ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

初心者

【歌舞伎初心者向け】ざっくり予習する「実盛物語」


2019年4月の歌舞伎座で上演される「実盛物語(さねもりものがたり)

一度観てみてとても面白かったのですが、予習なしだと理解するのはきつかったのでは、と思います。

だって分かりにくいんですよ、途中で立場が変わっちゃったり「実は俺も源氏方なんだよ」みたいな平家がいたり…。 

そんなわけで、今回は「出てくる人順に」「源平の構図を見やすく」ということに重点をおいてまとめてみます。
話の筋が最低限追えるところのみを書いているので、細かい登場人物など、割と省いています。

少しでも観劇前のご参考になれば…

 

本題の前に…
【最重要アイテム・源氏の白旗】

この場面で最も重要なのが「源氏の白旗」。白い巻物のように見えます。初っ端でおじいさんと子供が持って、花道から出てくるものです。
白旗は源氏のシンボル。今は平家に押され気味な源氏方にとって、守り抜かねばならない大事なアイテムなのです。

・大まかなあらすじ

1.最初


場面はお百姓の九郎助さんのおうち。
舞台にいるのはみんな源氏方と思って問題ありません。
こんな人々が出ています。(グレーアウトは家系図用に記載、この場面には出ていません)
 
葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万
   |
  太郎吉 

・九郎助(くろすけ、おじいさん)と太郎吉(たろきち、子供)は、花道からの登場です。源氏の白旗を握りしめた片腕を持って出てきます。
 
・最も立場が上なのは葵御前(あおいごぜん)。源氏の武士である木曽義賢(きそのよしかた)の子を身ごもっていますが、義賢はこの前の場面で息絶えています。

・グレーアウトされている小万(こまん)ですが、この前の場面で平家方との乱闘ののち、源氏の白旗を死守するために逃れたまま、行方が分からなくなっています。 

2.実盛と瀬尾十郎の登場


花道から出てくる涼やかな武士・斎藤実盛(さいとうさねもり)と、態度が大きくてあんまり印象のよくない(笑)瀬尾十郎(せのおじゅうろう)

どちらも平家方です。

こういう構図が出来上がります。

【源氏方】

葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万
   |
  太郎吉 

【平家方】

斎藤実盛、瀬尾十郎

木曽義賢の子を妊娠中の葵御前を追い、その子が男の子(=源氏の後継ぎ)だったら殺そうということでやってきたのです。

困った九郎助、なんと先ほどの片腕を「これが産まれた子供です」と差し出します。とんでもないな。
しかしこの片腕に、実盛は思うところがありました。 

3.実盛の物語


実は、実盛はここに来る前に、ある女性の腕を切っています
その女性こそ、上の図でグレーアウトされている太郎吉の母・小万(こまん)
そこにはただ「平家だから源氏を斬った」というのではない事情がありました。

実は、実盛は元は源氏方。今でも源氏の方に心を寄せています。

平家に囲まれ絶体絶命の小万が、命懸けでこの白旗を守っているのを見て、
せめて白旗だけでも救おうとやむなく彼女の腕を切り落としたのです。

※「物語」はお話の意味ではなく、文字通り「何かを物語る」ということです。 
 
【源氏方】

葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万
   |
  太郎吉 

【心の中は源氏な平家方】

斎藤実盛

【平家方】

瀬尾十郎

4.小万の登場


折しも花道から運び込まれる小万の死骸。太郎吉のお母さんです。

最初に出てきた片腕を死骸につなぐと小万は一時的に生き返るのですが、白旗の無事を知ると、いよいよ息絶えてしまいます。

小万は九郎助夫婦に育てられましたが、実子ではなく拾い子です。
拾われたとき、刀と、平家の子である旨の書き置きがあったといいます。

あれ…小万、源氏方だったんじゃなかったのか…?

***

ここで、葵御前は男の子を出産。
九郎助は太郎吉を、産まれた子の家来にしてほしいと頼みますが、
小万の出自が明確でない以上(まして敵方・平家の子であるわけなので)、安易に家来にはできないと拒否されます。

5.瀬尾の本心


一回捌けていた瀬尾ですが、ここで隠れていたところから出てきます。
そしてすでに死んでいる小万を蹴るという悪行に。

これを見てぶちギレた太郎吉、何と母の刀で瀬尾を刺します。強い。

しかし、これこそが瀬尾の目的だったのです。

実は、瀬尾は小万の実の父親
太郎吉に「平家を討った」という手柄を立てさせて、義賢と葵御前の間に産まれた子の家来にさせようとしたのです。

瀬尾ー!何ていいやつなんだ!!

つまるところこういう構図。

【源氏方】

葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万(平家の子だが源氏方)
   |
  太郎吉 

【心の中は源氏な平家方】

斎藤実盛

【平家方】

瀬尾十郎
  |
 小万(平家の子だが源氏方)


6.実盛の約束

「親の敵」と実盛に迫る太郎吉ですが、何せ太郎吉は幼い。
実盛はいつか太郎吉に討たれようと約します。
そして太郎吉に優しさを見せつつ、馬に乗って去っていきます。


・見どころ


・太郎吉のかわいさ

瀬尾や実盛相手に勇みたつ様子を見せながらも、やっぱり愛嬌抜群、無邪気でかわいい太郎吉。

葵御前の出産をどうしても覗きたくて、こっそり見にいくたびに実盛に怒られるところとか。
実盛が馬に乗るのが羨ましくてたまらないところとか。

子役の良さを全面に引き出すタイプの役だと思っております。

・実盛の語り

題名にもなっているくらいですから、最大の見せ場だと思います。
竹本の語りに合わせて身ぶりを交えつつ、小万の最期の様子を語ります。
 
役者さんの藝を堪能するところだと思っています。

・瀬尾の最期

あんなに嫌らしい感じだった瀬尾ですが、だからこそ本心を知るとたまらない。

役者さんにもよるそうですが、太郎吉に斬られる場面では、座った状態から宙返りをする「平馬返り」という大技が見られることも。

・小万の蘇生

ちょっと不気味なところでもあるんですが、切られた片腕を体にくっつけると、小万はとても自然に生き返ります。
見せ場というほど大きな盛り上がりはないかもしれませんが、インパクト抜群の場面です。 夢に出そう。


・まとめ


「実盛物語」、出だしにいきなり「琵琶湖で釣り上げた」と片腕が出てきて度肝を抜かれるのですが、
武士の心のかっこよさ、子供のかわいさなど、見どころたっぷりです。

今回は片岡仁左衛門さんの実盛。
もう実盛をやるのは最後かもしれない、とのこと。
当たり役のお一つのようですので、絶対に観に行くつもりです!
 

【関連記事】
物知らずが行く歌舞伎#8〜四月大歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び
平成中村座に行ってみた!昼の部 観劇の感想編2018(前回「実盛物語」を観たときの感想です)
 

気になる演出ピックアップ!#2 所作板


地味なシリーズ第2弾は、またまた地味なところを突いて「所作板(しょさいた)」を語ってみたいと思います。

歌舞伎を観にいくと、幕間に二人一組で何やら木の台のようなものを幕の中から運び出し、花道に敷き詰めていく光景が見られるかと思います。
 
あの敷かれているのが「所作板」で、所作事(しょさごと、歌舞伎舞踊)のときに使います。
(日本舞踊の公演でも敷かれています。)

檜でできているこの所作板(所作舞台、置舞台などとも)『日本舞踊ハンドブック』(藤田洋、三省堂、2010年)によると、
・汚れた舞台の上に敷くことで、舞踊をより美しく見せる
・足拍子を踏むときの反響音をきれいに出す
・お滑り(足を摺るように伸ばす技法)が舞台で引っかからないようにする
・照明を美しく反射させる

といった効果があるようです(p.39)。

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私がなぜこの「所作板」を語りたいのかというと、本にも書いてありましたが、
何しろ音がいいんですよ!!音フェチにはたまらない。笑

ちょっと下駄で出てくる音、調子よく足を踏む音…ときめきます。

踊りの中で、この「音」の要素って、実はとても大きいと思うのです。

特に踏む音の大きさに驚く友人が多くいます。
かくいう私も「こんなにしっかり踏んでいるんだ!」と、初めて大きな公演を観たときには衝撃でした。
緊張感のある場面で踏む音が大きく響くと、ぐっと迫力が増します

踊りによっては、軽快なリズムで足拍子を踏むことも。
「供奴」のように一人でとんとこ踏む場合もあれば、二人で細かくリズムを刻むこともあります。
結構複雑なリズムで踏んでいたりして、その瞬間に正確に音を出せるって凄いな、と毎度思います。

この足拍子は、明らかに「音を聞かせる」ものではないでしょうか。
言ってしまえば、見ている分にはただ踏んでいるだけなので。笑
でも音楽に合わせてこの踏む音が調子よく入ってくると、たまらなく楽しくなってくる。

そんなとき、踊り手の足元ではこの所作板が大活躍しているのです!

(踏む音の楽しさについては、日本舞踊の音について書いたこの記事でも語っています

***

以前、尾上菊之助さんのドキュメンタリー番組で、この所作板を選ぶ場面がありました。
 
下駄でタップダンスみたいなことをする「高坏」という演目でのことだったのですが、この所作板、音や滑りが一枚一枚違うんだそうです。
並べた板の上に実際に立ってみながら、どれが合うのかを選んでいらっしゃいました。 

普段の舞踊や歌舞伎の公演で、どれだけこだわって所作板を選ぶことができるのかは分かりませんが、
きっと役者の方、舞踊家の方たちは、そのときの所作板の特徴を理解しながら踊っていらっしゃるのでしょうね。 

そんな裏話を知ってしまうと、職人好きの私としては非常にわくわくするのです。笑

***

先日、この所作板を敷くところをとても近くで見る機会がありました。

間近で見ていると、すべて敷き終わったあとに繋ぎ目のところを念入りに確認しているのが分かります。
板同士の間に段差や隙間があって、引っ掛かりでもしたら大変ですもんね。
裾を引きずる衣装は特に足元が見えませんし、たとえそうでなくとも常に下ばかり見ているわけにもいきません。
 
あの気持ちのいい音の背景には、安心して踊れるための心配りがあるのだということを、改めて学びました。

***

そんなわけで、花道に所作板が敷かれ出すと、私はいつもテンションが上がっています。笑

地味ではありますが、これがなくては舞踊の魅力も半減してしまうであろう「所作板」、ぜひ注目してみてください!

 

物知らずが行く歌舞伎#9〜團菊祭五月大歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び

この企画は、知識が足りないゆえに
歌舞伎への第一歩を踏み出せずにいる方
の背中を押すべく、
歌舞伎歴1年半の初心者が何を知っていて、何を目的に、
どのチケットを買うのか
をさらけ出す企画です。
初心者の無知っぷりと、この1年半でちょっと学んだことを、
背伸びせず、恥ずかしがらずにお伝えできればと思っています。

物知らずシリーズ第9段は團菊祭!

去年の團菊祭は、まだ人生5回目くらいの歌舞伎観劇でした。
こういう名前のついた公演が巡ってくると、自分の観劇経験が少しずつ積み重なっているのが分かって何だか嬉しい。

そして!注目すべきは七代目尾上丑之助初舞台」!!
尾上菊之助さんのご子息、寺嶋和史くん(5)が「尾上丑之助(うしのすけ)」を襲名します!

和史くん改め丑之助くんは、おじいさまに尾上菊五郎さんと中村吉右衛門さんを持つという、とんでもなく豪華な家系図。
将来が楽しみですね!

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■歌舞伎座 團菊祭五月大歌舞伎の演目は?


5月の歌舞伎座。
演目は以下の通りです。

【昼の部】
一.寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)
二.歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
三.神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
 め組の喧嘩
 品川島崎楼から神明末社裏まで

【夜の部】
一.鶴寿千歳(かくじゅせんざい)
二.絵本牛若丸 (えほんうしわかまる)
 七代目尾上丑之助初舞台
三.京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)
 道行より鐘入りまで
四.曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)
 御所五郎蔵


「神明恵和合取組」も読めませんが、ベストオブ読めないは「曽我綉俠御所染」に進呈したいと思います。
この辺り、別に「昔の人は読めた」とかそういう話ではないのではないだろうか。。 


■各演目について、現時点での知識


*そもそも知っている演目はあったのか?


【昼の部】

「寿曽我対面」は、お正月から度々やっている「曽我物」の一つですね!
観たことはないのですが耳馴染みは非常にあります。
 
「勧進帳」もとっても有名ですよね。同じく「名前は何度も耳にしながら、実際には観たことがない」といういつものパターンです。
 
「め組の喧嘩」も同じく名前のみ。確か以前シネマ歌舞伎になっていたので、予告編を観たのだと思います。

【夜の部】

「京鹿子娘道成寺」が出るんですね!!
言わずと知れた舞踊の大曲、という印象ですが、通しでちゃんと観たことはなかったのではないだろうか。
 
そして他のは全く知らないという。そういうこともある(そういうことの方が多い)


*現時点で知っていることは?


◇寿曽我対面

「曽我十郎・五郎の兄弟が、小林朝比奈の手引きで親の敵・工藤祐経と対面する」という場面だと認識しています。←この1年で得た知識

この曽我兄弟の敵討ちの話はいろんな演目にアレンジされているようで、昨年10月にも上演された「助六」もそうなんですね!(感想はこの記事
舞踊の振りにもしばしば入っている気がします。
知っておくと、他の物を観るときにも楽しさが増しそうです。

◇勧進帳

これも有名な演目ですよね。非常にうろ覚えですが…

「頼朝勢から逃げる義経と弁慶一行」vs「安宅の関を守る富樫」との、関を通すか通さぬかの攻防で、
弁慶がこの富樫を突破するために、その場のアドリブで勧進帳を読み上げたり、主である義経を打擲したりするのではなかったか。。

富樫はこれが義経と弁慶であることを分かっていつつ、その弁慶の気迫に負けて、ついに関を通す、という流れだった、はず、です。笑

弁慶が花道を「飛び六方」で捌けていくのを昔テレビで観たことがあって、「これぞ歌舞伎!」という印象でした。

『窓際のトットちゃん』にも出てきます。プチ情報。

◇め組の喧嘩

ちゃんとは知らないのですがあれですよね、
鳶vs力士で大喧嘩になるやつですよね(ざっくり)。

杉浦日向子さんの『一日江戸人』(新潮文庫、平成17年)によれば、江戸時代において、力士はモテる職業だったとか。

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「火事と喧嘩は江戸の花」という言葉もあるし、もう江戸っ子のためにある芝居としか思えません。笑

め組の親分は尾上菊五郎さん
菊五郎さんの江戸っ子が大好きです。さっぱりしていて、張りがあって。
何だかこう、頼りたくなっちゃうというか。

◇京鹿子娘道成寺

もうこれは名前だけならずっと知っていたレベルで有名なやつです。

確か、女人禁制の道成寺に白拍子花子(実は清姫の亡霊)がやってきて、舞を舞いながら、所化(僧)たちの隙を突いて鐘の中に飛び込み、恋に狂った蛇体となって現れるという流れ。

僧・安珍(あんちん)に恋をした娘・清姫(きよひめ)が、安珍に裏切られた恨みから彼を追い、安珍が逃げ込んだ道成寺の鐘に蛇体となって巻き付いて焼き殺してしまうという、非常に物騒な伝説に由来しています。

「京鹿子娘道成寺」はこの後日譚で、道成寺に鐘が再興されるというところに白拍子花子がやってきて、鐘を拝ませてほしいと頼むところから始まるのではなかったか。 
この花子が実は清姫の亡霊で、舞い踊るうちに徐々にその本性を顕していくのだったはず(いつもながらうろ覚え)

長い曲なので、様々な場面があります。
しっとりと女心を表すところがあったり、
華やかな三段重ねの傘(振り出し笠)を持って踊るくだりがあったり、
振り鼓(鈴太鼓)というなかなか素敵な音が出る小道具が出てきたり(振り鼓についてはここで語ってます)

一度ちゃんと観ておきたかった舞踊です。


■観てみたい演目は?


今月個人的に絶対に外したくないのは、「め組の喧嘩」「絵本牛若丸」「京鹿子娘道成寺」でしょうか。

何たって「絵本牛若丸」は、丑之助くん初舞台襲名披露です。
吉右衛門さんも菊五郎さんもご出演とあれば、行かない理由がない!

そして「め組の喧嘩」は、とにかく菊五郎さんの江戸っ子を観たい一心です。笑
他にも、過去に観てきてとても印象に残っている役者さんが揃っていて、楽しみ。

菊之助さんの踊りは、まっすぐ芯が通っている感じがして好きなのです。
道成寺はどんな感じでしょう。今からわくわくしています。

市川海老蔵さんが弁慶をなさる「勧進帳」もとても興味深いです。お家芸ですもんね!
迫力があるだろうなぁ。。 


■どのチケットを買う?


演目を選んで幕見かなぁと思っていましたが、特に夜の部は混みそうでもあるし、三等席を押さえることも検討しております。
「道成寺」は花道での踊りも割と長かったと思うので、本当は花道がちゃんと見えるところを取りたい…!

ただ気がかりなのは、5月、国立劇場の文楽公演が豪華なんですよね…
「妹背山婦女庭訓」の通し上演。昼夜分けての上演なので、どちらも取るしかないという。。

何かを求めれば何かを失うのですね。
(娯楽を求めればお金を失うのですね。 )


■まとめ


ゆくゆくはご自身も受け継いでいくであろう「菊」の字が入った公演で、襲名披露ができる丑之助くん。
「絵本牛若丸」のご出演陣、さすが豪華ですね!
「菊五郎劇団出演」という言葉も、頼もしく背中を支えてくれそうな響きです。

素敵な舞台になるだろうことに胸を高鳴らせつつ、
息子さん初舞台の演目の直後に大曲が待っているという菊之助さんにも大注目の5月です。笑


物知らずが行く歌舞伎#8〜四月大歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び

この企画は、知識が足りないゆえに
歌舞伎への第一歩を踏み出せずにいる方
の背中を押すべく、
歌舞伎歴1年半の初心者が何を知っていて、何を目的に、
どのチケットを買うのか
をさらけ出す企画です。
初心者の無知っぷりと、この1年半でちょっと学んだことを、
背伸びせず、恥ずかしがらずにお伝えできればと思っています。

物知らずシリーズ、末広がりの第8弾は平成最後の歌舞伎公演!

平成生まれとしては、人生の中で二つ目の元号を味わえるのがちょっぴり楽しみでもあり。
次の元号生まれの子たちに「君たちは平成を知らないね?」というすごくどうでもいい自慢をしている自分が目に浮かびます。笑 

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■歌舞伎座 四月大歌舞伎の演目は?


4月の歌舞伎座。
演目は以下の通りです。

【昼の部】
一.平成代名残絵巻(おさまるみよなごりのえまき)
二.新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)
 座摩社
 野崎村
坂田藤十郎米寿記念
三.寿栄藤末廣(さかえことほぐふじのすえひろ )
 鶴亀
四.御存 鈴ヶ森 (ごぞんじすずがもり)

【夜の部】
一.源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)
 実盛物語(さねもりものがたり)
二.猿翁十種の内 黒塚 (くろづか)
三.二人夕霧(ににんゆうぎり)
 傾城買指南所


一発目の演目名、「平成代」を「おさまるみよ」と読ませるあたりが歌舞伎っぽいですよね。読めるかいな。

お昼の三幕目は、坂田藤十郎さんの米寿記念ということで、「藤」の「末廣」(=八)という理解で合っているのでしょうか。 

歌舞伎の演目名って、結構いつも日本語の可能性に挑戦している気がします。 


■各演目について、現時点での知識


*そもそも知っている演目はあったのか?


【昼の部】

「新版歌祭文」は、「お光」という登場人物には非常に見覚えがあります。
舞踊「お光狂乱」(おみつきょうらん)、日舞のお稽古でよく見るのです。
 
「鶴亀」は、もし私が知っているものであれば、何なら自分も以前踊ったことのあるご祝儀ものの舞踊ですが、それでしょうかね…?
 
御存鈴ヶ森」は、「御存」と言われても残念ながら名前しか存じ上げませんでした。すみません。。どれくらいの方が御存じなのだろうか。。


【夜の部】

「実盛物語」!!来ましたー!観たことあるやつ!
この部分は昨年11月に平成中村座で観ており、さらにこの前の部分にあたる「義賢最期」も今年の新春浅草歌舞伎で観ることができたので、前回よりも理解を深めて観劇することができそうです。
 
「黒塚」は名前は聞いたことがありますが、どんなものかは全然分かっておりません。。
 
「二人夕霧」は知らないのですが、登場人物のお名前からして、今年1月に歌舞伎座でかかっていた「廓文章」と関係がありそうな予感。
と言っておいて、年始の「廓文章」観ておりません。よって、残念ながら何も知りません。笑


*現時点で知っていることは?


◇新版歌祭文

先述した舞踊「お光狂乱」は、この場面に出てくるお光ちゃんの踊りです。
歌舞伎とまるきり同じ設定なのかどうかは定かでないのですが、「野崎村」の場面を元にしているのは確かだと思います。

お光は、確か恋する久松に他のいい仲の相手がいるのを知って、最終的に久松を諦めるんじゃなかったか。。
うろ覚えですが、大好きな久松さんとは一緒になれないはずです。
ほんとに誰も彼も、歌舞伎に出てくる娘たちは自己犠牲が過ぎるよ。。

◇鶴亀

なんだかよくありそうな題名なので、私が思っているものでいいのかちょっと自信がないのですが…
想像しているものであれば、名前の通りおめでたい踊りです。
比較的ゆっくりしたご祝儀舞踊なので、「踊りって楽しい!」という方向性ではないかと思いますが、それもまた引き締まって良いなぁと思います。

それにしても、女帝に坂田藤十郎さんは凄い!米寿でいらっしゃるのですね…!

◇実盛物語

※2019.3.17追記※
太郎吉の配役が出たので更新しました!
寺嶋眞秀(まほろ)くんでしたね! 寺島しのぶさんのご子息です。

前回の感想はこの記事に綴っています。
この記事だけだと内容はさっぱり分からないのですが、初心者的にどんなところが面白かったかはいろいろ語っています。

実盛片岡仁左衛門さん)と瀬尾中村歌六さん)の本心、
芯のある女性・小万片岡孝太郎さん)の(ちょっと怖いけど)さすがの死に際、
小万の息子・太郎吉寺嶋眞秀くん)の圧倒的かわいらしさ。

特に題名にもなっている実盛の語りは、きっと素晴らしいことでしょう。
(※「実盛の物語」ではなくて、「実盛が物語る」お話です。)

源平の争いの時代、登場人物が「平家方と見せかけて実は…!」の連続なので、初めてであれば予習をしていくことを強くお勧めします!
(初心者ながら予習用の記事を書いてみました⇒【歌舞伎初心者向け】ざっくり予習する「実盛物語」

「実盛物語」に限らず、歌舞伎においてこの「実は」は非常に曲者で、理解を妨げる一因だと思うのですが、これが分かった上で観ると人間模様が非常に刺さります!

ちなみに、この前の場面「義賢最期」の感想はこちら
この記事も感想ばかりで肝心のあらすじには触れていませんが、「実盛物語」に痛ましい姿で登場する小万がいかにかっこいい女性か、ということはお伝えできるのではないかと。笑

◇黒塚

内容については全然知らないのですが、市川猿之助さんの十八番だと勝手に思い込んでます。笑
何せ「猿翁十種の内」ですもの。(猿翁さんは、先代の猿之助さんです。)

というわけでちょっとだけ予習をしてみたところ、なんとロシアンバレエの動きも取り入れられているとか…!

今回の公演とは関係ありませんが、舞踊「高坏」はタップダンスが取り入れられているという話ですし、文化のごった煮がおもしろいですね! 


■観てみたい演目は?


「平成代名残絵巻」、内容はさっぱり見当がつかないのですが、中村福助さんのお名前が一番最初に出てくるのが嬉しい。
昨年9月にご復帰なさり、今年の1月、そして4月とどんどんご出演を重ねていらっしゃいますね!

「新版歌祭文」は、関連する舞踊を観ているだけに、ぜひちゃんと観てみたい演目です。
「お光狂乱」、私もいつか絶対に踊りたい。
そのときに、元になっている歌舞伎の内容を知っているかどうかで全然違うと思います。

「鈴ヶ森」はとにかく配役が豪華ですね!
手元のチラシには尾上菊五郎さん中村吉右衛門さんしか載っていないのですが、
公式サイトにもある最新版のチラシには、これに加えて市川左團次さん坂東楽善さん中村又五郎さんのお名前が並びます。素晴らしいボリューム。
これはぜひとも観ておきたい!! 

「実盛物語」、平成中村座での中村勘九郎さんの実盛は素晴らしくきりりとした武将だったのですが、仁左衛門さんだとどんな感じになるのでしょう。
きっといろんな内面を感じさせる、懐の深い実盛に違いない。
絶対に外せない演目です。

二月大歌舞伎の魚惣この記事と弥陀六この記事に痺れた歌六さんの瀬尾も、大変に楽しみです。 

踊り好きとしては、舞踊に定評のある猿之助さん「黒塚」も気になります。

…はい、また絞れなくなるパターン突入です。笑
 


■どのチケットを買う?


今回は幕見でぽつぽつと観に行く予定です。
「鈴ヶ森」「実盛物語」は絶対外せないとして、そこに何をくっつけようかしらと悩み中。
お光ちゃんも追いかけたいし、「黒塚」も観てみたい… 。

いや、でもこんなことを言い始めたら全部観たくなるに決まっているのですよ!笑

まだ上演時間は出ていませんが、「黒塚」あたりからは仕事帰りに何とか寄れるかな、と予想しております。 


■まとめ


3月の弁天小僧に続き、一度観たことがある演目が巡ってきました。
「○○さんが演じるこの役」というのをとりどりに楽しめるのが、歌舞伎、ひいては長く続いてきた芸能の良いところですね!

回数を重ねて同じ作品を観ることで、だんだんストーリーだけでなく、細かいところにも目を向けられるようになったらいいなぁ、と思います。
今はまだまだ話の展開を理解することに精一杯になりがちですが、余裕が出てきたら、もっと役者さんの表情やちょっとした動きにも注目したいですね! 

きっと素敵な平成ラスト歌舞伎になることでしょう(^^)


本音を言えば、四国・金丸座の「こんぴら歌舞伎」にめちゃくちゃ行きたいのですが(中村勘九郎さんの「すし屋」いがみの権太と舞踊「高坏」、素敵に違いない)、
さすがにまだそこまで歌舞伎に投資できないのがしがないOLの常であります。
いつか東京でも同じ配役でかかることを期待しつつ…!


【関連記事@四月大歌舞伎の感想】
▶︎「実盛物語」初心者はこう楽しんだ!〜四月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想
▶︎「黒塚」初心者はこう楽しんだ!〜四月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想

 

気になる演出ピックアップ!#1 浅葱幕


地味なシリーズになりそうな気配はありますが。笑
歌舞伎や文楽の演出で面白いなぁと思ったものについて、初心者の目線で語っていきたいなという企画です!

これは初心者の特権だと思うのですが、
見慣れてくると当たり前のものでも、最初のうちはものすごく素直に感動できるのです。笑 

そんな本シリーズ、第1回は「浅葱幕(あさぎまく)」

一年ちょっと歌舞伎や文楽を観ていて、毎度この「浅葱幕」というものに感動を覚えるので、記事にしてみようと思い立ちました。
(ちなみに日本舞踊の舞台でも使いますよ!)

【浅葱幕とは】
「舞台前面に吊り下げる浅葱(水色)一色の幕。振落し、振かぶせの手法で、大道具や俳優の姿を一瞬に見せたり、隠したりする効果をあげる。…」
(『歌舞伎事典』昭和58年、平凡社)

定式幕や緞帳の向こう、舞台の上に、水色の布が吊られます。
『歌舞伎の解剖図鑑』(辻和子、2017年、エクスナレッジ)によれば、「『光に包まれた向こうに何かがあるが、まだ見えない』状態を表」すとのことです(p.34)

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チョン、という柝の音を合図に、この水色の布=浅葱幕がぱっと振り落とされます。

*** 

定式幕(いかにも歌舞伎っぽい三色ストライプのあれ)や緞帳と、浅葱幕とのもっとも大きな違いは、「舞台の現れ方」だと思います。

定式幕や緞帳は、徐々に幕が開いていきます。
それに伴い、舞台は端から、あるいは下から少しずつ見えてくるわけです。

しかし浅葱幕の場合、幕が振り落としになると「一気に」舞台全体が目に入ります
見えなかったもの、音だけ聞こえて焦らされていたものが、パッと目の前に広がるのです。

正直、浅葱幕にはちょっぴり違和感があります。
 
本来幕が開いてすべてが見えているはずの舞台の上に、それほど舞台の色に馴染んでいるとも思えないような水色の布が張られている。
初めて観たときは、「いささか雑では…?」と思ってしまったくらい。笑

しかし、この演出効果は文字通り目を見張るものがあるのです。

幕がすでに開いた状態の、その先にある幕。
芝居がもうすぐ始まるのは分かっていて、浅葱幕の向こうに何らかの世界が広がっていることも分かっている。

そして、何なら演奏者は舞台上に見えている。

音は聞こえるのに、見たいものが見えそうで見えない

この「焦らし」が溜めになって、パッと幕が振り落とされたときの感動が強まるのです。

そして、浅葱幕の向こうに広がるのは、大概が華やかな舞台

豪華絢爛な建物だったり、隅から隅までずらりと並んだ粋な役者たちだったり、まぶしく降りしきる雪の世界だったり…

これが「徐々に」見えたのでは、感動するにしてもそこまでではないのではないかと思うのです。
急に、いきなり目に飛び込んでくるからこそ、衝撃を受けるのです。 

例えて言うなら「トンネルを抜けたら目の前にどーんと富士山があった!」みたいな。

隠されていたものが、急に目に飛び込んでくる。
この勢いとギャップに、否応なく胸が躍るのです。

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ちょっと脇道に逸れますが…

歌舞伎の幕のことを考えるとき、私はいつも紙しばいを思い出します。

紙しばいは、紙を引き抜くスピードが細かく指定してあるのです。
「一気に」「ゆっくりと」「ここで半分まで引き抜く」などなど…

これ、まさしく幕と同じだな、と。

紙しばいはその名の通り「紙」で行う「芝居」であって、
あの絵を引き抜いていく行為は、各場で幕が引かれ、また開けられるのと近いのではないかと。

一気に引き抜いたり、半分まで引き抜いたりするのなんて、とても浅葱幕っぽいのではないのでしょうか。

幼い頃から「かみしばい」という5文字として認識していたけれど、よく考えると「紙芝居」であったなぁと、芝居を観るようになってふと気付いたのでした。

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さて、そんなわけで語ってみました浅葱幕。
初めて歌舞伎や文楽に行く方は、舞台上に水色の幕がかかっていたら、ちょっとそのまま舞台に注目してみてください。

きっと息を飲むような瞬間が待っています。


プロフィール

わこ

◆東京都在住╱地味目のOL (平成生まれ)。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇2年目、毎月何度か劇場に通う日々。
◆着物好きの友人の影響で、着物でのお出かけが増えてきた今日この頃。

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