泣けるくらい辛い場面なんですよね。。

この家に匿われている菅秀才菅丞相の息子)が敵方である藤原時平に追われているため、
菅秀才の身代わりとして、この小太郎の首が差し出されるのです。

そのことを心に決めた源蔵夫婦の元に、時平方の春藤玄蕃松王丸がやってきます。
菅秀才の首を出せ、というのです。 

この玄蕃登場時、三味線の迫力に「ついに玄蕃が来てしまった…!」とこちらまで冷や汗。笑 

まずは寺子たちの中に菅秀才が混ざっていないか、手習子たちが一人ひとり顔を確認されます。
このシーン、手習子たちの見せ場ですね~!
一人ひとりとても愛くるしい。一人だけ年長者の「よだれくり」も楽しいです。笑

手習子全員の確認が終わると、いよいよ菅秀才の首を差し出さなければならない場面。

実際に殺されるのは菅秀才ではなく、先ほど入門したばかりの小太郎です。

この場面は、とにかく音が凄い。緊迫感が凄い。
語りと三味線が怒涛の勢いで、思わず体に力が入ってしまいます。舞台上の緊張が伝染します。

そして松王丸の前に差し出される、小太郎の首。
菅秀才の顔を見知っている松王丸のこと、身代わりで違う首を出したとばれたら、源蔵夫婦は一巻の終わりです。

一か八かの源蔵夫婦。

しかしどうしたことか、松王丸は「菅秀才の首に間違いない」と言い渡すのです。

差し迫った危機はひとまず脱した源蔵夫婦でしたが、
ここでまた新たな試練が訪れます。

小太郎の母、千代が帰ってきてしまったのです。

「息子を迎えに来ました、やんちゃしてご迷惑をかけてるんじゃないかしら」
と、どこにでもあるような母親のひと言。

全てが終わってしまったあとに聞くと、何と切ないんでしょうね。

事が露見しては大変と、千代をも切りつけようとする源蔵。
しかし、ここからまた事態は急展開を見せます。

実はこの千代、はじめから息子を菅秀才の身代わりにさせるために寺入りさせたのです。

再びこの家にやってきた松王丸も、実は千代の夫であり、小太郎の父。
時平に仕えてはいますが、菅丞相に受けた恩に報いたい一心で、我が子を身代わりに立てたのです。

ここから先、もう床本を読んだだけでも泣いてしまう…

先ほどの寺入りの場面についての千代の、

「いつにない後追うたを、叱つた時の、叱つた時の、その悲しさ」

という台詞、 

我が子・小太郎が身代わりとして最期を迎えたとき、笑って潔く首を差し出した、という様子を源蔵から聞いた松王丸の、

「アノにつこりと笑ひましたか、(中略)出かしおりました。利口な奴、立派な奴、健気な八つや九つで、親に代はつて恩送り」

という台詞。 

松王丸は、「息子が笑顔で身代わりとなった」と聞いて、一人、しばらく笑うんです。
笑うしかないんです。じゃないと絶対、大きな声で泣いてしまうに違いない。
しばらく笑ったあと、涙を拭うのです。 

このあたりがもう、もう……。

最後の最後、息子である小太郎の野辺送りのときの詞章は「いろは送り」といって、いろは歌になぞらえて亡き子への思いが語られます
寺子屋の場面に合わせたものですが、寺子屋に一日といることができなかった小太郎を思うと、悲しいですね。

***

【松王丸のこと】


私はこの公演、桐竹勘十郎さんの松王丸が観たくてチケットを取ったようなものでして。
歌舞伎にしても文楽にしても、極力フラットに観ようとは心がけているのですが、勘十郎さんはちょっと避けられません。笑 

やっぱり観てよかった。

松王丸の登場の場面、病みついているという設定もあって、首くらいしか動かさないのですが、
もうそれだけで周りの登場人物たちを圧倒するんです。

手と、首と、胸の動きの確かさというか説得力というか…
安易に言葉にしたくないくらいですよね。

どの場面だったか、小太郎が自分の息子であるのを明かしたあと、その場にいない我が子をいとおしむ表情とか、
「アノにつこりと、、」のあたりでの笑い泣きとか、
どうしようもなかったです。

初めて観た文楽で勘十郎さんの人形に受けた衝撃は、やっぱり間違っていなかったな、と毎回思います。 
この記事で「知盛」を遣っていらっしゃった方です。)


4.まとめ


「鑑賞教室」は初心者向けですが、最初の文楽にこんな豪華なものを観ることができたら最高です。

楽しい舞踊と気さくで分かりやすい解説、重厚で濃密な名作。
一度でこんなに楽しめる公演はなかなかないと思います。

文楽に興味があるけれどまだ行ったことがない、という方は特にぜひ!ぜひ行ってみていただきたい公演でした!!