ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

感想

三谷かぶき「月光露針路日本 風雲児たち」観てきました!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


観てきました!
三谷幸喜監督の新作歌舞伎「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち!!

もうこれは新作なので、初心者がどうとか関係ないかなぁと思い、純粋に感想だけ。

ネタバレできないので、何とも難しいところですが…

伊勢から江戸に向かう途中、大嵐で遭難した商船・神昌丸。
大黒屋光太夫をはじめとする乗組員たちは、やっとの思いで陸地に到着するも、そこはロシアという、遠い異国でした。
故郷日本に帰ることだけを一途に思い、懸命に生きていく彼らの様子を描く物語です。

何が歌舞伎か歌舞伎じゃないか、仕上がりとしてどうなのか。
新作っていろいろ意見が割れると思うのですが、私はたくさん笑ったし、心に刺さっている場面がいくつもあります。

IMG_20190615_102546
今月いろんな場所に掲示されているこのポスター。
まさかこれが歌舞伎のポスターだとは…。笑
 


開演前〜プロローグ


開演前に、すでに幕が開いて舞台が出来上がっています
その演出がもう新鮮!

ただし、いつもの気持ちでお写真を撮れてしまいそうな雰囲気なので、撮影禁止というところだけここにも書いておきますね。

あと、松也さんファンの方はぜひ松也さんへの質問をご用意の上、プロローグにご参戦を!!

尾上松也先生が、楽しく劇場と物語の橋渡しをしてくれます。


一幕目


一幕目は、光太夫たちの航海の様子と、流れ着いた島での生活を描きます。

船頭・大黒屋光太夫松本幸四郎さん)、船親司・三五郎松本白鸚さん)はじめ、17人の乗組員。
顔覚えの悪い私としては「どうしようついていけるかしら(*_*)」となりましたが、大丈夫です
どうして大丈夫なのかあまり言いたくありませんが、とりあえず大丈夫です。 

普段歌舞伎で観るような感じではない、現代劇のようなお芝居。
みなさん生き生きと楽しい!

新蔵片岡愛之助さん)と庄蔵市川猿之助さん)は際立って船内を乱すキャラクターなのですが、その曲者二人が率先して見せる気遣いがいい
二人とも分かりやすく優しくはないんですよ。これ、三幕目までそうなんですが。
 
それから、若き船乗り・藤蔵中村鶴松さん)に泣かされました。
純粋で真っ直ぐな笑顔の、気の利く青年。
その溌剌とした明るさがあるからこそ、同年の磯吉市川染五郎さん)に見せる本心が刺さります
リアルタイムでは観ていないのですが、当時の新作だった「野田版 鼠小僧」(この記事)でも鶴松さんには泣かされてるんです。。

あと個人的にツボだったのは、九右衛門坂東彌十郎さん)の目の良さですね。笑
一瞬のシーンで、何気ないので聞き逃しがちですが、大好きです。 

笑えるっていいなぁ。 


二幕目


寒さ厳しいロシアを転々としながら、故郷へ帰る手だてを探す厳しい日々が描かれます。

笑い要素もかなり多く、一人観劇でしたが心置き無く笑いました! 

役者さんたちの芸の見せどころ、という印象でした。
特に光太夫幸四郎さん)・磯吉染五郎さん)の親子芸はさすがテンポが抜群に楽しい。笑 
九右衛門彌十郎さん)の頑固じじい具合も良かったです。


物語は竹本が語ります
いつもと違って非常に聞き取りやすいです。笑

途中、竹本ならではの演出が入ります。
ネタのように使われたのかと思いきや、これがじわじわと効いてくるんです。。

勘太郎市川弘太郎さん)にスポットが当たる場面。
生きて故郷に帰るために選択しなくてはならないことと、どうしても受け入れられないこととのせめぎ合いを、太棹が煽ります。

竹本に関して言えば、幕が開いた直後の出方がかっこいいのでぜひご注目を!

それから音楽面、光太夫が黒御簾の音に合わせてセリフを言うところがあるのですが、これもまた楽しかったです。
歌舞伎音楽の自由な使い方。笑

歌舞伎の演出の使い方としては、すっぽんをそう使うのか、というのも興味深かった
歌舞伎の舞台って、仕掛けがとても多いんだなぁということを再認識させられます。
いろんな可能性があったんだな、と。 


後半に市川高麗蔵さん澤村宗之助さん片岡千次郎さんのお三方によるロシア語だけの場面があるのですが、あれは意味が分からずともロシア語の勢いを楽しむのが一番だと思います!!笑 
ロシア語、このためにみなさん覚えたんですねぇ…役者さんはすごい。 


さて、散々笑わされる二幕目ですが、決して楽しいだけの幕ではありません。

先ほど触れた竹本の場面がまず一つ。

それから泣かされたのは庄蔵猿之助さん)。
二幕目の最後の庄蔵の叫びには、遠い地で翻弄される悔しさが詰まっていて、こっちも叫びたかった。

苦すぎる別れが続く中で、小市市川男女蔵さん)は強いですね。
彼がなぜ強いかというと、その場その場を柔軟に受け入れられるからです。
光太夫も「小市はいつも楽しそうだ」と。
こうなってしまった責任を抱える船頭としては、願っても叶わない境地なんでしょう。


三幕目~エピローグ


いよいよ帰国の望みが見えてくる場面。
と同時に、最も悲痛な場面。
さらに言えば、衣装が最も絢爛な場面。笑 マリアンナ坂東新悟さん、ロシア女性の拵えが馴染みすぎて。。
 

ここでお待ちかね、キリル・ラックスマン八嶋智人さん)の登場です!
屋号は「トリビ屋」さんです。細工が細かい。

八嶋さん、「舞台は友達」感がすごかったです。
空気を持っていく力が抜群!あっという間に舞台の勢いが変わります
光太夫一行が呆気に取られるのも半ば素なのではないかというくらい。笑

このラックスマンとの出会いが、光太夫たちの道を開きます。

彼のお陰で叶った、エカテリーナ猿之助さん)との謁見。
彼女がついに、日本への船を用意してくれるのです。

この場面はエカテリーナの衣装がまぁ絢爛ですごいので、ぜひご注目を。
その前にこの人さっきまで庄蔵だった人ですよね。笑

そしてポチョムキン白鸚さん)がさすがの貫禄です。
厳格で堂々としたお偉方、という感じ。


こうして道は開けたのですが、ここに来るまでにいかんせん時間がかかりすぎた。

すでにそのときには、「全員で帰る」ということは不可能になっていたのです。

ずっと個人主義者だった新蔵愛之助さん)の、身を呈した決断。
庄蔵猿之助さん)の絶叫。

庄蔵、新蔵、光太夫の三人のシーンは、最も「歌舞伎らしい」と思いました。
後から筋書を読み返したら、それもそのはずで、三谷さんは原作のこの場面があったから「歌舞伎にしたい」と思ったそうです。(p.46)
観劇から数日経った今思い出しても、胸が締め付けられます。


結局無事に日本に帰る船に乗ることができたのはほんのわずか。
いえ、でも光太夫は最後まで船頭です。

一番最後に見える景色。
観ている方もこれで、やっと日本に帰って来ることができるんですね。


まとめ


新作を観て思うのが、古典として上演され続けている名作は、いろんな物語の種を含んでいるんだなぁということ。

今回の三谷かぶきにも、今までに観た演目が香るところがありました。

どこまでを「歌舞伎」と呼べるのか、私にはいまいち定かでないのですが、
歌舞伎がそういうネタを持っている、そして音楽や演出の工夫もいろいろ持っている演劇であることは、新しいものを作り続けていく上でとても貴重だなぁと思います。


演劇でも本でも何でもそうですが、一場面でも、一言でも何かが心に留まっていれば、それはそのとき出会うべきものだったんだと思っています。

その意味において、三谷かぶきは私にとって、間違いなく良い観劇経験でした。


「女車引」初心者はこう楽しんだ!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 昼の部感想


昼の部二幕目、「女車引(おんなくるまびき)

来月の国立劇場で出る「車引」を女に替えて仕立てた舞踊だそうです。
元になっている「菅原伝授手習鑑」には全然詳しくないのですが、それはそれとして楽しんできました!
それはそれとして、十分楽しめます。笑

女方三人が舞台に並んで踊ると、華やかで素敵ですね。
衣装にも注目です!!

IMG_20190602_162826
今月の絵看板、手前から千代、春、八重。
それぞれの旦那さんのお名前(松王丸、梅王丸、桜丸)にちなんだ衣装です。





■初心者でも楽しめるのか?


楽しめるのではないかと思います!

一応、三人の背景は知っておいて損はないかもしれません。
私自身が全く詳しくないので何とも言えませんが、ささやかな予備知識としては、

・登場する三人の女性は、「菅原伝授手習鑑」の主人公三兄弟の妻たち
・三兄弟(松王丸、梅王丸、桜丸)のうち、松王丸だけ立場が違うので対立している
・旦那はそうだけど、妻たちの間の溝はそこまででもない(「菅原伝授手習鑑」の「賀の祝」という段を観る限り) 
・この踊りの元ネタ(?)は、「車引」という、三兄弟が対面する場面(※観たことはない)

くらいの感じで行きました。

***

三人の女性の見分け方としては、衣装が一番分かりやすいかと思います!

千代(松王丸の妻)
松の柄の着物。

八重(桜丸の妻)
桜の柄の着物。
一人だけ年齢が若いので帯が長く、振袖。この帯がかわいいんですよ…!

(梅王丸の妻)
当然梅の柄の着物。

それぞれ夫婦の名前が「千代の松」「八重の桜」「梅の春」という組み合わせになっていて覚えやすいですね!

■私はこう見た!ここが好き!


一つ前の幕の「寿式三番叟」から続けて観ると感じるのですが、清元(音楽)がいいですね!

男四人の三番叟は、太棹のびしっとかっこいい竹本の演奏。
その直後に女三人のこの曲が始まると、清元の柔らかさが際立つ気がします。

***

出の花道、中村雀右衛門さん)と八重中村児太郎さん)が連れ立ってやってきます。
若くてかわいらしい八重と、柔らかくてあたたかみのある春。
ほのぼのとした花道です。

この二人はこの後も、 実の姉妹のように頼り頼られの雰囲気が出ていて素敵!

一方、千代中村魁春さん)は本舞台上手(舞台向かって右側)から登場。
どこか凛とした風情があるように感じました。

女三人の間にはそれほど深い溝はないのですが、やっぱり千代とはちょっと距離がある感じがしますね。。

***

一番好きだったのは、三兄弟の父・白太夫の古稀のお祝いの支度をする場面です。

最初はそれぞれ別の方向を向いて、別の支度をしているのですが、若い八重はやっぱりいろいろ手馴れていなくて、うまくいかない。
八重は春に頼るのですが、そんな八重を横から千代がちゃっちゃか手伝ってあげるのです。
千代さんさすが頼もしい!

そして何かこう、何か切ないけど嬉しいけど切ない(語彙力)

***

それぞれの一人踊りがあって、最後は三人で華やかに踊って幕です。
三人できまる一番最後のところ、附け打ちがバタバタと鳴るのが気持ちいいですね!

ただただかわいらしい八重、
ふわっと柔らかくて優しげな春、
強さも兼ね備えている千代。

それぞれ身にまとう空気や立場、年齢が違うので、踊りの雰囲気も全然違います
一つの踊りの中で、こういう風にはっきりとキャラの違う女性を三人も楽しめるのはなかなかないのではないでしょうか?
私が知らないだけでたくさんあるのかしら。。

ともあれ、女方の藝を堪能できる一幕だと思います! 


■まとめ


全体を通して、筋書には「仲良く」「楽しく陽気に」とあるもののやっぱり春・八重/千代という二対一の構図が随所にあるなぁと思いました。

とは言えストーリーは置いておいても、華やかで楽しい一幕です!
女方の踊り、指先まで本当に美しくて、首の傾げ方なんかにもそれぞれの役の性格が出て、踊り好きとしては嬉しい時間でした。
何も考えずに舞台の雰囲気に身を委ねていられる幸せ。

*** 

ちなみに今月の幕見、この前の幕の「寿式三番叟」から「女車引」までの二幕で約1時間、合計1,000円です。 
1時間1,000円というのは、なかなか手頃なのではないでしょうか。

正直、昼の部のプログラムを最初に見たときには「踊りと芝居と交互にしてほしいなぁ…」と思ってしまったりもしたのですが、観てみてからだとこの「1時間1,000円」が実現できたのは大きかったと思います。
私自身もスケジュールの都合をつけて手軽に行けたのでありがたかったです! 

「石切梶原」初心者はこう楽しんだ!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 昼の部感想


6月の歌舞伎座、昼の部二幕目「梶原平三誉石切(かじわらへいぞう ほまれのいしきり)。通称「石切梶原(いしきりかじわら)です。

こういう時代物、台詞が聞き取りにくかったり、展開が現代から考えるとちょっとどうかと思うところがあったりして人に勧めるのは難しいのですが、私はいかにも歌舞伎らしくて好きなのです。

中村吉右衛門さん梶原景時。たまらなく素敵で、ため息ものでした。
セリフの心地よさに、聴いていて何度もにんまりしてしまいました。怪しい。 

IMG_20190602_162916
今月の絵看板。右端の石が切られてますかね…?ガードレールの写り込みが激しい。




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめます!が、
軽くでいいので予習しておくと良いと思います。
私はとても好きな一幕でしたが、事前に筋書を読んであらすじを頭に入れておきました。

耳慣れぬ言葉遣い、しゃべり方に加え、
梶原が二股武士(外面は平家、心は源氏)であること、
本筋である刀の件に至るまでに少し時間がかかることが、
もしかすると難しく感じられてしまうかも。。

でも、個人的にはこういう「わきまえた武士」が非常に好きなので(笑)、そしてまた演じる吉右衛門さんが非常にかっこいいので、
「分かりにくいかも」とか書いてしまいましたがどうか厭わないでいただきたい…! 

***

あらかじめ、ざっと以下のことが分かっていると良いかもしれません↓

【設定】
・最初に出ている兄弟(白塗りと赤っ面の二人)は、何かにつけて梶原と折り合いが悪い。
・特に赤っ面の方(俣野、弟の方)は見た通り嫌なやつ。
【本題】
・途中で出てくる親娘は、娘の婿のために三百両がどうしても必要で、差し迫っている。
・お金を作るために、兄弟の兄の方(大庭)に刀を売ろうとする。
・刀が三百両に値するものなのか、梶原が試し斬り(「二つ胴(ふたつどう)」という方法)をして確かめる。
・この「二つ胴」で誰を斬るか、というところにドラマが生まれる。


二つ胴は、「刀の斬れ味を試すために人間をふたり重ねて胴斬りする」(筋書p.17)という何とも荒っぽい刀の鑑定方法です。

切られるのは罪人なのですが、この場面では罪人が一人しかおらず…という辺りからが盛り上がってくるところです。


■私はこう見た!ここが好き!


幕が開くと、大好き浅葱幕!

幕が振り落とされて舞台一杯に登場人物たちが並んでいるのは、いつもながら浅葱幕効果で壮観です。

背景は鶴岡八幡宮。
遠近法がすごいです!書割(かきわり、「建物・風景などを描いた張物」(『歌舞伎事典』昭和58年,平凡社))を見るのも楽しみの一つ。

***

初っ端に出ているのは、大庭三郎景親中村又五郎さん)、俣野五郎景久中村歌昇さん)兄弟。
兄弟と言えど、又五郎さんと歌昇さんは親子でいらっしゃいます。歌舞伎はそこも面白い。

大庭は白塗りで、落ち着いていて立派な感じ。
俣野は赤っ面で、しゃべり方も若く荒っぽく、粗野な感じ。
こうやってはっきりキャラクターが分かれていると、それぞれの雰囲気を楽しみやすいですね!

梶原平三景時吉右衛門さん)は花道からの登場です。
黒字に金の衣装がすでにかっこいい!

兄弟と梶原は折り合いがよくないので、俣野が何かと突っかかりますが、余裕綽々で返す梶原、さすが気分がいいです。
俣野もいかにもで、分かりやすく「嫌なやつだなー!」と思えるのがいい!笑


さぁ、花道から六郎太夫中村歌六さん)とその娘・中村米吉さん)が登場(こちらも実の親子による父娘役)
この二人が持ち込んでくる刀が、いよいよ物語の発端になります。
娘を振り返る六郎太夫の温かみと、刀を抱きかかえるように持つ梢のかわいらしさ

三百両でこの刀を買い取ってほしい、と頼まれる大庭。
梶原が刀の目利きをするのですが、この一連の流れが良いです!

刀を検めるのにきちんと手順を踏もうとする梶原に、自分などの持ってきた刀なのでそこまでしなくても…と小さくなる六郎太夫。
しかし、梶原は武士としての刀への礼儀として、手水をして、懐紙をくわえ、じっくりと刀を検めるのです。

この梶原のセリフ、しっかり覚えていないのですがかっこよかった。
そして「鈴ヶ森」でも思ったのですが、無言のうちにじっくりと刀を見極める様子、形として非常に絵になるというか、美しいんですよね。目の表情もいい。ずっと見ていたい。。
▶︎「御存鈴ヶ森」観てきました!〜四月大歌舞伎(歌舞伎座)昼の部 初心者の感想

で、刀を見極めた後の「見事、天晴れ、稀代の剣」から始まる梶原のセリフ。
これはもう、聴いているこちらも心が晴れるような気持ち良さです。


せっかく梶原が名刀と認めたにも関わらず、突っかかってくるのはやっぱり赤っ面のアイツ。そうです、俣野です。笑
実際に斬ってみないと分からない、と「二つ胴」(先述)を提案するのです。梶原の目利きの意味!!

ここなんですが、竹本(舞台上手の語り)が俣野のセリフの前、ちょっと早口になっていました。
他にも梢のところはちょっと柔らかい語り方になっていたりして、語りにキャラが出るんだなぁと再認識。
竹本かっこいいですよね…!!

さて、二つ胴といっても、死罪に当たる罪人は剣菱呑助中村吉之丞さん)ただ一人。
試せないので今日のところは引き上げるように大庭に言われた六郎太夫は、以前二つ胴で試し斬りをしたときの折紙(鑑定書)が家にあると言い、梢に取りに行かせます。

娘をこの場から離れさせる六郎太夫のセリフが、後から思い返すとより一層刺さる
折紙はお仏壇の下の引き出しにあるから、ついでにお仏壇にお供えをしておいて、と何気なく伝え、「遅うなっても大事ないぞ」「怪我せまいぞ」と娘を見送るのです。
こういうところの歌六さんの温かみが好きなんです。。

この流れで娘を一人行かせ、仏壇のことを言い置く。
嫌な予感です。

案の定、六郎太夫は、二つ胴の二人目に自らがなると言い出します。
慌てる周囲。しかしそこまでして、六郎太夫は娘のために、三百両をこしらえてやりたいのです。

ここで竹本、「大庭は一途に刀の欲しさ」と聞こえてきます。
そうか、大庭は悪気があるわけではなく、一途に刀が欲しいんですね。
そのためなら、と六郎太夫の提案を飲んでしまうわけです。
うーむ。大庭、憎めない、けど、視野が狭い。。

科人である呑助にも、優しく語りかける六郎太夫。どこまでも温かい。


この罪人である剣菱呑助ですが、名前の通り飲兵衛でして、この人の長ゼリフにはお酒の名前がたくさん出てきます
私はあまりお酒に詳しくないのですが、詳しい方が聞いたらきっと「おっ!」となるに違いない。笑


そうこうしているうちにヤツが痺れを切らしますよ。そうです、俣野です。(2回目)

ここ!個人的に大変好きなところです!!

自ら試し斬りをしようとする俣野を「無礼者め!」と止める梶原の一連のセリフのかっこよさたるや!!!もう何か何というか、これぞ!という感じです。
それにたじたじとしながらも、意地のように一歩踏み出して刀を梶原に渡す俣野の、ピンと張った勢いと迫力もとっても良いです!!!

いよいよ試し斬りのときがやってきます。
六郎の様子を語る竹本、「目元にほろりと一滴 わつと泣くよりいぢらしく」と聞こえてきて、またその様子を見た梶原の何とも言えない表情も切なくて。

折悪しく(いや、芝居的には最高のタイミングで)梢が戻ってきます。
事の流れを理解して、動転する梢。
しかし必死の抵抗むなしく、足軽に肘鉄砲を喰らって気を失ってしまいます。


大変に細かいところなんですが、梢、倒れるときに頭を床につけないんですよ。。
頭(鬘)を壊さないように、ということですよね。
鬘は結構重さがあると思うのに、頭を浮かせたまま、自然に倒れているように見せるってすごいことだなぁと思います。
気付かないだけで、こういう少しずつのすごさの結晶なんだろうなぁ。


この場面、梶原の頭の中には考えがあるわけです。
結局、この刀は一人目は真っ二つに斬りますが、二人目の縄を切ったところで止まります。

六郎太夫は斬られなかった。
「二つ胴」としては失敗です。

細かいとこですが、二つ胴の前に水で清めた刀をざっと振る梶原、かっこいいので注目です。笑

粗悪品を摑まされるところだった、と帰っていく大庭・俣野兄弟。俣野、帰り際まで嫌なやつー!笑

しかし梶原の表情をご覧あれ。
晴れ晴れとした、温かい顔をしているのです。到底失敗とは思えない。

それもそのはず、梶原はもちろんわざと失敗したのです。
父娘が源氏方であるのを、刀の銘から知っていたこと。そして自らも、平家方についてはいるが、心の中は源氏方であること。
この辺の事情を説明する梶原のセリフにまた聞き惚れるのですよ。。

で、ここへきてやっと石切なのですが、
石ってそれ切るの?!という。笑

なんと神社の手水鉢を真っ二つに切るのです。

いや、すごいけれども!確かに名刀だけれども!!
なんか罰当たりそう。。笑

何はともあれ、名刀に間違いなしというわけで、梶原がこの刀を三百両で買い取ることを約し、三人は梶原の屋敷へ向かうのでした。

最後、幕が引かれてからもしばらくお芝居が続きます。
こういうの、何だかちょっと長く楽しめた気がして好きなんです。単純。笑


■まとめ


はぁ、、何とも濃厚な舞台でした。味わいました。
又五郎さん大庭の貫禄、歌昇さん俣野の勢い、歌六さん六郎太夫の温かみ、米吉さん梢の可憐さ、
そして何と言っても吉右衛門さん梶原の圧倒的な大きさ。かっこよさ。気持ちのよさ。

加えて、歌舞伎らしい、現代から見たらとんでもない演出がいろいろ楽しめるのも嬉しいところです。
二つ胴の場面に使われる、ブラックジョークのような小道具。
ばっくり割れる(のに中の水には特に支障がない)手水鉢。

それから、先述した梶原と俣野との二人できまるところとか、梶原の刀の検分とか、そういう絵として記憶に残しておきたいような場面もあって。

歌舞伎を観たー!という感じの充実の一幕でした。

今月は月の前半に昼の部を観られたので、もう一回くらい行けるといいな。
昼の部は仕事帰りに行けないので、一度目は早めに観に行っておかないと、「もう一回観たい!」と思ったときに手遅れになるのだと最近やっと学びました。笑

 

「寿式三番叟」初心者はこう楽しんだ!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 昼の部感想


6月の歌舞伎座、最初の演目は「寿式三番叟(ことぶき しきさんばそう)

2日目の今日はかなりの混雑でしたが、これはもう人が入れば入るほど会場内が熱くなれるような演目なんじゃないかと!
三番叟の松本幸四郎さん尾上松也さんの踊り、最初の幕から飛ばしに飛ばしています!!

IMG_20190602_162735
今月の絵看板、上から翁、千歳、三番叟。ちゃんと松の絵も描いてあるんですね!




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめます!

最初の方は、中村東蔵さん)と千歳中村松江さん)による儀式的な、格調高い踊り
後半、三番叟(幸四郎さん、松也さん)が出てきてからは、観ている方の息も吐かせぬ勢いある踊りで、ちょっと前半からは想像できないような展開です。笑

太棹三味線の太い響き、力強い足拍子、鈴の音…目だけでなく耳も楽しい演目だと思います!

★三番叟の振りの中に、両手を使って「大入」と書く振りがある、ということを知っているとちょっと楽しみが増えるかもしれません。
(初めて観たときに一体何の動きをしているのかと思ったら、これ↑だったらしい)


■私はこう見た!ここが好き!


面白いなぁと思ったのは、面箱を捧げ持った千歳(松江さん)と翁(東蔵さん)が出てくるとき、舞台上にいる方達が全員頭を下げているのです。
地方さん(音楽の方々)も、後見さんも。
儀式性の強い踊りということが、こんなところにも表れるんだなぁと思いました。

ここの音楽も幻想的というか、耳馴染みがない言葉が続くんです。

「とうとうたらり たらりら たらりあがり ららりとう…」
 
元はサンスクリット語ではないかと言われているようですが(諸説あり)、詳細は分かっていないそうです。
そんな呪文のような言葉から始まるということが、もう何だかわくわくしちゃうんですよ!子供の心を忘れない大人。

***

やっぱり三番叟の踊りがものすごくて、通しで観るならば一幕目からがっつりと心を掴まれるのではないかと思います。

序盤、つつつ、と花道まで歩いていって、きりっと舞台を向き直る動きの緊張感

ここから怒涛の勢いで踊りが展開していきます。
飛んだり跳ねたり踏んだり。

とにかく幸四郎さんも松也さんも目を瞠るほどの勢いで動き、一瞬たりとも気が抜けません!

特に幸四郎さんはさすがで、ちょっとしたところの動きの細やかさや、どれだけ激しく動いてもブレない軽さ、しなやかさに感動しました。

そして無駄のなさ、力みのなさですよね。。
三番叟の衣装、袖が大きいなぁと思うのですが、あのたっぷりした袖をいとも自然にすっと腕にかける。
あれだけ動く踊りにも関わらず、観ているこちらが忙しくなく、気持ちが良かったです。

***

三番叟の特徴は足拍子なのではないかと思います。
一つのリズムを二人で分担して踏むのです。

他の踊りでも足拍子が特徴的なものはありますが、こと三番叟に関して言えば、農耕の中の「地面を踏み固める」というところから足拍子が多用されるようです。
五穀豊穣を祈る踊りだということがよく分かりますね!(ちなみに鈴も、稲穂を表しているそうです。)

この足拍子の音がいいんですよ。。
以前、所作板についての記事を書いたのですがこちら、今回の舞台にもこの所作板が敷かれています。
とにかく音がよく響きます!!

二度目に花道に来たときが、特に体に響いてきた気がします。幕見席の花道上くらいにいたので、場所の関係もあるかもしれません。

ただでさえ華やかな太棹三味線の音に、この力強い足拍子の音が加わって、音フェチとしてはもうたまらないのです

***

とにかく怒涛の勢いで動き続けてきた三番叟、終盤にピタリと静止したところで、気付けば自然と拍手しておりました。。

あんなに動いてきて、こんなに涼しく止まれるものか!

何というか、繰り返される旋律の中で激しい動きを見続けていて、一種のトランス的なものだったのではないかと。笑
このすっと止まった瞬間に、目が覚めたようでした。


■まとめ


幕開けがこんな素敵な三番叟。「六月大歌舞伎」全体が楽しみになりますね!

11時開演、幕見席は10時半チケット販売開始で、10時過ぎにはもうかなり並んでいるので、幕見でいい席を確保したければちょっと朝早くはなるのですが(日頃の不摂生が垣間見える発言)
早起きしてこれが観られたら三文以上の得というものです。

偉そうなことを言って恐縮なのですが、後半に観に行ったらきっともっと面白くなっていると思います!

もう一回くらい観たいなぁ。

 

「京鹿子娘道成寺」観てきました!〜團菊祭五月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


はい、

今月はしんどかったです!

過去に拝見した踊りがどれも素敵だった尾上菊之助さんが、「京鹿子娘道成寺」という大曲を、歌舞伎座で踊る。

この大曲には、これまでにずっと流れてきた「道成寺の系譜」みたいなものがあるわけで、その流れに今、自分が観ることができる今、菊之助さんという新たな花子が加わるわけで。

いえ、それはどの演目もそうなのでしょうけれど、一人でこれだけの時間踊り続けるという点において、そして女方の集大成とも言われる踊りという意味で、やっぱり道成寺は特別な気がします。

そうなると、単に「「道成寺」という演目を楽しみましたよ!」で終わりたくない。
「菊之助さんの道成寺」という見方をしたい。

そもそも道成寺を初めて通して観る自分が、「菊之助さんの道成寺」を覚えておくためにはどうしたらいいんだろう。
私は「道成寺」という演目そのものをどうやって観ればいいんだろう。 

いろいろと思い入れが強かったゆえに、気がつけばこの曲のことを考えていた一ヶ月でした。 

結局「菊之助さんの道成寺」という見方ができたかどうかは定かでないのですが、
何にせよ一生懸命だった今月の観劇の痕跡、ここにしたためておこうと思います。
いつも以上に独りよがりですが、何卒ご容赦くださいませ。

IMG_20190526_024616


■道行


黒地に花を散らした衣装で登場。
ここだけ音楽が竹本なのが面白いです(他の部分は長唄)。

花道で踊られるこの部分、「白拍子花子」と「清姫の霊」が渾然としていると思います。
詞章でも花子のいそいそとした娘っぽさと同時に、鐘への執着が語られます。

鐘を観ながら体に溜めを作ってじりじりと動き、「清姫」としての心情を見せたかと思えば、そのあとまたすっと「花子」としてのかわいらしさが見えたりもして、「ここから物語が始まるんだなぁ」と感じました。

この「道行」の踊り方で、その方が踊る花子の人物像みたいなものの一端が、少し見えてくる気がします。
菊之助さんの花子は、はっきり娘むすめしているわけではなく、かといって色っぽすぎず、おっとりとしたお嬢さんな感じ。 


■乱拍子/中啓の舞(花の外には松ばかり〜/鐘に恨みは〜)


黒の着物を脱ぎ、赤の鮮やかな衣装で再登場です。金の烏帽子をつけます。
ちなみにこの烏帽子と中啓(このときに使うお扇子)、歌舞伎座ギャラリーに展示してあり、自由に撮影ができましたよ!なりきり花子セット。

ここでは鐘のことが歌詞にたくさん出てきて、振りでも鐘を見るところがいくつかあります。

印象に残っているのは、「花の他には松ばかり〜」で一度花道の方に行き、七三で鐘を振り返るところ。
ここではキッと見上げるのではなく、ふっと引かれてしまう感じ。
きまった形の美しさよ。

そしてもう一箇所、この部分の終わりで「真如の月を眺め明かさん」で、たっぷり溜めて鐘を見上げるところ。
目が素敵なんです。鐘を見るときは目つきが変わるんです。 


■手踊り(言わず語らぬ〜)


しっとりとした曲調の、手踊りの部分。
烏帽子は外しますが、先ほどと同じ赤の衣装で踊ります。

細かいのですが、「つれないはただ 移り気な」のところがとても好きでした。

足を出して体を少し捻り、その足をちょっと上げて下ろす、その足先の何気ない表情が繊細で、かわいらしくてですね…
目線、足先、全てに拗ねている娘のいじらしさが溢れていました。

菊之助さんの踊りは、まっすぐだから好きなのです。
まっすぐというのは、決して「固い」「動いていない」ということではありません。
「素直」と言ったら良いのでしょうか、言葉選びって難しいのですが。。巧まない、と言いますか。

この部分もシンプルかもしれませんが、だからこそ楚々としたかわいらしさが浮かび上がってくるのだと思います。


■毬唄(恋の分里〜)


先ほどの部分の最後「都育ちは蓮葉なものぢゃえ」で引き抜きになり、一瞬で衣装が赤から浅葱色に替わります。
引き抜き、演出として盛り上がるので良いですよね!

ここの引き抜き、後見の方のお力も大きいと思うのですが、私が観た日は全く踊りに影響がなくてすごいなぁと思いました。

ここから少し曲の雰囲気が変わります。
テンドツツン、テンドツツンというお三味線のリズムも楽しく、華やかになるところです(口三味線あいまいですごめんなさい)。

この毬唄の部分は、私としては今回の菊之助さんの道成寺の中で、一番好きなところかもしれません。
何ともほのぼのとした、おっとりとした娘の雰囲気が愛らしい。 

首をきゅっと曲げるとか、はっきり動くとか、娘っぽさを出す方法っていろいろあると思うんですが、菊之助さんの花子はそうではない。
あのただただ溢れ出る、育ちの良さそうな娘の雰囲気はどこから来るのでしょう。動きの柔らかさでしょうか。

柔らかさといっても、玉三郎さんみたいな流れるような柔らかさとはまた違うのです。
もっと素直な、ぽわっとした、丸みを帯びた感じなんですが、うーん、全然説得力がないですね…

見せ場としては、しゃがんだ体勢のまま毬をつきながらつつつと円を描くように回ってくるところだと思うのですが、
印象的だったのは「室の早咲き それがほんに色ぢゃ」のところで、左の帯の前辺りでふわっと花を咲かせて丸めて毬にする振り。
とっても何気なく踊られるのですが、柔らかさきめ細かさが本当に素敵でした。 

確か、以前某テレビ番組で玉三郎さんが「ここは陰気な感じを見せる」とおっしゃっていたと思うのですが、
菊之助さんのこの部分に陰気さは感じず、むしろ無垢な少女だったような気がします。私が感じ取れなかっただけかしら…。

この部分の最後、「思い染めたが縁ぢゃえ」でゆっくりと首を振るのですが、それまでのほのぼのとした空気感と、ここは一線を画しているように感じました。
じっとりとしたものが一瞬滲んだ気がして、ぞっとしました。 


■振り出し笠の踊り(梅とさんさん〜)


先ほどの衣装の上だけ肌脱ぎになって、朱鷺色の衣装に替わります。
道成寺は衣装を見ているだけでも見応えがありますね〜!それくらい衣装替えが多いのです。

「振り出し笠」という三連の笠を使った、見た目にも華やかなところです。
赤い笠を被り、両手に振り出し笠を持って踊ります。

曲調はちょっとおっとりしつつも、明るい雰囲気。

笠を被っている姿って、かわいらしくて好きなんです。顔が小さく見えるからでしょうか、そして影がまたいい感じの効果を生むのでしょうか。

ここもまったりと娘らしくて素敵でした。

「分きて云はれぬな 花の色え」 で、かぶった笠と手に持つ笠を正面で縦一列に重ね、とんとんとんと後ろを向く振り、
要は頭の上にかぶっている笠を正面に見せなくてはならないので、ちょっとうつむくことになるのですが、このうつむく前に一度正面にちょっと顔を見せる感じがかわいらしかったんです。踊りが細かい…!


■クドキ(恋の手習い〜)


先ほどの踊りのあとに、同じ曲調のまま所化の踊りを挟み、また花子が出てきます。
藤色の衣装に替わっています。

しっとりと女心を見せる、いわゆる「クドキ」の部分で、手拭いを使って踊ります。
手拭いの柄は「重ね扇に抱き柏」の、尾上菊五郎家の家紋でした。

ここで好きだったのは、「おお嬉し おお嬉し」で首をいかにも娘らしく曲げ、そして後ろを向いてきまるところ。
そのかわいらしさと、後ろ姿の美しさ、柔らかさ。シャープすぎない感じがとても好きです。

それと「悪性な悪性な気が知れぬ 恨み恨みてかこち泣き」で、鐘を見ながらすーっと上手へ進むところ、踊りというよりはこの瞬間は特に芝居っ気が強いと思うのですが、心ここにあらずな一瞬です。
鐘に目を据えたまま、手元を見ずに手拭いを肩から外す所作に、躊躇いとか激しい想いとかが見えました。

そこからまたぱっと踊りのリズムが変わって、手拭いを振りながら歩く。
その緩急にどきどきするのです。


■鞨鼓の踊り(山尽くし)


上だけ肌脱ぎで、白地に派手な模様の衣装に替わっています。
鞨鼓という小ぶりの太鼓を帯の上につけて撥で叩きながら、様々な山を詠み込んだ歌詞に合わせて踊るところです。

この辺りから踊りの見せ場なんじゃないかと思います。
というか、こういうたくさん動く、盛り上がっていく踊りが私は大好きなんです。笑

「散りくる散りくる嵐山」、結構な詰まった間でぱっと座って、撥でトコトンと床を叩くのですが、それも何気ないんですけどちゃんと整った美しさなんですよね。。

「稲荷山」のところ、ぴょんと跳んで狐の振りなのですが、そこすらも品がありました。
あと、お正月を思い出しました。笑この記事

「稲荷山」のあとはまたがらりと雰囲気が変わり、勢いを感じるような踊りに。
一曲の中でどんどん変わっていきます。
序盤のほのぼのとした空気感は、この辺りの勢いを際立たせるためにあったのかと思うほどです。

★このあと舞台上はしばらく空くのですが、そんなときは音楽の聴かせどころです。
道成寺には三味線に拍手が起きるところがたくさんありますが、私はこの部分の音楽が一番好きです。三味線の華やかさはもちろん、鳴物のリズムがとてもおもしろくて、ここから先の盛り上がりを予感させるようです。


■手踊り/鈴太鼓の踊り(ただ頼め〜)


来ました、道成寺という長い曲の中で私が最も好きな部分です。笑
紫の麻の葉模様の着物になります。

ここも、菊之助さんの魅力が詰まっているなぁと個人的には思いました。

これまでおっとりした雰囲気の娘でしたが、ここはきゅっと首を曲げて、かわいらしさ全開。
袖で隠して人を呼ぶ振りが可憐!!

この「ただ頼め」から始まる手踊りの一連の振り、とてもかわいくて大好きなのですが、それを大好きな感じで踊っていただけるともう非常に嬉しいのです。
 

一旦後ろに下がり、鈴太鼓を持って、出てくるときに引き抜いて白の衣装になります。

鈴太鼓の軽やかな音。
曲調も一層華やかに、テンポも一層速くなって、今まで以上に舞台の空気が動き出す感じがします。 
 
ここも何せ形が素直で美しい。大きく動いても決して崩れない。
踊る人としては当たり前なのかもしれませんが、、でもそれを当たり前に見せることができる、というのは凄いことだと思います。
 
これが一番分かるのが、「さっさそうぢゃいな さっさそうぢゃいな」で手肩肩膝膝と叩くところ。
かなり体重を前にかけてから後ろに戻してくる感じですが、無理のない形というか、整っていたというか…。

その勢いのあと、前に出てきてぺたんと座って、ちょっと首を傾げて止まった形の、素朴なかわいらしさ! 

で、ここからです。ここからが道成寺の中でいっちばん好きなんです。
鈴太鼓でリズムを取りながらの早間の踊り。

菊之助さんのここ、とても好きです。丁寧で、細やかで、可憐で。 
 
軽やかな音に合わせて、踊りも軽快で、観ている方もだんだん引き込まれ、浮かされ、乗ってくる、

そこで急にハッと鐘を振り返り、ドロドロドロと太鼓が鳴って、清姫の本性が出てくるんです。

このスピード感、勢い。
もう絶対に取り返しがつかないのがよく分かる。

所化たちを振り払い、一気に鐘へ飛び込みます。

3回観て、3回とも鳥肌が立ちました。


■鐘入り


最後は上だけ肌脱ぎで、白地に蛇を表す鱗模様が銀色に光る衣装です。

鐘に上って、長い袖を巻き付けた右手を上げて見下ろすときに、恨みだけでなく哀しさが見えた気がしました。

やっぱり清姫としては、やり方はおかしかったにしろ純粋な恋だったわけで、ということは純粋な失恋だったんですよね。


…ふぅ。
満足感。

***

先述の通り3回観ましたが、3回目が一番好きだった。
立ち見でしたが、立ち見一列目だと花道なんかは、座るより却ってよく見えますね。
鐘の真ん前だったので、最後がよく見えたのも嬉しかった。

とにもかくにも、人生初道成寺を歌舞伎座で、菊之助さんで観られて、それを自分なりに感想に落し込むことができたのは大きかったなぁと思います。

明日は千穐楽。
観に行けませんが、きっと今日も、繊細で純朴な花子がいるんだろうなぁ。 


プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇2年目、毎月何度か劇場に通う日々。
◆着物好きの友人の影響で、着物でのお出かけが増えてきた今日この頃。

Twitter プロフィール