ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

歌舞伎

物知らずが行く歌舞伎#12〜八月納涼歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び

この企画は、知識が足りないゆえに
歌舞伎への第一歩を踏み出せずにいる方
の背中を押すべく、
歌舞伎歴1年半の初心者が何を知っていて、何を目的に、
どのチケットを買うのか
をさらけ出す企画です。
初心者の無知っぷりと、この1年半でちょっと学んだことを、
背伸びせず、恥ずかしがらずにお伝えできればと思っています。


物知らずシリーズ、更新速度がどんどん遅くなってまいりました。初日は目の前です。わたくし、お尻に火がついております。

さて、八月納涼歌舞伎は三部制。
各部が少しずつ短い分、いつもよりちょっぴりお安いお値段で観ることができます
一番手軽な3階B席3,000円です。

※ご参考までに、3階B席からの見え方はこちら↓




全演目の見どころなどは、すでに公式サイトに掲載されていますのでそちらをご参照いただき、
「歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人」八月納涼歌舞伎の情報はこちら)(当方またもや完全なる出遅れ)
ここでは「歌舞伎初心者、こんな感じの予備知識で観に行きますよ!」というのを晒します!

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■歌舞伎座 八月納涼歌舞伎の演目は?


8月の歌舞伎座。
演目は以下の通りです。

【第一部】
一.伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
 御殿/床下
二.闇梅百物語(やみのうめひゃくものがたり)

【第二部】
東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)

【第三部】
新版 雪之丞変化(しんぱん ゆきのじょうへんげ)


「伽羅先代萩」を「めいぼく〜」と読むのを知ったときには、知識人の遊び心に驚きもしたし、半ば呆れもしました。笑
伽羅(きゃら)って、名木の誉れ高い香木ですよね。 だからって。。

ちなみに私、学生時代に一瞬だけ香道の講座に通いました。
伽羅の香も度々聞かせていただいたはずですが、 他の香木との違いがいまいち掴めていない。。
とりあえず、少しスパイシーさのある、甘い香りだったことは何となく記憶しております。(※多分他のものもそう) 


■各演目について、現時点での知識


*そもそも知っている演目はあったのか?


【第一部】

「伽羅先代萩」は、NHKEテレ「にっぽんの芸能」で、いつだったか坂東玉三郎さんが語っていらっしゃったのを覚えています。
核となる女方の役・政岡の演技について。
お芝居として観たことはありませんが、名前とうっすらとした展開は分かる…気がしております。 
 
「闇梅百物語」は、映像でちらりと…。
おばけがいろいろ出てきて踊るやつ、というぼんやりとした知識です。笑 


【第二部】

松本幸四郎さん・市川猿之助さんのタッグでシリーズでやっているものですよね。
どれも観たことがないのですが、十返舎一九の原作をもとに、いつも楽しそうな舞台が展開されていることだけは存じております
 

【第三部】

これは「新版」とあるように新たな演出でやるようなのですが。。
そもそもの「雪之丞変化」は、初めて聞く名前でした。


*現時点で知っていることは?


◇伽羅先代萩


先述の通り、テレビで玉三郎さんが語っていらしたのを観たくらいしか分かっていませんが。。

要はお家騒動もので、政岡(今回は中村七之助さん)は自らも一人の母でありながら、幼君・鶴千代中村長三郎くん)を守るために、未だ幼い自らの息子を犠牲にするのです。
政岡の一子・千松中村勘太郎くん)も、自分のすべき役目は分かっていて、進んで鶴千代の身代わりになります。

そして愛息が息絶えても、あくまでその家に仕える者として、すぐに素直に悲しみを表に出すことができない。

そんな一人の女性の心の内を、役者としてどのように表現しているかというのが、番組で語っていらした内容でした。

本当にね、当ブログでは何度も言っているのですが、歌舞伎に出てくる女性たちは強すぎる、無理をしすぎる。。

おそらくこの場面を含むお話かと思います。


◇闇梅百物語

本当にもう、先述の「おばけがいろいろ出てきて踊るやつ」というくらいしか知らないのですよ。笑

でも配役を見ているだけで、骸骨、傘一本足、河童…と何やらにぎやか。
夏にはぴったりの演目なのではないでしょうか!


ちなみに、百物語というのは「怖い話大会」のようなものだったようです。
何人かで集まり、行灯に百本の灯心を入れ、ひとつ怖い話が終わるごとに一本ずつ抜いていき、最後の一本が抜かれて真っ暗闇になったときに、化け物が現れるとされていたとのこと。

百物語って幽霊の話ばかりかと思っていたのですが、 江戸当時はどちらかというと不思議な話が中心だったようです。
「因果応報というような由来のはっきりするものでなく、説明のつかない怪異や不気味さが多く語られ」たそうです。『一日江戸人』杉浦日向子、平成17年、新潮文庫) 
 

一日江戸人 (新潮文庫) [ 杉浦日向子 ]

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(2019/8/7 00:24時点)


***

はい、そして第二部と第三部の演目にいたっては何も知らないという。

元気いっぱい物知らず。 


■観てみたい演目は?


これはもう、私は何よりも「伽羅先代萩」でした。

七之助さんの政岡、玉三郎さんからどのように引き継がれていったのでしょう。
たかだかテレビでほんの一部を垣間見ただけですが、少しでも知ったあとだと観劇欲が高まります!
それから、三月の「盛綱陣屋」(感想はこちら)で堂々たる小四郎を演じていらした勘太郎くんの千松。
長十郎くんの成長ぶりも気になるところです 
パパが大河ドラマでご活躍の間に、ご兄弟は舞台で大活躍ですね!

そして「闇梅百物語」
やはり今の季節に楽しいものは楽しんでおきたいな、というのはありますね。笑

「東海道中膝栗毛」は、スピンオフの上映があったり、前作がシネマ歌舞伎になっていたりと、盛り上がっている様子。
私はいずれも観ていないのですが、先日の三谷かぶき(感想はこちら)を観るにつけても、幸四郎さんと猿之助さんのコンビは絶対楽しい
宙乗りもあるようです。

さて、ここまで全くと言っていいほど触れていない「新版 雪之丞変化」ですが、これは幕見もかなり並ぶのでは?と思っています。

何せ!玉三郎さんなので!!

「歌舞伎美人」内のこちらの記事に詳しいですが、映像を用いつつ、実演と織り交ぜて展開するようです。
どんな演出になるのでしょう…?納涼ならではの実験的作品になるのでしょうか。
その前にこの記事内のお写真の隙のなさを見て。


いずれにせよ、また絞れないひと月がやってくることは間違いありません。笑


■どのチケットを買う?


白状しますと、すでに一部はチケットを買いました。幕見で我慢できる気がしなかった。。
とはいえ決して「いいお席」ではありませんが。笑

二部と三部も幕見で観に行くのではないかと思います。 

さて、冒頭に「ちょっとお安く観られる」 ということを書きました。
確かに各部だけ抜き出して観れば、お安く観られるのは間違いありません。

しかし、二部制のときを考えると、全て幕見で通した場合、4,000円×2部で8,000円。
今回はおそらく幕見の通しが3,000円だと思うので、すべて通すと3,000円×3部で9,000円。

・・・。

商売上手めー!!!笑 


■まとめ


先月はいろいろと忙しくしておりまして、ブログの更新はおろか、歌舞伎は一度も観に行けず…
現在狂おしいほどに、劇場の空気と歌舞伎を求めております。笑 

そんな8月は、ハードルを感じずに気軽に観に行けそうな演目が揃っているなぁという印象です。 
「難しい!」と感じる可能性があるのは、先代萩くらいではないでしょうか。
あとは現代の感覚で楽しめるものなのではないかと踏んでいます。

いや、でもだからと言って、古典の演目を勧めないわけでは決してないのです。
むしろ古典に、よく分からなくても圧倒的な力を感じたりするよな、と日々思っています。 

…ちょっと話の方向性がずれてしまったのですが

8月は幸いお休みも多くいただけるので、先月分を取り返すように歌舞伎を観たい!!
歌舞伎座の空気に浸りたい!!!


夏の暑さの中で幕見席に並ぶ恐ろしさを、私はまだ知りません。
いらっしゃる方はどうぞお気をつけて…!

物知らずが行く歌舞伎#11〜七月大歌舞伎(歌舞伎座)今の知識と演目選び

この企画は、知識が足りないゆえに
歌舞伎への第一歩を踏み出せずにいる方
の背中を押すべく、
歌舞伎歴1年半の初心者が何を知っていて、何を目的に、
どのチケットを買うのか
をさらけ出す企画です。
初心者の無知っぷりと、この1年半でちょっと学んだことを、
背伸びせず、恥ずかしがらずにお伝えできればと思っています。


物知らずシリーズ、大変に遅くなりましたが7月分です。もう6月終わる。。
(いや、でもこの記事などなくても7月は情報に溢れるはずだと確信しております。なぜなら、)

7月の歌舞伎座は海老蔵さん祭りです。
ご子息の勸玄くんもご出演とあって、6月20日時点ですでに昼の部は全日程売切れ
夜の部も3階席はA席、B席ともに満席です。ひえぇ 

そんな七月大歌舞伎、きっと初めて歌舞伎をご覧になる方も、いつもより多くいらっしゃるのではないでしょうか。

全演目の見どころなどは、すでに公式サイトに掲載されていますのでそちらをご参照いただき、
「歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人」七月大歌舞伎の情報はこちら)(当方完全なる出遅れ)
ここでは「歌舞伎初心者、こんな感じの予備知識で観に行きますよ!」というのを晒します!




■歌舞伎座 七月大歌舞伎の演目は?


7月の歌舞伎座。
演目は以下の通りです。

【昼の部】
一.新歌舞伎十八番の内
 高時(たかとき)
二.西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)
三.新歌舞伎十八番の内
 素襖落(すおうおとし)
四.歌舞伎十八番の内
 外郎売(ういろううり)

【夜の部】
通し狂言
星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)
 成田千本桜


今月は比較的読みやすい演目名が並びますね!
それだけでちょっぴり安心感があります。


■各演目について、現時点での知識


*そもそも知っている演目はあったのか?


【昼の部】

「素襖落」は、昨年11月に歌舞伎座で観ました!
尾上松緑さんの太郎冠者でした。楽しく観た記憶。
同じ演目、結構ちょこちょこ出るんですね。 
 
「外郎売」、こちらは演劇をかじっていた時代に馴染んだもの。
歌舞伎としては完全なる初めましてです。むしろよく本物知らずにやってたな。
 
あとは残念ながら、存じ上げませんね…。
名前すら知らなかった演目2つです。

【夜の部】

何も分かりませんっ!(簡潔)
でも場面の名前を見る限り、「義経千本桜」が元になっているのかしら…?


*現時点で知っていることは?


◇素襖落


狂言がもとになった、気軽で楽しい演目だったと記憶しています。

遣いに行った先で、散々酒を振舞われた上に、褒美に素襖(すおう、武士の礼服の一つらしいです)までもらった太郎冠者(たろうかじゃ)

せっかくもらった素襖を主人に取られまいと、必死に隠し通そうとするのですが、
いかんせん太郎冠者はすっかり酔っ払っているわけです。 

千鳥足で頭もいまいち鈍くなっている太郎冠者と、その主人との間の素襖攻防戦が笑いを誘います。


◇外郎売

「外郎売」と言えば、早口言葉の長ゼリフが有名なのではないでしょうか?

かく言う私も演劇部時代、一生懸命練習しました!
歌舞伎がもととは知っていましたが、当時は歌舞伎が何かを知らなかったので、ただ闇雲でしたよね…。
当然知らない言葉ばかり出てくるので、なかば呪文のように覚えた記憶があります。笑 

この早口に至る流れは全く知らないのですが、ぜひ本物を聞いてみたいものです。


◇成田千本桜

この演目自体は知らないのですが、元になっているであろう「義経千本桜」は浄瑠璃の三大名作の一つで、とても有名な演目です。

通しではなかなか上演されませんが、「渡海屋」「大物浦」「鮨屋」「吉野山」なんかは単独でよく出ているようで、テレビ放映も多く、いずれもどこかしらで観たことがあります。
(「鮨屋」を今年2月に観たときの感想はこちら

私が観劇を始めたこの短い間に観ることができているのだから、相当頻繁にやっていると思っていいのではないかと。笑

全編通すと主人公がどんどん変わってしまうので、その辺がどのようになるのか分からないのですが、きっと見どころ盛りだくさんの舞台になるのでしょう!

各場面の主人公的な役を、全て海老蔵さんが早替りでなさいます。
宙乗りもあるようです。凄そう。


■観てみたい演目は?


やはり知っている演目として、「素襖落」「外郎売」は気になりますね~。

特に「外郎売」は、海老蔵さんのご子息・堀越勸玄くんが、早口の長ゼリフを勤めるようですよ!
市川新之助襲名を来年に控えた勸玄くん、ご活躍が楽しみです。

夜の部は、先述しましたが海老蔵さんが13役の早替り!
4時間ほどの長丁場を、これだけ替わりながら勤めあげる物凄さ。

どれを観ても、きっと見ごたえがあるんだろうなぁ。


■どのチケットを買う?


7月も幕見になりそうですね…何せチケット買えないので…

でも幕見席も相当混雑するのではないかと。
5月の團菊祭、海老蔵さんの出る幕はとても並んでいたと聞いています。

今回もみなさん早くから通しの切符を買いに並ぶんじゃないかなぁ、と私は踏んでおります。
途中から観ようとすると立ち見になりそうな気が。。

Twitterで「歌舞伎座幕見」と検索すると、幕見の混み具合情報を多くの方が提供してくださっているので、行く前に状況を見ておいた方がいいかもしれません。

それにしても海老蔵さん&勸玄くん恐るべしです。さすがです。


■まとめ


海老蔵さん、実はそれほど観たことがあるわけではないのです。
昨年の團菊祭で観たくらい。あとはシネマ歌舞伎で拝見したのが一回でしょうか。
今年の5月も見損ねているので

でも、その少ない機会でも、やっぱりとても印象に残っています。存在感がすごい。
ぜひまたしっかり拝見したい!

夏本番の7月、幕見席の切符売り場に長時間並ぶのはなかなかしんどそうですが、水分と塩分を欠かさぬように気を付けつつ頑張りたいと思います!笑

 

「封印切」初心者はこう楽しんだ!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 昼の部感想


6月の歌舞伎座、昼の部の締めは「恋飛脚大和往来(こいびきゃく やまとおうらい)「封印切(ふういんぎり)と呼ばれる場面です。

上方の香りがしてくる一幕。

楽しく観ていたら、知らず知らずのうちに取り返しのつかないことになっていて、見事に引き込まれました。

片岡仁左衛門さん亀屋忠兵衛
ふんわりとしていて、間違いなくいい男なんだけど憎めなくて、最後のおそろしい緊張感にやられました。。

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今月の絵看板。上から主人公・忠兵衛、恋仲の傾城・梅川、恋敵・八右衛門。




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめます!
聞き取りやすい、現代とそう変わらない言葉で進むので、ストーリーも掴めると思います。

笑いどころ多く、テンポも良く。おすすめしたい一幕です!!

封印を切るに至る心理、何だか分からなくもないな…と思わせる説得力。 

***

総じて分かりやすいですが、強いて言うならざっと以下のことが分かっていると良いかもしれません↓
 
・主人公・忠兵衛は飛脚問屋。荷物やお金を運ぶのがお仕事。
・大切な荷物の封には印が押してあって、これを勝手に破るのは超重罪。 
・傾城・梅川の身請をめぐり、八右衛門と忠兵衛が張り合っている。(梅川は圧倒的に忠兵衛が好き。)


■私はこう見た!ここが好き!


いやもう、何せテンポがいいので初っ端から引き込まれてしまうんですよ。 

忠兵衛仁左衛門さん)のいい男ぶりはもう花道から匂い立つよう。
「いい男」といっても強そうでは全くなくて、むしろ頼りなさそうな、憎めないかわいらしさがあるというか、「ほっとけない」感じでしょうか。

それを迎える女将のおえん片岡秀太郎さん)の軽口も楽しい!
ふわっとしていて、手慣れた感じで、そっと笑わせてくれます。
下駄の音も心地よいです! 

おえんと忠兵衛のやりとり、いいですねぇ。
忠兵衛も来慣れているのがよく分かるくらい、二人の間のぽんぽん投げ合う会話が調子良くて好きです。


梅川片岡孝太郎さん)との二人の逢瀬の場面、これもまた二人の間に流れる空気がとても良くて、わざと冷たくする忠兵衛もかわいらしい。

そんな楽しい場面なのですが、きまって形を見せるところは美しいのです。こりゃ惚れるわ。。


八右衛門片岡愛之助さん)とのやり合い、これは口だけでいったら八右衛門が強い!
勢いに飲まれます。まくし立てる八右衛門、見事に嫌なやつ!笑

でも周りはみんな忠兵衛推し。
だから別に忠さん、無茶しなくても良かったのに…と思ってしまいます。

いや、でもここ、本当にすごいなと思ったんですよ。

八右衛門と忠兵衛のやりとり、本当に他愛もないものなんです。
八右衛門の難癖なんて正直「子供か!」という感じだし、それにむきになる忠兵衛もまた「こいつもやっぱり頼り切れないんだよな~」と思わせてしまう。

そんな大人げないやりとりだったのに、気付くと忠兵衛が、どうしようもないところに追い込まれている


顔面蒼白の忠兵衛の手元からばらばらと零れ落ちる金貨の輝き…えぐいです。。

***

細かいところですが、忠兵衛が店を訪ねるとき、中で梅川が「畳算(たたみざん)」をしているんですね。
かんざしをとって、畳の上に落として、落ちたところから縁までの畳の目の数で占うものなんですが、
この振り、踊りに非常に良く出てくるのです。
実際にかんざしでやっているのを初めて見て、「これか!」となりました。

やっぱり歌舞伎を観ると、踊りへの理解が深まって嬉しい!
なくなってしまった風俗的なものを見られるのも、歌舞伎の好きなところです。



■まとめ


筋書で、仁左衛門さんが「悲劇の場合、前半を明るくして、後半の悲劇を際立たせる」とおっしゃっています。(p.63)
そのお言葉通りの舞台でした。

前半に力を抜いて観ていた分、忠兵衛が封印を切ってしまって血の気を失うところ、こちらも緊張で指先が冷たくなりました。笑

上方ならではであろう言葉のやり取りの面白みや勢い、柔らかさを存分に味わえるのも魅力です。

「石切梶原」で思いっきり時代物を堪能したあとにこれが待っているという、今月の昼の部の満足感たるや。
筋書にはこの二つの演目を比較した葛西聖司さんの文章も載っていて、とても興味深かったので、そちらもおすすめです!

 

三谷かぶき「月光露針路日本 風雲児たち」観てきました!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


観てきました!
三谷幸喜監督の新作歌舞伎「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち!!

もうこれは新作なので、初心者がどうとか関係ないかなぁと思い、純粋に感想だけ。

ネタバレできないので、何とも難しいところですが…

伊勢から江戸に向かう途中、大嵐で遭難した商船・神昌丸。
大黒屋光太夫をはじめとする乗組員たちは、やっとの思いで陸地に到着するも、そこはロシアという、遠い異国でした。
故郷日本に帰ることだけを一途に思い、懸命に生きていく彼らの様子を描く物語です。

何が歌舞伎か歌舞伎じゃないか、仕上がりとしてどうなのか。
新作っていろいろ意見が割れると思うのですが、私はたくさん笑ったし、心に刺さっている場面がいくつもあります。

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今月いろんな場所に掲示されているこのポスター。
まさかこれが歌舞伎のポスターだとは…。笑
 


開演前〜プロローグ


開演前に、すでに幕が開いて舞台が出来上がっています
その演出がもう新鮮!

ただし、いつもの気持ちでお写真を撮れてしまいそうな雰囲気なので、撮影禁止というところだけここにも書いておきますね。

あと、松也さんファンの方はぜひ松也さんへの質問をご用意の上、プロローグにご参戦を!!

尾上松也先生が、楽しく劇場と物語の橋渡しをしてくれます。


一幕目


一幕目は、光太夫たちの航海の様子と、流れ着いた島での生活を描きます。

船頭・大黒屋光太夫松本幸四郎さん)、船親司・三五郎松本白鸚さん)はじめ、17人の乗組員。
顔覚えの悪い私としては「どうしようついていけるかしら(*_*)」となりましたが、大丈夫です
どうして大丈夫なのかあまり言いたくありませんが、とりあえず大丈夫です。 

普段歌舞伎で観るような感じではない、現代劇のようなお芝居。
みなさん生き生きと楽しい!

新蔵片岡愛之助さん)と庄蔵市川猿之助さん)は際立って船内を乱すキャラクターなのですが、その曲者二人が率先して見せる気遣いがいい
二人とも分かりやすく優しくはないんですよ。これ、三幕目までそうなんですが。
 
それから、若き船乗り・藤蔵中村鶴松さん)に泣かされました。
純粋で真っ直ぐな笑顔の、気の利く青年。
その溌剌とした明るさがあるからこそ、同年の磯吉市川染五郎さん)に見せる本心が刺さります
リアルタイムでは観ていないのですが、当時の新作だった「野田版 鼠小僧」(この記事)でも鶴松さんには泣かされてるんです。。

あと個人的にツボだったのは、九右衛門坂東彌十郎さん)の目の良さですね。笑
一瞬のシーンで、何気ないので聞き逃しがちですが、大好きです。 

笑えるっていいなぁ。 


二幕目


寒さ厳しいロシアを転々としながら、故郷へ帰る手だてを探す厳しい日々が描かれます。

笑い要素もかなり多く、一人観劇でしたが心置き無く笑いました! 

役者さんたちの芸の見せどころ、という印象でした。
特に光太夫幸四郎さん)・磯吉染五郎さん)の親子芸はさすがテンポが抜群に楽しい。笑 
九右衛門彌十郎さん)の頑固じじい具合も良かったです。


物語は竹本が語ります
いつもと違って非常に聞き取りやすいです。笑

途中、竹本ならではの演出が入ります。
ネタのように使われたのかと思いきや、これがじわじわと効いてくるんです。。

勘太郎市川弘太郎さん)にスポットが当たる場面。
生きて故郷に帰るために選択しなくてはならないことと、どうしても受け入れられないこととのせめぎ合いを、太棹が煽ります。

竹本に関して言えば、幕が開いた直後の出方がかっこいいのでぜひご注目を!

それから音楽面、光太夫が黒御簾の音に合わせてセリフを言うところがあるのですが、これもまた楽しかったです。
歌舞伎音楽の自由な使い方。笑

歌舞伎の演出の使い方としては、すっぽんをそう使うのか、というのも興味深かった
歌舞伎の舞台って、仕掛けがとても多いんだなぁということを再認識させられます。
いろんな可能性があったんだな、と。 


後半に市川高麗蔵さん澤村宗之助さん片岡千次郎さんのお三方によるロシア語だけの場面があるのですが、あれは意味が分からずともロシア語の勢いを楽しむのが一番だと思います!!笑 
ロシア語、このためにみなさん覚えたんですねぇ…役者さんはすごい。 


さて、散々笑わされる二幕目ですが、決して楽しいだけの幕ではありません。

先ほど触れた竹本の場面がまず一つ。

それから泣かされたのは庄蔵猿之助さん)。
二幕目の最後の庄蔵の叫びには、遠い地で翻弄される悔しさが詰まっていて、こっちも叫びたかった。

苦すぎる別れが続く中で、小市市川男女蔵さん)は強いですね。
彼がなぜ強いかというと、その場その場を柔軟に受け入れられるからです。
光太夫も「小市はいつも楽しそうだ」と。
こうなってしまった責任を抱える船頭としては、願っても叶わない境地なんでしょう。


三幕目~エピローグ


いよいよ帰国の望みが見えてくる場面。
と同時に、最も悲痛な場面。
さらに言えば、衣装が最も絢爛な場面。笑 マリアンナ坂東新悟さん、ロシア女性の拵えが馴染みすぎて。。
 

ここでお待ちかね、キリル・ラックスマン八嶋智人さん)の登場です!
屋号は「トリビ屋」さんです。細工が細かい。

八嶋さん、「舞台は友達」感がすごかったです。
空気を持っていく力が抜群!あっという間に舞台の勢いが変わります
光太夫一行が呆気に取られるのも半ば素なのではないかというくらい。笑

このラックスマンとの出会いが、光太夫たちの道を開きます。

彼のお陰で叶った、エカテリーナ猿之助さん)との謁見。
彼女がついに、日本への船を用意してくれるのです。

この場面はエカテリーナの衣装がまぁ絢爛ですごいので、ぜひご注目を。
その前にこの人さっきまで庄蔵だった人ですよね。笑

そしてポチョムキン白鸚さん)がさすがの貫禄です。
厳格で堂々としたお偉方、という感じ。


こうして道は開けたのですが、ここに来るまでにいかんせん時間がかかりすぎた。

すでにそのときには、「全員で帰る」ということは不可能になっていたのです。

ずっと個人主義者だった新蔵愛之助さん)の、身を呈した決断。
庄蔵猿之助さん)の絶叫。

庄蔵、新蔵、光太夫の三人のシーンは、最も「歌舞伎らしい」と思いました。
後から筋書を読み返したら、それもそのはずで、三谷さんは原作のこの場面があったから「歌舞伎にしたい」と思ったそうです。(p.46)
観劇から数日経った今思い出しても、胸が締め付けられます。


結局無事に日本に帰る船に乗ることができたのはほんのわずか。
いえ、でも光太夫は最後まで船頭です。

一番最後に見える景色。
観ている方もこれで、やっと日本に帰って来ることができるんですね。


まとめ


新作を観て思うのが、古典として上演され続けている名作は、いろんな物語の種を含んでいるんだなぁということ。

今回の三谷かぶきにも、今までに観た演目が香るところがありました。

どこまでを「歌舞伎」と呼べるのか、私にはいまいち定かでないのですが、
歌舞伎がそういうネタを持っている、そして音楽や演出の工夫もいろいろ持っている演劇であることは、新しいものを作り続けていく上でとても貴重だなぁと思います。


演劇でも本でも何でもそうですが、一場面でも、一言でも何かが心に留まっていれば、それはそのとき出会うべきものだったんだと思っています。

その意味において、三谷かぶきは私にとって、間違いなく良い観劇経験でした。


「女車引」初心者はこう楽しんだ!〜六月大歌舞伎(歌舞伎座) 昼の部感想


昼の部二幕目、「女車引(おんなくるまびき)

来月の国立劇場で出る「車引」を女に替えて仕立てた舞踊だそうです。
元になっている「菅原伝授手習鑑」には全然詳しくないのですが、それはそれとして楽しんできました!
それはそれとして、十分楽しめます。笑

女方三人が舞台に並んで踊ると、華やかで素敵ですね。
衣装にも注目です!!

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今月の絵看板、手前から千代、春、八重。
それぞれの旦那さんのお名前(松王丸、梅王丸、桜丸)にちなんだ衣装です。





■初心者でも楽しめるのか?


楽しめるのではないかと思います!

一応、三人の背景は知っておいて損はないかもしれません。
私自身が全く詳しくないので何とも言えませんが、ささやかな予備知識としては、

・登場する三人の女性は、「菅原伝授手習鑑」の主人公三兄弟の妻たち
・三兄弟(松王丸、梅王丸、桜丸)のうち、松王丸だけ立場が違うので対立している
・旦那はそうだけど、妻たちの間の溝はそこまででもない(「菅原伝授手習鑑」の「賀の祝」という段を観る限り) 
・この踊りの元ネタ(?)は、「車引」という、三兄弟が対面する場面(※観たことはない)

くらいの感じで行きました。

***

三人の女性の見分け方としては、衣装が一番分かりやすいかと思います!

千代(松王丸の妻)
松の柄の着物。

八重(桜丸の妻)
桜の柄の着物。
一人だけ年齢が若いので帯が長く、振袖。この帯がかわいいんですよ…!

(梅王丸の妻)
当然梅の柄の着物。

それぞれ夫婦の名前が「千代の松」「八重の桜」「梅の春」という組み合わせになっていて覚えやすいですね!

■私はこう見た!ここが好き!


一つ前の幕の「寿式三番叟」から続けて観ると感じるのですが、清元(音楽)がいいですね!

男四人の三番叟は、太棹のびしっとかっこいい竹本の演奏。
その直後に女三人のこの曲が始まると、清元の柔らかさが際立つ気がします。

***

出の花道、中村雀右衛門さん)と八重中村児太郎さん)が連れ立ってやってきます。
若くてかわいらしい八重と、柔らかくてあたたかみのある春。
ほのぼのとした花道です。

この二人はこの後も、 実の姉妹のように頼り頼られの雰囲気が出ていて素敵!

一方、千代中村魁春さん)は本舞台上手(舞台向かって右側)から登場。
どこか凛とした風情があるように感じました。

女三人の間にはそれほど深い溝はないのですが、やっぱり千代とはちょっと距離がある感じがしますね。。

***

一番好きだったのは、三兄弟の父・白太夫の古稀のお祝いの支度をする場面です。

最初はそれぞれ別の方向を向いて、別の支度をしているのですが、若い八重はやっぱりいろいろ手馴れていなくて、うまくいかない。
八重は春に頼るのですが、そんな八重を横から千代がちゃっちゃか手伝ってあげるのです。
千代さんさすが頼もしい!

そして何かこう、何か切ないけど嬉しいけど切ない(語彙力)

***

それぞれの一人踊りがあって、最後は三人で華やかに踊って幕です。
三人できまる一番最後のところ、附け打ちがバタバタと鳴るのが気持ちいいですね!

ただただかわいらしい八重、
ふわっと柔らかくて優しげな春、
強さも兼ね備えている千代。

それぞれ身にまとう空気や立場、年齢が違うので、踊りの雰囲気も全然違います
一つの踊りの中で、こういう風にはっきりとキャラの違う女性を三人も楽しめるのはなかなかないのではないでしょうか?
私が知らないだけでたくさんあるのかしら。。

ともあれ、女方の藝を堪能できる一幕だと思います! 


■まとめ


全体を通して、筋書には「仲良く」「楽しく陽気に」とあるもののやっぱり春・八重/千代という二対一の構図が随所にあるなぁと思いました。

とは言えストーリーは置いておいても、華やかで楽しい一幕です!
女方の踊り、指先まで本当に美しくて、首の傾げ方なんかにもそれぞれの役の性格が出て、踊り好きとしては嬉しい時間でした。
何も考えずに舞台の雰囲気に身を委ねていられる幸せ。

*** 

ちなみに今月の幕見、この前の幕の「寿式三番叟」から「女車引」までの二幕で約1時間、合計1,000円です。 
1時間1,000円というのは、なかなか手頃なのではないでしょうか。

正直、昼の部のプログラムを最初に見たときには「踊りと芝居と交互にしてほしいなぁ…」と思ってしまったりもしたのですが、観てみてからだとこの「1時間1,000円」が実現できたのは大きかったと思います。
私自身もスケジュールの都合をつけて手軽に行けたのでありがたかったです! 

プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇2年目、毎月何度か劇場に通う日々。
◆着物好きの友人の影響で、着物でのお出かけが増えてきた今日この頃。

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