ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

歌舞伎

「黒塚」初心者はこう楽しんだ!〜四月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


先月の「吃又」で、ぎゅっと心を掴まれた猿之助さんのおとくこの記事
その猿之助さんの舞踊劇「黒塚(くろづか)、これは逃すわけにはいかないと楽しみにしておりました。

そして、やっぱり素晴らしかった。圧巻でした。圧倒されました。

幕見の感想を語ります。

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今月の筋書。咲き誇り、散っていく桜。解説は筋書p.33。




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめます!
「楽しむ」という感じの演目ではないかもしれませんが、何かしら響くものは大きいと思います。

老女・岩手の苦しみと、そこから解放される喜び。
その喜びも束の間、やはり鬼となってしまう悔しさ、辛さ、我が身を恥じる気持ち。

岩手の胸の内が伝わってきて、こちらの心が素手で鷲掴みにされてがたがた揺さぶられる感じです。 

楽しく気持ちの良い踊り、一転して鬼の本性を顕したあとの迫力など、多彩な踊りに「おぉ!」と思える演目

照明や芒の原の大道具、琴や尺八が入って厚みを増す音楽など、舞台全体を通して楽しめると思います。 

***

参考までに、非常にざっくりとあらすじをば。
能の「黒塚(安達原)」が元になっているようです。

自分を裏切った夫を恨みながら、長い年月を安達原のあばら屋で一人、暮らしていた老女・岩手。
そこにやってきた仏道修行の一行が、一夜の宿を求めます。
彼らに救いの言葉をかけられた岩手は、「閨の中を見ないでほしい」と言いおき、彼らをもてなすための薪を取りに山へ入っていきます。

妄執の晴れた岩手。月の光の下で童心に返り、気持ちよく踊ります。

しかし、先ほどの一行が「見るな」と言われた閨を見てしまう。
閨の中は血の海。岩手は鬼女だったのです。

裏切られたことに憤り、鬼の本性を顕して、彼らに襲いかかる岩手。
しかし最後には、彼らの法力に力尽きるのでした。
 

■私はこう見た!ここが好き!


出だし、閨に浮かび上がる老女・岩手市川猿之助さん)の影。
寂しい粗末な小屋です。
ここで岩手は長いこと、ずっとこうして一人でいるんだなと思うと、まだ影しか見えていないのにこの時点で早くも切なくなってきます。

阿闍梨祐慶中村錦之助さん)ら仏門修行の一行との問答を経て、薪を取りに行く岩手。
ここからの場面、全てを観終わったあとに振り返ると、とっても哀しい。

垣を越えたところで、岩手はふっと立ち止まります。
重く響く鐘の音。 
しばらく考えて、一度戻り、一行に「閨の中は絶対に見ないでほしい」と声をかける。

承知した一行を見届けて花道を去っていく岩手ですが、やっぱり不安なのです。
立ち止まって、戸惑う様子で視線を泳がせながら、もう一度振り返る。

信じて良いんだろうか。
いや、でも自分に仏道の教えを説いてくれた、立派な人なんだから…

彼らに「必ず成仏できる」と言われて幸せな気持ちを、保っていたいんですよね。
不安で仕方ないけれど、やっぱりそう言ってくれた彼らを信じたい。

この二度にわたって立ち止まるところ、張り詰めた空気にやられました。
岩手の不安、迷い、覚悟…そんな諸々が滲む。

どうしても見た目が派手な「動」に注目しがちですが、
「止まる」ことも、劇場全体の空気を支配できるものなんだな、と。

さて、これは大学時代の恩師の言葉なのですが、
「見るなと言われて見ない話はない」

一行の中の強力・太郎吾市川猿弥さん。強力(ごうりき)は修験者の荷物持ち)が、我慢できずに岩手の閨を覗いてしまいます。

そこに広がるのは、血の海と骨。
岩手が鬼女だということに気付く恐ろしい場面で、第一景が終わります。


続く第二景は、芒がいっぱいに広がる舞台です。
奥から岩手が、薪を背負って出てきます。

祐慶らの言葉を信じ、来世は成仏できると喜ぶ岩手。
月明かりの下、一人気持ちよく踊ります。

この場面、舞台がとても美しい

月明かりと影の演出、その下で豊かに揺れる一面の芒。
岩手の衣装も、月に照らされてきれいに輝いています。
箏や尺八が加わった音楽の厚みにも、岩手の深い喜びが伝わってくるようです。

あとの展開が分かっているだけに、この場面の岩手がとても愛しい。
自分の影と戯れながら、童心に返って踊るのです。苦しみから解き放たれて、本当に嬉しそうに、気持ち良く。
こんな気持ちになれたことは、岩手にとって一体何年ぶりなんだろう。

しかし、楽しい時間は長くは続かない。
“見るなの禁”を破った太郎吾がやってきます。

閨の中を見られたと悟る岩手。
怒りから、鬼女の本性を顕していきます。

ここの迫力が物凄くて。
 
猿之助さんの跳躍力、体のキレ、見事でした。
膝詰めで進んでいくところも、スピードと勢いが凄い。
観ているこちらも岩手に取って食われそうで、息を呑んで見入ってしまいました。

照明が落とされ、中央に浮かび上がる岩手と太郎吾。
真っ赤に塗られた岩手の口。
恐ろしかったし、岩手の心の叫びが聞こえてくるようで哀しかった。

岩手、絶対にこんな未来は望んでいなかったんですよ。
こんな姿になんかなりたくなかったはずなんですよ。
でもこうして、変わってしまう我が身。
どうにもならない感情の発露がとても苦しい。

一度鬼女は引っ込むのですが、後ろに倒れ込む演出はさすがの迫力でした。

何とか助かった太郎吾、膝がくがくで立てません。
そりゃそうだ…観ているこっちの膝もがくがくだもの…
 
この太郎吾の踊り、身軽で軽妙で、何もなく観ていればとても楽しいところ
しかしこちらとしては岩手が気がかりで…いや、楽しかったんですけどね!
大向こうからは「猿弥!」の掛け声も何度もかかっておりました。


ここから第三景に移る間の三味線、とても格好良いのです。
間に三味線の聴かせどころがあるのって素敵ですよね。毎度わくわくしています。


第三景。
芒の原に到着した祐慶ら一行に、鬼女となった岩手が襲い掛かります。

岩手、完全に鬼の拵えです。さっきとは全く違う。

こんな姿になるはずじゃなかったのに。この苦しみから解放されると思っていたはずなのに。
祐慶たちはさっきの喜びに満ち溢れた岩手を知らないから、鬼女となった岩手は完全に「押さえ込むべき相手」なのです。 

祐慶をはじめ、弟子の大和坊中村種之助さん)、讃岐坊中村鷹之資さん)も懸命に岩手に立ち向かいます。

彼らの法力に、弱っていく鬼女。
花道での仏倒れ(体を真っ直ぐにしたままうつ伏せにばったり倒れる)、からの暗転…

何で岩手はここまで苦しまなければならないんだろうか。

舞台は、月明かりと影。
さっきは喜びとともに眺めていたのに、すっかり変わってしまった自らの姿。
岩手の絶望は計り知れません。

恥じ入って小さくなる岩手。

彼女が救われてほしいと、強く思います。

仏道の教えって、岩手を救えるものじゃなかったのか。
あなたがたが彼女の閨を見なければ、岩手だって法力に組み伏せるべき相手ではなかったものを。。


■まとめ


「黒塚」、あまり知らないで観に行ったのですが、すっかりやられてしまいました。。
しばらくグロッキーになりそうな余韻。そのくせまたすぐにでも観にいきたい。

***

私の周りには、猿之助さんのひいきが多いのです。
その理由が、この2ヶ月で分かった気がします。

空気感がなんだか独特なんです。じりじりとした濃密さがある、というか。
どちらかというと動かないところ、止まったところに、その緊張感が滲み出る気がします。

加えて動くところの圧倒的なキレの良さ、迫力!
あんなに緩急見せつけられたらもう、圧倒されてしまいます。凄い。

その意味で、「黒塚」は猿之助さんの藝を堪能できる貴重な演目でした。

仕事帰りに寄れてしまうから恐ろしいな…

 


「実盛物語」初心者はこう楽しんだ!〜四月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


公演情報が出た瞬間にときめき、心待にしていた演目。
昨年の平成中村座で、勘九郎さんの実盛で観た「実盛物語(さねもりものがたり)を、今度は仁左衛門さんで観られる喜び!!

はい、やっぱり素晴らしかったです。

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今月のポスター、片岡仁左衛門さんの実盛。渋かっこいい。。今月だけなのが惜しい。。




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめますが、軽くで良いので予習をしておくことをおすすめします!

登場人物の立場が途中で「実は…」と変わってしまうので、初心者としてはちょっと理解しにくい。
そもそも「片腕」というものの存在が、なかなか予想をつけにくくしていると思うので… 

しかし!
子供のかわいさや、武士として、人間としての生き方の重みや深みはやはり胸に響くものがあるし、
最後の花道での馬の表情などは、歌舞伎の堅苦しい印象を取っ払うと思います。

以前にも書きましたがこの記事、本当にいい話なんです。
もし迷っている方がいるならば、難しく考えずにぜひ行ってみていただきたい!!

***

初めてでも楽しめるように、極力情報を絞ってまとめてみました。
 

力不足ではありますが、少しでもご参考になれば…


■私はこう見た!ここが好き!


いやもう、全体的にとても温かみがあって、また大好きな一本が増えたな、という感じでした。

出だし、太郎吉寺嶋眞秀くん)の「おれがとったー!おれがとったー!」がよく響きますね!
持っているものは「片腕」という、見様によってはかなり不気味なものなのに、太郎吉のおかげでだいぶのどかなシーンになっています。
よく考えれば太郎吉、お母さんの腕だとどこかで分かっていたから、怖くなかったのかもしれませんね。

母・小万片岡孝太郎さん)に対する太郎吉の態度には、やっぱり胸を打たれます。
動かぬ母に向かって「もう無理は言わぬ」とすがったり、泣きながら母をぽんぽんと撫でたり、その泣き声がだんだん小さくなっていったり…
こちらも泣かされました。 

眞秀くん、先月に引き続きとても立派でした!!


この太郎吉をとりまく人々の温かさもとても良かった。

太郎吉が来るのを迎える祖母・小よし市川齊入さん)の手、
実盛に小万の死を聞かされて、太郎吉の膝を力強く撫でる祖父・九郎助片岡松之助さん)。

この夫婦が、馬に乗せてもらった太郎吉に手を振ってくれるところも、ほのぼのとしていて思わず頬が緩みました!太郎吉嬉しいだろうなぁ。笑


太郎吉との絡みで最もぐっときたのは、やはり瀬尾中村歌六さん)です。 

瀬尾、最初はやっぱりどう見ても悪いやつにしか見えないんです。
話し方も話す内容もいちいち高圧的だし、一旦立ち去るところの去り際のセリフも嫌味っぽい。

「腹に腕(かいな)があるからは、胸に思案が…いやいや、なくちゃかなわぬ」

みたいな感じのセリフだったかと思うのですが…どうにも嫌らしいなぁ。笑

ちなみにここの言い方が個人的に好きで、「胸に思案が」まではいかにもな感じで勿体をつけて言うのですが、「いやいや」でふっとくだけるのです。
その感じがもしかすると、先述の嫌味っぽさを感じた所以なのかもしれません。…どうだろう、うまく説明できないのですが。。

その嫌らしい瀬尾が後半は一変。

小万を足蹴にするとき、瀬尾は一瞬ためらいます。
それでも我が娘の亡骸を蹴飛ばして、わざと実の孫である太郎吉に刺される。

刺されてからの瀬尾、本当に好きです。

いとおしそうに太郎吉に手を伸ばす様子、
「これ孫よ、爺ぢゃ、爺ぢゃ、爺ぢゃわやい」と大事な孫を抱き寄せる様子…
実の孫と対面できるのが、奇しくも自分を斬らせて武勲を立てさせる場面になってしまうという、壮絶で悲しい場面の中に、太郎吉への愛情が溢れていました。

太郎吉、どこまで状況を理解しているんだろうか。。何歳くらいの設定なんでしょう。
嫌なやつと思っていたこのじいさんが、本当は命がけで自分の将来を考えてくれたんだと、この場じゃなくてもいいから気付いてほしいな。

平馬返りという大技こそなかったけれど、歌六さんの瀬尾の深みはやっぱりとても好きです。


さぁ、やっと実盛片岡仁左衛門さん)を語りますよ!!笑

ポスターからも分かる通り、実盛、大変に格好良いのです。

葵御前中村米吉さん)の子が生まれた」と差し出されたものを、立場上どんな気持ちで確認すれば良いのかと思案するところから、
包みを開き、中が片腕であるのを驚きをもって瀬尾とともに見てきまるところまでの、一連の流れの美しさ。
腕を挟んで実盛と瀬尾がきまったところ、絵にしてほしいくらいでした。

腕を切った女がこの家の娘であり、幼い太郎吉の母であると分かったあと、無礼を顧みずに「なぜ切った」と詰め寄る九郎助の言葉を聴く実盛の表情も、胸に刺さります。

平家の中にありながら、源氏再興を潰えさせたくない実盛の立場としては、あの場面では腕を切るしかなかった。
しかしそうは言っても、やはり一人の娘であり母である小万を殺してしまった、という事実に変わりはない。
その間で苦悩する鎮痛な表情に、平家の武士ではない、一人の人間としての実盛が表れてくるなぁと思いました。

その苦しみがあるからこそ、のちの太郎吉に向ける優しい顔がまた重みをもって見えてきます。
この子の母親を救えなかったこと、この子がのちに源氏の大将になるべき人の家来になること。
いろんな思いがありながらの、あのいとおしそうな笑顔なんでしょうね。

綿繰り機の馬にまたがって「勝負!」と息巻く太郎吉のもとに、扇子をぱちぱちやりながら気持ちよく歩いていく実盛、絶対子供好きなんだろうなぁという雰囲気。
そのあとに太郎吉の鼻を拭いてあげるところとか、葵御前の産屋を覗こうとする太郎吉を連れ戻しての「つねつねするぞよ」というセリフとか、
自分が子供だったらああいうおじちゃんは無条件に信頼してしまうなぁと思いました。笑

そんな場面があってからの、最後の花道。

馬を出す瞬間、それまで伏せていた目を、きりっと上げて前を見据える実盛。

もうここからは、一人の武士としての実盛です。

これまでの全てを含みこんで、自分がゆくゆくはあの子供に討たれるのだという未来も胸にありつつ、救えなかった小万のことも思いつつ、実盛は生きてゆくのでしょう。

実盛の人間として、武士としての凛々しさ、格好良さが、あの目に全て表れているようで、やられました。


■まとめ


先述しましたが、「実盛物語」は純粋にいい話なんですよね。
誰も悪くないんです(告げ口する矢走仁惣太片岡仁三郎さん)は別として)。だから、一人ひとりにとても感情移入してしまうし、胸を打たれるのです。

初見で好きだなぁと思った話をこうして別の配役で観られて、新たな感動を得られるのは、歌舞伎のとても好きなところ。
平成中村座と違って今回は気軽に幕見に行けてしまうので、おかわりの誘惑に打ち克てるかが今月の課題となりそうです。笑

【関連記事】
▶︎平成中村座で観た初めての「実盛物語」の感想はこちら
▶︎初心者向けに情報を絞った「実盛物語」予習記事はこちら
 
 

【歌舞伎初心者向け】ざっくり予習する「実盛物語」


2019年4月の歌舞伎座で上演される「実盛物語(さねもりものがたり)

一度観てみてとても面白かったのですが、予習なしだと理解するのはきつかったのでは、と思います。

だって分かりにくいんですよ、途中で立場が変わっちゃったり「実は俺も源氏方なんだよ」みたいな平家がいたり…。 

そんなわけで、今回は「出てくる人順に」「源平の構図を見やすく」ということに重点をおいてまとめてみます。
話の筋が最低限追えるところのみを書いているので、細かい登場人物など、割と省いています。

少しでも観劇前のご参考になれば…

 

本題の前に…
【最重要アイテム・源氏の白旗】

この場面で最も重要なのが「源氏の白旗」。白い巻物のように見えます。初っ端でおじいさんと子供が持って、花道から出てくるものです。
白旗は源氏のシンボル。今は平家に押され気味な源氏方にとって、守り抜かねばならない大事なアイテムなのです。

・大まかなあらすじ

1.最初


場面はお百姓の九郎助さんのおうち。
舞台にいるのはみんな源氏方と思って問題ありません。
こんな人々が出ています。(グレーアウトは家系図用に記載、この場面には出ていません)
 
葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万
   |
  太郎吉 

・九郎助(くろすけ、おじいさん)と太郎吉(たろきち、子供)は、花道からの登場です。源氏の白旗を握りしめた片腕を持って出てきます。
 
・最も立場が上なのは葵御前(あおいごぜん)。源氏の武士である木曽義賢(きそのよしかた)の子を身ごもっていますが、義賢はこの前の場面で息絶えています。

・グレーアウトされている小万(こまん)ですが、この前の場面で平家方との乱闘ののち、源氏の白旗を死守するために逃れたまま、行方が分からなくなっています。 

2.実盛と瀬尾十郎の登場


花道から出てくる涼やかな武士・斎藤実盛(さいとうさねもり)と、態度が大きくてあんまり印象のよくない(笑)瀬尾十郎(せのおじゅうろう)

どちらも平家方です。

こういう構図が出来上がります。

【源氏方】

葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万
   |
  太郎吉 

【平家方】

斎藤実盛、瀬尾十郎

木曽義賢の子を妊娠中の葵御前を追い、その子が男の子(=源氏の後継ぎ)だったら殺そうということでやってきたのです。

困った九郎助、なんと先ほどの片腕を「これが産まれた子供です」と差し出します。とんでもないな。
しかしこの片腕に、実盛は思うところがありました。 

3.実盛の物語


実は、実盛はここに来る前に、ある女性の腕を切っています
その女性こそ、上の図でグレーアウトされている太郎吉の母・小万(こまん)
そこにはただ「平家だから源氏を斬った」というのではない事情がありました。

実は、実盛は元は源氏方。今でも源氏の方に心を寄せています。

平家に囲まれ絶体絶命の小万が、命懸けでこの白旗を守っているのを見て、
せめて白旗だけでも救おうとやむなく彼女の腕を切り落としたのです。

※「物語」はお話の意味ではなく、文字通り「何かを物語る」ということです。 
 
【源氏方】

葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万
   |
  太郎吉 

【心の中は源氏な平家方】

斎藤実盛

【平家方】

瀬尾十郎

4.小万の登場


折しも花道から運び込まれる小万の死骸。太郎吉のお母さんです。

最初に出てきた片腕を死骸につなぐと小万は一時的に生き返るのですが、白旗の無事を知ると、いよいよ息絶えてしまいます。

小万は九郎助夫婦に育てられましたが、実子ではなく拾い子です。
拾われたとき、刀と、平家の子である旨の書き置きがあったといいます。

あれ…小万、源氏方だったんじゃなかったのか…?

***

ここで、葵御前は男の子を出産。
九郎助は太郎吉を、産まれた子の家来にしてほしいと頼みますが、
小万の出自が明確でない以上(まして敵方・平家の子であるわけなので)、安易に家来にはできないと拒否されます。

5.瀬尾の本心


一回捌けていた瀬尾ですが、ここで隠れていたところから出てきます。
そしてすでに死んでいる小万を蹴るという悪行に。

これを見てぶちギレた太郎吉、何と母の刀で瀬尾を刺します。強い。

しかし、これこそが瀬尾の目的だったのです。

実は、瀬尾は小万の実の父親
太郎吉に「平家を討った」という手柄を立てさせて、義賢と葵御前の間に産まれた子の家来にさせようとしたのです。

瀬尾ー!何ていいやつなんだ!!

つまるところこういう構図。

【源氏方】

葵御前=木曽義賢

九郎助=小よし
   |
    小万(平家の子だが源氏方)
   |
  太郎吉 

【心の中は源氏な平家方】

斎藤実盛

【平家方】

瀬尾十郎
  |
 小万(平家の子だが源氏方)


6.実盛の約束

「親の敵」と実盛に迫る太郎吉ですが、何せ太郎吉は幼い。
実盛はいつか太郎吉に討たれようと約します。
そして太郎吉に優しさを見せつつ、馬に乗って去っていきます。


・見どころ


・太郎吉のかわいさ

瀬尾や実盛相手に勇みたつ様子を見せながらも、やっぱり愛嬌抜群、無邪気でかわいい太郎吉。

葵御前の出産をどうしても覗きたくて、こっそり見にいくたびに実盛に怒られるところとか。
実盛が馬に乗るのが羨ましくてたまらないところとか。

子役の良さを全面に引き出すタイプの役だと思っております。

・実盛の語り

題名にもなっているくらいですから、最大の見せ場だと思います。
竹本の語りに合わせて身ぶりを交えつつ、小万の最期の様子を語ります。
 
役者さんの藝を堪能するところだと思っています。

・瀬尾の最期

あんなに嫌らしい感じだった瀬尾ですが、だからこそ本心を知るとたまらない。

役者さんにもよるそうですが、太郎吉に斬られる場面では、座った状態から宙返りをする「平馬返り」という大技が見られることも。

・小万の蘇生

ちょっと不気味なところでもあるんですが、切られた片腕を体にくっつけると、小万はとても自然に生き返ります。
見せ場というほど大きな盛り上がりはないかもしれませんが、インパクト抜群の場面です。 夢に出そう。


・まとめ


「実盛物語」、出だしにいきなり「琵琶湖で釣り上げた」と片腕が出てきて度肝を抜かれるのですが、
武士の心のかっこよさ、子供のかわいさなど、見どころたっぷりです。

今回は片岡仁左衛門さんの実盛。
もう実盛をやるのは最後かもしれない、とのこと。
当たり役のお一つのようですので、絶対に観に行くつもりです!
 

【関連記事】
物知らずが行く歌舞伎#8〜四月大歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び
平成中村座に行ってみた!昼の部 観劇の感想編2018(前回「実盛物語」を観たときの感想です)
 

気になる演出ピックアップ!#2 所作板


地味なシリーズ第2弾は、またまた地味なところを突いて「所作板(しょさいた)」を語ってみたいと思います。

歌舞伎を観にいくと、幕間に二人一組で何やら木の台のようなものを幕の中から運び出し、花道に敷き詰めていく光景が見られるかと思います。
 
あの敷かれているのが「所作板」で、所作事(しょさごと、歌舞伎舞踊)のときに使います。
(日本舞踊の公演でも敷かれています。)

檜でできているこの所作板(所作舞台、置舞台などとも)『日本舞踊ハンドブック』(藤田洋、三省堂、2010年)によると、
・汚れた舞台の上に敷くことで、舞踊をより美しく見せる
・足拍子を踏むときの反響音をきれいに出す
・お滑り(足を摺るように伸ばす技法)が舞台で引っかからないようにする
・照明を美しく反射させる

といった効果があるようです(p.39)。

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私がなぜこの「所作板」を語りたいのかというと、本にも書いてありましたが、
何しろ音がいいんですよ!!音フェチにはたまらない。笑

ちょっと下駄で出てくる音、調子よく足を踏む音…ときめきます。

踊りの中で、この「音」の要素って、実はとても大きいと思うのです。

特に踏む音の大きさに驚く友人が多くいます。
かくいう私も「こんなにしっかり踏んでいるんだ!」と、初めて大きな公演を観たときには衝撃でした。
緊張感のある場面で踏む音が大きく響くと、ぐっと迫力が増します

踊りによっては、軽快なリズムで足拍子を踏むことも。
「供奴」のように一人でとんとこ踏む場合もあれば、二人で細かくリズムを刻むこともあります。
結構複雑なリズムで踏んでいたりして、その瞬間に正確に音を出せるって凄いな、と毎度思います。

この足拍子は、明らかに「音を聞かせる」ものではないでしょうか。
言ってしまえば、見ている分にはただ踏んでいるだけなので。笑
でも音楽に合わせてこの踏む音が調子よく入ってくると、たまらなく楽しくなってくる。

そんなとき、踊り手の足元ではこの所作板が大活躍しているのです!

(踏む音の楽しさについては、日本舞踊の音について書いたこの記事でも語っています

***

以前、尾上菊之助さんのドキュメンタリー番組で、この所作板を選ぶ場面がありました。
 
下駄でタップダンスみたいなことをする「高坏」という演目でのことだったのですが、この所作板、音や滑りが一枚一枚違うんだそうです。
並べた板の上に実際に立ってみながら、どれが合うのかを選んでいらっしゃいました。 

普段の舞踊や歌舞伎の公演で、どれだけこだわって所作板を選ぶことができるのかは分かりませんが、
きっと役者の方、舞踊家の方たちは、そのときの所作板の特徴を理解しながら踊っていらっしゃるのでしょうね。 

そんな裏話を知ってしまうと、職人好きの私としては非常にわくわくするのです。笑

***

先日、この所作板を敷くところをとても近くで見る機会がありました。

間近で見ていると、すべて敷き終わったあとに繋ぎ目のところを念入りに確認しているのが分かります。
板同士の間に段差や隙間があって、引っ掛かりでもしたら大変ですもんね。
裾を引きずる衣装は特に足元が見えませんし、たとえそうでなくとも常に下ばかり見ているわけにもいきません。
 
あの気持ちのいい音の背景には、安心して踊れるための心配りがあるのだということを、改めて学びました。

***

そんなわけで、花道に所作板が敷かれ出すと、私はいつもテンションが上がっています。笑

地味ではありますが、これがなくては舞踊の魅力も半減してしまうであろう「所作板」、ぜひ注目してみてください!

 

物知らずが行く歌舞伎#9〜團菊祭五月大歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び

この企画は、知識が足りないゆえに
歌舞伎への第一歩を踏み出せずにいる方
の背中を押すべく、
歌舞伎歴1年半の初心者が何を知っていて、何を目的に、
どのチケットを買うのか
をさらけ出す企画です。
初心者の無知っぷりと、この1年半でちょっと学んだことを、
背伸びせず、恥ずかしがらずにお伝えできればと思っています。

物知らずシリーズ第9段は團菊祭!

去年の團菊祭は、まだ人生5回目くらいの歌舞伎観劇でした。
こういう名前のついた公演が巡ってくると、自分の観劇経験が少しずつ積み重なっているのが分かって何だか嬉しい。

そして!注目すべきは七代目尾上丑之助初舞台」!!
尾上菊之助さんのご子息、寺嶋和史くん(5)が「尾上丑之助(うしのすけ)」を襲名します!

和史くん改め丑之助くんは、おじいさまに尾上菊五郎さんと中村吉右衛門さんを持つという、とんでもなく豪華な家系図。
将来が楽しみですね!

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■歌舞伎座 團菊祭五月大歌舞伎の演目は?


5月の歌舞伎座。
演目は以下の通りです。

【昼の部】
一.寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)
二.歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
三.神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
 め組の喧嘩
 品川島崎楼から神明末社裏まで

【夜の部】
一.鶴寿千歳(かくじゅせんざい)
二.絵本牛若丸 (えほんうしわかまる)
 七代目尾上丑之助初舞台
三.京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)
 道行より鐘入りまで
四.曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)
 御所五郎蔵


「神明恵和合取組」も読めませんが、ベストオブ読めないは「曽我綉俠御所染」に進呈したいと思います。
この辺り、別に「昔の人は読めた」とかそういう話ではないのではないだろうか。。 


■各演目について、現時点での知識


*そもそも知っている演目はあったのか?


【昼の部】

「寿曽我対面」は、お正月から度々やっている「曽我物」の一つですね!
観たことはないのですが耳馴染みは非常にあります。
 
「勧進帳」もとっても有名ですよね。同じく「名前は何度も耳にしながら、実際には観たことがない」といういつものパターンです。
 
「め組の喧嘩」も同じく名前のみ。確か以前シネマ歌舞伎になっていたので、予告編を観たのだと思います。

【夜の部】

「京鹿子娘道成寺」が出るんですね!!
言わずと知れた舞踊の大曲、という印象ですが、通しでちゃんと観たことはなかったのではないだろうか。
 
そして他のは全く知らないという。そういうこともある(そういうことの方が多い)


*現時点で知っていることは?


◇寿曽我対面

「曽我十郎・五郎の兄弟が、小林朝比奈の手引きで親の敵・工藤祐経と対面する」という場面だと認識しています。←この1年で得た知識

この曽我兄弟の敵討ちの話はいろんな演目にアレンジされているようで、昨年10月にも上演された「助六」もそうなんですね!(感想はこの記事
舞踊の振りにもしばしば入っている気がします。
知っておくと、他の物を観るときにも楽しさが増しそうです。

◇勧進帳

これも有名な演目ですよね。非常にうろ覚えですが…

「頼朝勢から逃げる義経と弁慶一行」vs「安宅の関を守る富樫」との、関を通すか通さぬかの攻防で、
弁慶がこの富樫を突破するために、その場のアドリブで勧進帳を読み上げたり、主である義経を打擲したりするのではなかったか。。

富樫はこれが義経と弁慶であることを分かっていつつ、その弁慶の気迫に負けて、ついに関を通す、という流れだった、はず、です。笑

弁慶が花道を「飛び六方」で捌けていくのを昔テレビで観たことがあって、「これぞ歌舞伎!」という印象でした。

『窓際のトットちゃん』にも出てきます。プチ情報。

◇め組の喧嘩

ちゃんとは知らないのですがあれですよね、
鳶vs力士で大喧嘩になるやつですよね(ざっくり)。

杉浦日向子さんの『一日江戸人』(新潮文庫、平成17年)によれば、江戸時代において、力士はモテる職業だったとか。

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「火事と喧嘩は江戸の花」という言葉もあるし、もう江戸っ子のためにある芝居としか思えません。笑

め組の親分は尾上菊五郎さん
菊五郎さんの江戸っ子が大好きです。さっぱりしていて、張りがあって。
何だかこう、頼りたくなっちゃうというか。

◇京鹿子娘道成寺

もうこれは名前だけならずっと知っていたレベルで有名なやつです。

確か、女人禁制の道成寺に白拍子花子(実は清姫の亡霊)がやってきて、舞を舞いながら、所化(僧)たちの隙を突いて鐘の中に飛び込み、恋に狂った蛇体となって現れるという流れ。

僧・安珍(あんちん)に恋をした娘・清姫(きよひめ)が、安珍に裏切られた恨みから彼を追い、安珍が逃げ込んだ道成寺の鐘に蛇体となって巻き付いて焼き殺してしまうという、非常に物騒な伝説に由来しています。

「京鹿子娘道成寺」はこの後日譚で、道成寺に鐘が再興されるというところに白拍子花子がやってきて、鐘を拝ませてほしいと頼むところから始まるのではなかったか。 
この花子が実は清姫の亡霊で、舞い踊るうちに徐々にその本性を顕していくのだったはず(いつもながらうろ覚え)

長い曲なので、様々な場面があります。
しっとりと女心を表すところがあったり、
華やかな三段重ねの傘(振り出し笠)を持って踊るくだりがあったり、
振り鼓(鈴太鼓)というなかなか素敵な音が出る小道具が出てきたり(振り鼓についてはここで語ってます)

一度ちゃんと観ておきたかった舞踊です。


■観てみたい演目は?


今月個人的に絶対に外したくないのは、「め組の喧嘩」「絵本牛若丸」「京鹿子娘道成寺」でしょうか。

何たって「絵本牛若丸」は、丑之助くん初舞台襲名披露です。
吉右衛門さんも菊五郎さんもご出演とあれば、行かない理由がない!

そして「め組の喧嘩」は、とにかく菊五郎さんの江戸っ子を観たい一心です。笑
他にも、過去に観てきてとても印象に残っている役者さんが揃っていて、楽しみ。

菊之助さんの踊りは、まっすぐ芯が通っている感じがして好きなのです。
道成寺はどんな感じでしょう。今からわくわくしています。

市川海老蔵さんが弁慶をなさる「勧進帳」もとても興味深いです。お家芸ですもんね!
迫力があるだろうなぁ。。 


■どのチケットを買う?


演目を選んで幕見かなぁと思っていましたが、特に夜の部は混みそうでもあるし、三等席を押さえることも検討しております。
「道成寺」は花道での踊りも割と長かったと思うので、本当は花道がちゃんと見えるところを取りたい…!

ただ気がかりなのは、5月、国立劇場の文楽公演が豪華なんですよね…
「妹背山婦女庭訓」の通し上演。昼夜分けての上演なので、どちらも取るしかないという。。

何かを求めれば何かを失うのですね。
(娯楽を求めればお金を失うのですね。 )


■まとめ


ゆくゆくはご自身も受け継いでいくであろう「菊」の字が入った公演で、襲名披露ができる丑之助くん。
「絵本牛若丸」のご出演陣、さすが豪華ですね!
「菊五郎劇団出演」という言葉も、頼もしく背中を支えてくれそうな響きです。

素敵な舞台になるだろうことに胸を高鳴らせつつ、
息子さん初舞台の演目の直後に大曲が待っているという菊之助さんにも大注目の5月です。笑


プロフィール

わこ

◆東京都在住╱地味目のOL (平成生まれ)。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇2年目、毎月何度か劇場に通う日々。
◆着物好きの友人の影響で、着物でのお出かけが増えてきた今日この頃。

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