ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

国立劇場

「嬢景清八嶋日記」(国立劇場文楽9月公演)初心者の感想


9月は貴重な、「東京で文楽を観られる月」です!
(国立劇場の文楽公演は2月、5月、9月、12月しかないのです…)

本当は昼夜チケットを取りたかったのですが、昼があっという間に売り切れ…
夜が取れただけでもありがたい!というレベルで文楽はチケットが取りづらい。。

ということで、わくわくしながら行って参りました!

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今月の筋書の表紙、景清と糸滝の再会の場面。写真一枚でこんなにドラマティック。 

夜の部は「嬢景清八嶋日記(むすめかげきよ やしまにっき)」「艶容女舞衣(はですがた おんなまいぎぬ)」の二本立て。
「嬢景清~」は今年11月に、国立大劇場で歌舞伎でも上演予定。(詳細は国立劇場HPへ)
「艶容女舞衣」は、先月女流義太夫で堪能した演目で(この記事)、いずれも他の観劇に繋がるのが嬉しい二本でした(^^)

まずは「嬢景清八嶋日記」から感想をば。


1.花菱屋の段

(太夫:織太夫さん、三味線:清介さん)

初っ端から、花菱屋の女房(人形:文昇さん)がパンチを効かせてます。笑
早口であちらこちらへとびしばし指示を飛ばし、これは主人が尻に敷かれっぱなしなのもよく分かるなぁと。

この女房はじめ、そこそこキャラの濃い登場人物がとにかくたくさん出てくるのですが、語り分けが鮮やかで、途中で一人の太夫さんが語っていることを完全に失念
文楽はこういうところが面白い!!

歌舞伎だと、女方は美しい声で台詞を言うことが多いように思います。
対して文楽の太夫さんが語る女性は、決して「美しい声」ではないのです。
にもかかわらず溢れ出る、糸滝(簑紫郎さん)のかわいさ…!不思議だなぁといつも思います。

この場面、父に一目会いたいと暇乞いをする糸滝にみんなが優しくしてあげるのですが、先ほどの
女房が糸滝にかける言葉が良いんです。 

「皆の衆さへする餞別、おれが負けて立つものか。十年の極め五年にして、五年の年を餞別」 

負けず嫌いなのか優しさなのか、恥ずかしいのをごまかしているのか。笑
何にせよ、年季を五年も負けてくれるんだからすごいです。結果だけで見れば、もう圧倒的に思いやりの塊です。
結局この場面、遊郭とは言えものすごく情に溢れた経営陣なのです。


2.日向嶋の段

(太夫:竹本千歳太夫さん、三味線:豊澤富助さん)

能の謡の厳かな雰囲気から始まり、最初は景清(玉男さん)一人の場面。
平家の仇討ちを為し切れなかった不甲斐なさ、自ら盲目となり、乞食となっている今の境遇を嘆くのですが、

ここが凄くて。

盲目の景清、最初は杖をつきながらよろよろ出てくる。
でもこの感情を露にするところは一変して、動き方や語り方が強くて凄みのある武士そのものなんです。
心臓抜かれそうなほど迫力があった。

ここに、左治太夫(簑二郎さん、先ほどの花菱屋に糸滝を連れてきた女衒です)に連れられ、糸滝(簑助さん)がやって来ます。
 
あぁもう、簑助さんの人形はなんでこんなに表情が出るんだろう。
顔は変わっていないはずなのに。泣きも驚きも全部分かる。

景清と糸滝の出会う場面、泣けて泣けて仕方ありませんでした。(最初に載せた写真の場面はここです)
見えない目をかきむしり、必死にこじ開けようとしてもやっぱり娘の姿を見ることが叶わない、父としての苦しみ。
それでも父が自分を抱き寄せてくれたことに気付き、はっと驚き、涙にくれる娘・糸滝。

「親は子に迷わねど 子は親に迷うたな」という景清の詞、文で読むといまいちしっくり来ないのですが、
聴きながら、これは非常に愛情深い台詞だったんだなぁと思いました。
ここまで来てくれたことへの感謝、苦労を掛けたことへの侘び、忘れていた娘への愛情、たぶんそういういろんな思いが詰まっているんだろうなぁ、と。
心から娘を労い、愛しく思っている言葉のように感じました。

糸滝、親が話している間も、常にそれに反応しながら、何かしらの感情を表しています。本当に生きている。
簑助さんも凄いし、それに付いていく左遣い・足遣いの方々も凄い。

それから左治太夫、倫理的に見たら職業としてはいかがなものかというところなのですが、人柄としてはとても優しいんですよね。
私は彼が、糸滝の涙をそっとぬぐってあげているのがたまらなく好きでした。

この左治太夫、景清には糸滝が身売りしたことを隠し、大きな百姓家に嫁いだと偽るのですが、景清は武士として、この結婚に猛反対。

…と見せかけて、船に乗り込んだ娘へ「今のは全て偽り」と、愛ある言葉をかける父親の姿も本当に泣かせるんです。

「今叱りしは皆偽り。人に憎まれ笑はれず夫婦仲よう長生きせよ。与へし太刀を父と思ひ肌身も離さず回向せよ」
 
かける言葉は、紛れもなく一人の父親で。ちょっと屈折してますよね。でも間違いなく愛してるんです。

その後、娘が結婚したというのは嘘で、実は身を売ったと分かったときの、景清の激情。
見えないながらも駆け回り、暴れ、もらった金を叩きつけ、絶叫する、その痛切さたるや。
ここの台詞も好きです、溢れてしまう想い。

「ヤレその子は売るまじ。左治太夫殿、娘やあい、船よなう、返せ、戻れ」 

このあとに続く景清の悔しさの表出は、娘が身売りした金で仕官などできるものか、という生き長らえてしまったことへの恥が中心となっているのですが、
この詞に関して言えば、もっと反射的な、本能的なところなんじゃないかと思います。


3.まとめ


いやぁ凄かったです。このカタルシス。
終わったあと、まるで自分が叫びたい限り叫んだあとかのような気分でした。

人形浄瑠璃でもとてもとても良かったですが、素浄瑠璃で聴くのもしみじみといいだろうなぁ。

歌舞伎だとどうなるのでしょう。
11月の公演は、景清に中村吉右衛門さん。これ以上ない配役だなぁと思います。

好きなものが増えると、楽しみが増えますね。
本当にいい観劇経験でした。

おすすめ日舞公演!未来座=彩(SAI)=「檜男(ぴのきお)」「春夏秋冬」観てきました!


毎年行きたいと思っていた未来座さんの公演、やっと行けましたー!

古典の舞踊技法をもとに、新たな日本舞踊作品を発表している未来座の公演。
今回が3回目の公演ですが、日本舞踊協会としては50年以上、こうした活動をしているそうです。

今年の演目は「檜男(ぴのきお)「春夏秋冬」の二本立て。
※「檜男」は、檜の字に☆で濁点がついています。

感想をまとめます!

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パンフかわいい…! 




*「檜☆男」


ほし組・つき組とキャストが分かれたうちの、ほし組公演を観てきました。
つき組はまた全然違う雰囲気なんだろうなぁ。

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お馴染みのあのピノキオのお話を、日本舞踊で。
語りには、歌舞伎役者の坂東巳之助さん

これがとっても良くて、くすっと笑いつつ、最後はぽろぽろ泣いてしまいました
知っている話なのに。泣くと思ってなかった。笑

***

開演前からコオロギの声がしているの、物語に自然に入り込めていいですね!

舞台の大道具は、まるで絵本のよう。わくわくします。

おじいさんが大事に作ったお人形たちは、もちろん日本寄りの人形が多いんですが(笑)、
それぞれ動き方が全然違って、観ているうちにどの人形にも愛着がわいてきます!

女の子らしくかわいらしく動く「かりん」(もうこれが本当にかわいくて愛しい!)
名前から想像できるいかにもな雰囲気が楽しい「おふく」、
途中見事な人形振りを堪能できる「ちゅうべえ」と「うめがわ」(!)、
小ネタ満載で片時も目が離せない「うば」、
派手な衣装で物語を動かしていく「ぎんのじ」と「でび」。
頭に灯篭を乗っけた「竹人形」たちもきれい!

途中にはちゃんと、それぞれの人形の見せ場が用意されているのですが、
この人形が出てくるときに、日本人形が入っているような、背景が金のガラスケースありますよね、あれに入って出てくるのです。
演出が細かい!笑 

お話を語ってくれるのは、最初からずっと鳴いていたあのコオロギです(「こおろぎ安」というお名前。声は巳之助さん)。
こおろぎ安、会場を巻き込みつつお話を展開していってくれます。

そんなキャラクターたちに囲まれて、物語の中で成長して行く「檜男」。
最初はカタカタの頼りない動きだったのに、、と思うとラストが本当に素敵です。

一挙手一投足が愛しい、愛嬌たっぷりの檜男。
かりんとの淡い恋模様もまた微笑ましい!

国立小劇場は、舞台の方々の表情も見やすいサイズ感なのも嬉しいところです。

***

演出も楽しくて、親しみやすかったです。
絵本の世界のような大道具、客席の使い方、多様な音楽…飽きさせません。

何せ!踊りを!!踊りを観て!!!
全く堅苦しくないので!むしろ親しみと愛嬌の塊なので!!!

関係ありませんが梅川と忠兵衛、場面は違えどわざと歌舞伎座と当てたのか…?


*「春夏秋冬」


25分の休憩を挟んで、「春夏秋冬」が始まります。
美しい映像を使いつつ、決してそれが邪魔になることはなく、世界観を作り上げているなぁと思いました。

先ほどの舞踊劇とは違うアプローチで、日本舞踊の魅力や可能性がぎゅっと詰まった演目でした!


【春】
 
これはまずもって、着物がとにかくきれい!
女性舞踊家13人が美しく振袖で踊るのですが、全員違う振袖なんです!!

一列に並んだところなんか、雑誌かファッションショーを眺めているよう
日本舞踊を始めた理由に「着物が着たいから」 は一大勢力なのですが(笑)、こんな素敵なものを観たら、より一層その熱が高まると思います!

加えて踊りはもう、「これぞ日本舞踊」というような華やかさと柔らかさがありました。
「日本舞踊」と言われてイメージする世界はこんな感じなのかな、と。

踊りっていいなぁ。。 

【夏】

打って変わって、男性舞踊家10人の群舞。
袴の衣擦れの音っていいですねぇ。。それだけでそわそわしちゃう。

それでですね、男性舞踊家の群舞、かっこよくないわけないんですよ!!

この部分のテーマは夏祭り。
舞台の熱量がどんどん上がり、そのスピード感と大きさと迫力に、観ている方もどきどきしてきます。 
 
日本舞踊の「かっこいい要素」を集めたらこうなるなぁという感じ。
最後の締め方がまたたまらない!!!

【秋】

そんな勢い溢れる舞台の空気をがらっと変えるのは、井上八千代さん

ただひたすら、その舞の作り出す空気に浸れる喜び…
振りの意味が分からなくても、無駄の全くない美しさに、呼吸すら忘れて見入ってしまいます

背景に浮かんだ大きな月。
広々とした舞台は、音楽とも相まって物寂しさがあります。

その中で、一人舞うお姿が尊くて。

決して力が入っているわけではないのに会場全体がぴんと張りつめるようで、
振りが多いわけではないのに密度が高い。

抽象的な言い方になってしまいますが、八千代さんの京舞の、その空気感がとても好きです。

【冬】

最後は、春と夏に登場した舞踊家たちが一堂に会しての踊り。

独特な響きの音楽に合わせ(なんとこれが鶴澤清治さんの作曲だったんですね!)、冬を生き抜く鳥たちが力強く踊ります。

これだけの人数で、あの大きさの舞台で踊るのは本当に壮観です。

最後は静かに、作品が閉じられます。


*まとめ


近くにある芸能、たとえば歌舞伎とか、あるいはダンスとかバレエとか、そういうものに比べて、
日本舞踊って「この公演を観てみようか」となりにくいジャンルだと思うのです。

でも、ちゃんと日本舞踊でもできるんですよね。
こんなにエンターテインメント性の高いことだって、古典の日本舞踊を使ってできる。 

だから、何だかこの公演は日本舞踊好きとしては嬉しかったし、一人でも多くの方に観ていただきたいな、と思いました。まわし者じゃないですよ!笑

6/22(土)・6/23(日)、残り5公演。当日券もあるようですよ!
お時間ある方はぜひ(^^)

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※23日(日)のみ、第三部がないようです。 


「積恋雪関扉」初心者はこう楽しんだ!〜3月歌舞伎公演(国立劇場・小劇場)感想


ものすごく魅力を感じていながら、スケジュールの都合で泣く泣く諦めていた国立小劇場の歌舞伎。
特に観たかった歌舞伎舞踊「積恋雪関扉(つもるこい ゆきのせきのと)、運良く都合がついて、滑り込みで観ることができました!感涙!!

しかも花道の間近という素晴らしいお席。
揚幕からしずしずと登場する中村梅枝さん、どんな顔で見上げればよいものやらどぎまぎしてしまいました。。

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■初心者でも楽しめるのか?


楽しめるのではないかと思います。
私は圧倒的に楽しめました

しかしなぜこうも断言できないかと言いますと、
私自身が本当に初めて観たときのことをほとんど覚えていないからなんですね。。

しかも「傾城墨染実は小町桜の精」に中村七之助さんという好配役。
声が美しかった記憶、桜の木の中にぼんやり浮かぶ妖しい姿の記憶はうっすらとあれども、筋やら細かいことやらはすっかり抜けています。

やはりあらかじめあらすじを掴んでいた方が、見どころも分かるし楽しめるのではないでしょうか。

***

というわけでほんのざっくりとしたところだけ。

舞台は雪の中に桜の咲き誇る逢坂の関。関兵衛(せきべえ)が関守をしています。

この関の近くには、左遷された良峯少将宗貞(よしみねのしょうしょうむねさだ)の侘び住い。
そこに宗貞と恋仲の小野小町姫(おののこまちひめ)が訪ねてきます。

小町姫を通すか通さないかの関兵衛との問答があったり、宗貞を含めた三人での手踊りがあったりしたのち、この関兵衛から次々と不審な点が。
関兵衛の素性を怪しむ宗貞と小町姫。

実はこの関兵衛、謀反人・大伴黒主その人だったのです。出ました、歌舞伎の「実は」シリーズ。 
宗貞が左遷されたのも、宗貞の弟・安貞が殺害されたのも、この黒主の仕業。
宗貞にとっても、小町姫にとっても、にっくき相手なわけです。

一人謀反の時節を悟る関兵衛。
そこに、亡くなった安貞の恋人・傾城墨染(すみぞめ)が現れます。

この墨染、関兵衛に「自分の色になってほしい」と頼んで油断させ、隙をついて復讐しようとしているわけです。
詰め寄る墨染。ついに関兵衛、大伴黒主としての本性を顕します。
一方墨染も、実は舞台に咲き誇っている小町桜の精。
二人は対峙し、激しい争いを見せるのでした。
 

■私はこう見た!ここが好き!


尾上菊之助さん中村梅枝さんという、これまで短い間観てきて「この方の踊りは好きだなぁ」と思っていたお二人が主演ということで、まずはそこから嬉しい。

梅枝さんは、やはり糸のように自由なしなやかさと緊張感があって、傾城墨染のところは傾城としての余裕も見えて、素敵でした。
手先の美しさよ…そして上半身の自在さよ…

菊之助さん、今まで「品」というイメージだったので、今回の役はちょっと意外だったのですが、斧を持ったあたりからの勢いと迫力にやられました。。

***

前半、音楽がのどかで明るいところが多くて楽しかった!

今回絶対に聴き逃したくなかった歌詞に「生野暮薄鈍(きやぼうすどん)というのがあって、文字通りに捉えると「野暮でのろま」みたいな意味なのですが、
ここが当て振りになっていて、言葉の音に沿って「木・矢・棒・臼・ドン(戸を叩く)」と、意味は全然違う振りがついているのです。
その話を知って、「関の扉」への興味が俄然わいたのでした。
今日観てみて、矢と臼とドンは分かりました!それだけでもテンションが上がります。笑

宗貞中村萬太郎さん)との三人踊りのあたりも、好きな曲調でした。
やはり、明るめの曲調に惹かれます。気持ちが踊ります。

***

関兵衛が「勘合の印」と「割符」を落としたあたりからの、小町姫・宗貞vs関兵衛のやりとりの緩急にどきどきでした。

はっとした表情で割符を拾う小町姫(梅枝さん)。
ことあるごとに関兵衛(菊之助さん)の隙を狙うのですが、そのたびに関兵衛に阻まれます。

この二人の間の緊張感に、毎度こちらもはっとしてしまいました。笑
手を伸ばす小町姫と、払う関兵衛、どちらにも鋭さがあって、その鋭さがまた美しい。

***

関兵衛(実は黒主)の一番好きなところは、盃を手に謀反を企て、大斧を持って琴を試し斬りに行くあたり。
この盃のくだりは曲調も一変して、新たに楽器も加わって、一気に舞台の緊張感が増すのです。
関兵衛のときはちょっとおかしみもあったのに、ここから声も太くなり、いよいよ悪人感が出てきます。

斧を手にしたところからのキレがさすがで、とても好きでした。
小劇場という空間で観たこともあり、迫力がすごい!

***

小劇場という観点で言うならば、役者さんの息遣いが分かるのもまた嬉しいところ。
刺さったのは小町姫が宗貞に別れを告げる、「おさらば」というセリフ。
たった一言なのですが、息の震え方に、宗貞との別れの辛さが感じられました。

息遣いというわけではありませんが、セリフの言い方にぐっときたのは、
傾城墨染(梅枝さん)の廓話のくだりでの、「口説(くぜつ)の種にさんすのかえ」というところ(細かい言い回しが違うかもしれませんが…)

上手く言えないのですが、押すばかりでなく引くのもお手の物な傾城の余裕が垣間見えた一言でした。
「墨染」と、自分の名前を名乗るところも素敵だった。
まっすぐ関兵衛を見て名乗るのではなく、関兵衛に背を向けて歩きながら、言葉だけ後ろに残していくように言うのが何だか色っぽいです。

***

この廓話に至るところ、そしてそこからの展開がとても良かったのです。

桜を伐ろうとするも、何かの力によって伐り得ず、座ってしまう関兵衛。
暗くなっている舞台に、音もなく傾城墨染が現れます。
あまりにも静かであるがゆえに、何だか妖しい。鳥肌が立つような時間でした。

そんな雰囲気だったのに、廓話の踊りになると一気に華のある曲調に変わります。
墨染の表情も曲調に合わせ、明るく。

しかし、関兵衛が「血染めの片袖」を持っているのを認めてから、徐々にまた緊張感が高まっていきます。

この片袖は、墨染の恋人・安貞の死を伝えるもの。
墨染にとっては、悲しさと黒主への復讐心を生むものなのです。

廓話にかこつけて、戯れのように見せかけて、関兵衛から片袖を取り上げる墨染。

この!この取り上げ方が、何でもないように見えてめちゃくちゃ素敵なのです…!
本当に、ただ女が男をからかっているときのような取り方をするんです。
でも、実はこれが今後の展開にものすごく噛んでいるところ
それが分かっていると、わざと軽いノリで片袖を取り上げる墨染の本気が見えてきて、何ともかっこいいのです。

***

関兵衛が黒主としての、墨染が小町桜の精としての本性を顕してからは、もう圧巻ですね。

きっと大きな劇場で観てもすごい迫力なのだと思うのですが、間近で観るとそのスピード感に圧倒されます
思わず息を詰めて、なぜか腹筋に力を入れて観入ってしまいました。

梅枝さん、よく反るなぁ二人藤娘では児太郎さんがとにかくよく反っていたので、今日梅枝さんの反りが観られて謎の公平感を抱いています)

全体を通して、音楽も味わい深いしお芝居の緩急にもうまいこと持っていかれるし、とても良い時間を過ごさせていただきました。


■まとめ


「国立小劇場で歌舞伎をやる」と知ったとき、なんて贅沢なんだろう、と衝撃を受けました。

普段は文楽や、舞踊のおさらい会などを行なっている印象の小劇場。
舞台との距離がとても近いと知っていたので、あの距離感で、あのダイナミックな舞台を観られるなんて夢のようではないか!と思いました。

実際行ってみて、やはりその予想に間違いはなかった!

もう振動が直接くる。ツケの音も、役者さんの踏む音も
表情がよく見えるのはもちろんのこと、息遣いまで聞こえてきて、より胸に迫るものがありました

踊りをちょっぴりかじっている身としては、間近で役者さんたちの身体の使い方を観られたのも大きな収穫。
こんなスピード感をもってやっているのか、とか、こういう風に動いているのか、とか。
すぐに自分が実践できるとはこれっぽっちも思いませんが、これを目に焼き付けられたのはまたとない経験です。

***

もう一つ、「歌舞伎舞踊」というものの面白さを感じた一幕でもありました。
基本は音楽(常磐津)に合わせた舞踊として進んでいくので、曲調が変わるところがはっきりとしていて、ドラマティックなのです。

特に好きだったのは、先述の通り、関兵衛(黒主)が杯に映った星を見て謀反の時節を悟るところ。
それまでうららかな雰囲気のところが多かっただけに、この変化がものすごく効果的だなぁと思います。

***

何はともあれ、観られて本当に良かった。
諦めないで良かった!!
また観たい演目がどんどん増えております。


 

「中将姫雪責の段」「阿古屋琴責の段」観てきました!〜国立劇場文楽2月公演第三部 初心者の感想

国立劇場の2月文楽公演、第三部に行ってまいりました!

『鶊山姫捨松』より「中将姫雪責の段」と、
『壇浦兜軍記』より「阿古屋琴責の段」の二本立て。
全体的に女性が責められるラインナップとなっております。

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雪責めから助け起こされる中将姫と

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無心に三味線を弾く阿古屋。左手の指にご注目!
※写真はいずれも筋書より。

それぞれの感想を綴ります。



*中将姫雪責の段


文楽の人形の、女性の美しさが好きです。
ちょっと角度が変わったり、目が閉じたりするだけで、全然違う表情になる。

今回の演目は、それを堪能できたな、と思います。

雪責の場面、私は今回下手側での観劇だったのですが、
ちょうど中将姫を助けにやってくる桐の谷(※中将姫に仕えています)の表情がよく見える位置でした。
桐の谷は吉田一輔さん
中将姫への惨すぎる仕打ちに心底腹を立てながらも何もできない悔しさが、人形の表情から伝わってきて、胸に迫りました。

ちなみにこの桐の谷、寒さに震える中将姫へ自分の着物を投げてあげるのですが、これがナイスパスなんです!
人形を遣うお三方の息の合い方がさすがですね。

そして何と言っても、吉田簑助さんの中将姫が圧巻です。

雪の中に薄着で引き倒され、打たれ、髪を引っ張られる中将姫。
寒さと痛みと、継母とは言え母である人物からの仕打ちに対する悲しみとにうちひしがれる、その様子があまりにもリアルで、何だかよく分からないけれどどきどきしてしまった。
 
見てはいけないものを見てしまっているような、
でも一挙手一投足から絶対に目を離せないような。

簑助さんは、昨年拝見した『夏祭浪花鑑』のお辰がとても好きでこの記事、このお辰はすぐに舞台からいなくなってしまうので、もどかしかったのです。
今回、こんなに簑助さんの人形を味わうことができたのがとにかく嬉しい。

***

この中将姫、どれだけ酷い目に遭わされても、継母である岩根御前を守るのですが、
その健気な語りのときに、胡弓の音が聞こえるのです。
胡弓は野澤錦吾さん細く澄んだ音が、この場面の切なさを増します

音楽面での工夫、興味深いです。

***

語りで興味深かったのは、「サァそれは〜サァサァサァ」の掛け合い。
歌舞伎でよく見るスピード感のあるあのやり取りを、あの速さで一人で語り分けるのか!と。
この場面は竹本千歳太夫さん。太夫さんって凄いですね…!


*阿古屋琴責の段


いやもう、これは本当に人生の財産になるなぁという感じでした。
桐竹勘十郎さんの阿古屋。

一度歌舞伎で観ている阿古屋(感想はこの記事
「三曲琴、三味線、胡弓を演奏する」という拷問にかけられる、一人の傾城の物語です。

阿古屋の詞(義太夫はセリフのことを「詞(ことば)」と言うらしい)にものすごく好きなところがあり、それを文楽の語りで聴きたい(そしてあわよくば床本を手に入れたいという思いと、
三曲をプロが演奏するとどんな感じなのか、そして人形がどうやって三曲を演奏するのか…
いろいろと気になる要素は最初から多く、とても期待していた演目ではあったのですが、

予想を遥かに凌駕しました。

琴責の場面だけに流されないようにしようと思いつつ、琴責があまりにも凄くて。

最初は琴。ちゃんと爪をつけるところから始まります
ちょっと身を乗り出し気味に、押さえる手を確認しながら。何で弾かされているのか分からないなりに没頭していく様子。
全てがものすごく精密です。

さて、この琴のあとの詞が私は大好きなのです。
阿古屋が景清との馴れ初めを語る部分。

「羽織の袖のほころび、ちょっと時雨の傘(からかさ)お易い御用。雪の朝の煙草の火、寒いにせめてお茶一服、それが高じて酒(ささ)一つ、…」

何となく顔を知り合い、些細な何でもないようなやりとりが、だんだんと深まっていく。
毎度思いますが、少女漫画のようだなぁ、と。
この始まりの何気なさが、今の別れの切なさを際立たせるような気がします。
日々の生活の中の、取るに足りない瞬間の幸せって、特別意識していないけれど、知らないうちにものすごく楽しみにしていたりするものだと思います。
その何気ない幸せを、知らないうちに失ってしまう哀しさ…

この床本が手に入ったのが嬉しくてたまらない。
好きなことばを身近に置いておけるって、何だか良いですね!

さて、琴に続き、阿古屋は三味線の演奏を求められます。

びっくりしたのですが、人形も指が動くんですね!
左手がちゃんとツボを押さえるように、指先まで独立して動くようになっているのです。
それを右手に合わせて、本当に弾いているように遣うのは左遣いさんも凄い
詳しくないため、失礼ながらどなたがなさっていたのか分からないのですが、ぜひ筋書に書いていただきたいです。

三味線を弾きながら、思い溢れて手が止まってしまう阿古屋。
その崩れる形の美しさ。。

そしてとりわけ素晴らしかったのが、最後の胡弓です。
歌舞伎で観たときにも胡弓の場面が一番感動的だったのですが、文楽はまた違った感動があります。

とにかくまずもって、胡弓の演奏がすごい

劇場内に響き渡る、広がりのある音色。
抑え込んでいたものを一気に解き放ったかのようです。
もう阿古屋は迷いません。重忠の求めに素直に「アイ」と返して、凛と前を向いて、堂々と演奏します。

胡弓は、弦をはじいて音を出すタイプの琴や三味線と違い、弓によって音を出し続ける(音を長く伸ばす)ことができる楽器です。
それがまた効果的で、歌のようで、声にならない心の叫びのようで、素手でこちらの心を掴みにくる
思い出しただけで目が潤むほど良かった。

前を見据えて一心不乱に演奏する阿古屋を見ながら、
胡弓は、阿古屋の中で何かを超越した瞬間なのかな、と思いました。

三曲は鶴澤寛太郎さんなのですが、寛太郎さんが演奏されていると分かっているにも関わらず、そこにいる阿古屋が弾いているとしか思えないような強烈な一体感がありました。
自分が今何を聴いて何を観ているのか、一瞬分からなくなるような、いい意味で混沌とした時間。

凄いものを経験してしまった。

だからどうか、

後ろの岩永くんは静かにしていてほしい。笑
いや、胡弓に合わせて調子に乗る岩永(人形:吉田文司さん)、かわいいし大好きではあるのですが!笑


※追記※
どうやら阿古屋は左:吉田一輔さん、足:桐竹勘次郎さんだった模様です。


*まとめ


チケットを取れて本当に良かったです。

どうやら2月の文楽公演は三部制なので、二部制の公演よりも人がばらけて、チケットが取りやすいらしい。
文楽に興味があるけれどなかなかチケットが買えない、という方は、2月が狙い目かもしれません。

よくよく考えると女性としては看過ならない二本立てなのですが(笑)、
それはそれとして、本当に素晴らしかったです。文楽を好きになって良かった、あの空間にいられて良かった。

***

ちなみにこの三曲、それぞれの楽器に専用の手があるようで、演奏の場面になるときに付け替えるのだそうです。
琴のための爪のついた、親指から中指までが動くようになった右手、
三味線のための撥を握った右手、
三味線と胡弓のための、指を動かしてツボを押さえられるようになっている左手。

国立劇場のページに、阿古屋を遣った勘十郎さんのインタビュー動画があります(国立劇場サイトはこちら。とても興味深いのでぜひ。

ちなみに阿古屋の帯についている二羽の蝶は、勘十郎さん手作りだそうです。
昨年9月公演の『夏祭浪花鑑』でも、団七九郎兵衛の倶利伽羅紋紋は勘十郎さんによるデザインとのお話ですし、凄いですね…

人形の衣装を縫い止めたりするのも、人形の方が自らの手でしていらっしゃるようです。
人形を遣うとき以外の場面でも、手先の器用さが活かされていらっしゃるのですね!

「姫路城音菊礎石」(国立劇場初春歌舞伎公演)観てきました!~初心者の感想~

国立劇場の初春公演!
尾上菊五郎さんを中心とした、いわゆる「菊五郎劇団」による公演が新年の定番となっているようですが、私は今年が初めてです。

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劇場のいたるところがおめでたい雰囲気。

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客席をぐるりと囲む提灯のところにも、繭玉がたくさん下がっていましたよ。

今回はあらすじをまとめるのを断念
印象に残ったこと、見どころなどをいくつかピックアップして語ります!

※あらすじはまとめられませんが、疑わしきを疑い続ければ筋は理解できるかと思います。
印南内膳(菊五郎さん)はどんなに忠臣に見えても悪者です!笑
そして死んだ者は死んでいます。もし生きているかのように見えたら、それはあの生き物の仕業です。)

***

今回まず何よりも嬉しかったのは、所作事(踊り)の時間がたっぷりあったこと!
三幕目「姫路城天守の場」。
尾上菊之助さんの振付だそうです(筋書情報)
弓矢太郎の菊之助さんと、お菊中村梅枝さんとの踊りが堪能できます。

以前テレビで観た、品良く素晴らしい三番叟が忘れられない菊之助さんと、
昨年末の藤娘で美しさをたっぷり味わった梅枝さん。
この時間のために今回のチケット代を費やしても、自分は後悔しないと思います(笑)。

この場面では長唄の方が舞台後方で演奏しているのですが、この方が凝っているんです。
石垣の中で演奏しているかのよう。姫路城の石垣がちゃんと見えながら、その向こうの長唄の方々も見えるのですが、あれは一体どうなっていたのでしょう…?三階から見るには限界が。。

ちなみに菊之助さん・梅枝さんのお二人は3月に国立小劇場で上演される『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)でも共演なさるようです! 楽しみ!!とにかく楽しみ!!!
小劇場なんて、どの席から見てもめちゃくちゃ演者が近いですよ…なんと贅沢な…!
(国立劇場公式ページはこちら) 

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双子の兄弟を演じる梅枝さん、小佐壁主水・与九郎狐・加古川三平の三役を演じる尾上松緑さんはじめ、
一人何役かで出ていらっしゃる方も多いので、そこも見どころの一つかと思います。
(筋書に書いてある役の初め2行がどちらも梅枝さんでちょっと面白かった)

特に菊之助さんは大活躍で、四幕目ではお辰から(人間の格好の)小女郎狐、(狐の格好の)小女郎狐からお辰、とだいぶタイトな時間で変わっていきます。
小女郎狐の登場、結構な迫力です!どこから出てくるか分かっていても「おぉっ!」と呟いてしまった。笑
詳細を言ってしまうと面白くないので、これから見る方はぜひお見逃しなく!! 下町●ケットは飛びませんが、狐は飛びます。

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このというのが面白くて、まず衣装が気になります。
今月の筋書では、くろごちゃんが(?)衣装についてリポートしているのですが、
真っ白でふさふさの毛が全面に覆っているこの狐の衣装、製作にもお手入れにもとても手がかかるそうです(詳細はぜひ筋書を読んでみてください!衣装さんのお仕事、素晴らしいです)
舞台から遠く離れた三階席でも分かるふさふさ具合。役者さんが動くたびに、ふさふさにそっと触れてみたくなります。笑

そして、小女郎狐のしゃべり方も面白いのです狐詞(きつねことば)というらしい)
最初を伸ばして最後が早口になる独特なリズムやイントネーション、途中に入る鳴き声のような音。
どういうきっかけで狐の演出はこうなったのでしょう。

与九郎狐(松緑さん) との狐夫婦、狐の通力が見られる演出も楽しい!
狐手という指先を丸めた形の手で、人智を超えた力を見せてくれます。(特に与九郎狐の方は、扉を動かす人と息を合わせるのが難しそう!)

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そして和史くん眞秀くんの子役お二人のかわいいこと…

特に、やんちゃ盛りの福寿狐(眞秀くん)が自由な行動に出た挙句、犬に追われてお家に逃げ込んでくる一連の流れに思わずこちらもにこにこ。
福寿と遊びたいという平吉(和史くん)が、母・お辰に促されて福寿と二人で歌う場面、あれはあざといくらいかわいい。笑 けんけんどんどん…

お二人とも三階までしっかり声が届いていて立派でした!これからどんどん大きくなっていくのでしょうね…楽しみです!! 

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極め付けは印南内膳尾上菊五郎さん)。
この人は悪いですね~!笑
本当に悪い人は、善人面をするのがうまい。最初にも書きましたが、芝居中にどんなにいい人っぽく見えても、絶対に騙されないでくださいね!!
忠臣ぶりを誉められた内膳が、一人になったときのほくそ笑んだ感じ、悪いですね~。(2回目)

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大道具も面白いです!
先述しましたが狐がなかなかトリッキーなところから登場したり、思わぬところに引っ込んだり、石垣が透けたりと、わくわくするポイントが満載でした。

この一年ちょっと歌舞伎を見てきて、この役者さんの声が好きだな、この役者さんをもっと見たいな、と思っていた方もたくさん出ていて幸せ。
通し狂言ということもあり、4時間弱の長丁場ですが、全く飽きずに楽しめました!

初っ端から楽しい演出もあり。笑
歌舞伎座でも取り入れられていた小ネタですが、音楽を巻き込み、分量も長く、こちらの方が本気で挑みにきた感じでした 
(そもそもあれは去年そんなに流行っていたのか。。) 

最後の手拭い撒きでは、坂東彦三郎さんの肩の強さに驚嘆!ああいうのってせいぜい一階の真ん中くらいまで届けば良い方だと思い込んでいましたよ…!

手拭い撒き以外にも、最初の一週間ほどは種々の新春イベントを行なっているようなので、いつかぜひ足を運んでみたいと思います。

とりとめもない感想になってしまいましたが、とにかく充実した4時間でした。
来年以降も国立劇場の初春公演は外せないものになりそうです!

 
プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇2年目、毎月何度か劇場に通う日々。
◆着物好きの友人の影響で、着物でのお出かけが増えてきた今日この頃。

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