ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

「市松小僧の女」初心者はこう楽しんだ!〜吉例顔見世大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想


長らくご無沙汰しております。。
書きかけの感想が溜まりに溜まってアップできないまま、日々が過ぎてゆくばかり。
もどかしい想いを抱えつつ…

令和初の顔見世・最後の演目、「市松小僧の女」の感想を優先的に上げさせていただきます! 


 
なぜこの感想を優先するかと言いますと、幕見席が一番空いていたから。笑

でもこれ、じわっと人情味に溢れていてとても良かったのです。私は大好き。
予習・筋書なしでも楽しめる分かりやすさに加え、お仕事帰りにも寄れる時間帯なので、残り日数少ないですがぜひ!!

※上演時間は19:28〜20:30、幕見チケットは18:35発売です。

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夜の部のポスター。真ん中の段・右が時蔵さんのお千代、左が鴈治郎さんの又吉。
視線が交わってないところが好き。

 

■初心者でも楽しめるのか?


楽しめます!

最初に書いた通り、セリフの聞き取りは全く問題がないはずです。
ストーリーも分かりやすいため、置いて行かれずに楽しめると思います。

というのも、この作品は池波正太郎さんの作品なのです。
初演は昭和52年。今回が42年ぶり2回目の上演となるそうです。

そんなわけで、歌舞伎にありがちな「分かりにくさ」というハードルは全くないと思って良いと思います。

***

ざっくり言ってしまえば、男勝りな主人公・お千代の恋を描いた作品なのですが、
このお千代の変わっていく様、幸せそうな表情と、大事なところで発揮される強さに惹かれます。
周りの人間もそれぞれ温かくて、良い雰囲気の舞台です。


■私はこう見た!ここが好き!


とにかく一番の魅力が、登場人物なんです。

いや、芝居を観る以上当たり前の話なんですが!笑 
配役も素晴らしかったんだと思います。ずっと「好きだなぁこの雰囲気」という時間が続きました。

お千代中村時蔵さん)自身の雰囲気の変化、とてもかわいらしい。
継母と上手くゆかず、剣術の稽古に勤しんで周囲に恐れられる、男勝りなお千代。
しかし又吉中村鴈治郎さん)に恋をしてから、少しずつ喋り方も服装も柔らかくなっていきます。

最後まで強さは持ち続けるのです。
でも、その強さの使い方が何ともいい。切ない。
「誰かを倒すため」の強さではなくて、あくまで又吉を守るための強さなんですよね。

公演日程の後半になると、筋書に舞台写真が載るのですが、又吉に対するお千代の表情、どのお写真もとても充実していて幸せそうで、改めてぐっと来ています。

それに寄り添う、乳母のおかね片岡秀太郎さん)。
実家の呉服屋・嶋屋の跡継ぎ問題に巻き込まれ、継母とも上手くいかないお千代が、安心して頼っている相手です。
おかねは他の人からも頼られている様子が描かれ、懐の深さが見て取れます。
番頭・伊兵衛市川齊入さん)への扱いは容赦ないですが(笑)、そのあたりもお千代への愛情ゆえ。

こういうお役の秀太郎さんがとても好きなのです。。
間というか、軽さというか、そういう楽しさの中にじんわりと温かさが混じって。おかね、もっと出て来てほしかった…!
封印切この記事の女将も最高でした。

さて、今触れた伊兵衛(齊入さん)ですが、この人も何かにつけてお千代を気にかけています。
お千代が又吉と夫婦になって店を出す折に、ちょっとお千代との間に溝ができた様子の父・重右衛門市川團蔵さん)も、やっぱり娘への愛情を見せる。
継母・お吉坂東秀調さん)との関係や、自分が男にも恐れられていることをどこかコンプレックスに思っている様子のお千代ですが、ちゃんと愛されているんですよね。

このお吉がまた嫌なやつなんですが(笑)、重右衛門と伊兵衛とが良い感じにバランスをとっていて、絶妙でした。

で、このお吉に、無自覚に辛辣な陰口を叩くのが彦太郎中村萬太郎さん)でして。
重右衛門が婿養子に迎えて跡を取らせようとしていた彦太郎ですが、失言の数々がすごい。笑
多分全くもって無自覚なんですが、オブラートにくるまない本音が出るわ出るわで、非常に楽しかったです。
萬太郎さん、ちょっと意外でしたが、どこかほんわかしつつもぽんぽん出てくるセリフがとても良かった!

ちなみに萬太郎さんは、この前の幕の舞踊「連獅子」で「宗論」と呼ばれる愉快な場面にも出演されており、こちらも軽妙で素敵でした。

さて、いい感じの味わいの人たちがたくさん出てくるこのお芝居ですが、最後においしいところを全てかっさらっていくのは同心・永井与五郎中村芝翫さん)ですね。笑
お千代の剣術の兄弟子に当たります。
又吉の人生の大事なタイミングに、何だかこの人はいつも立ち会うのです。
そこで見せる兄貴的な人情が、もう絵に描いたような「いい男」 でして、芝翫さんのかっこよさが際立っていました。

で、最後になってしまいましたが又吉(鴈治郎さん)。
鴈治郎さんは、大変に大変に失礼な言い方をしますが、いわゆる「二枚目!」という雰囲気ではないと私は思っていて、
でも又吉はもう絶対に鴈治郎さんというか、鴈治郎さんは圧倒的に又吉だったんです。

又吉は、力も弱ければ心も弱い。でもお千代が惚れるのも、ちょっと分かる。
惚れるというか、可愛くて愛しくて、何とかしてやりたくて仕方ないんでしょうね。

共依存的なところはあるようにも思いますが、それでもこの二人の間の空気感、私はとても好きです。
実際に身近にいたらどう思うか分かりませんが。笑
 

■まとめ


「髪結新三」「菊畑」といった上質な古典あり、「関三奴」「連獅子」の舞踊あり、「研辰の討たれ」のようなドタバタものありと、バラエティーに富んでいて満足感のある顔見世でした!
(全部は観られていないのですが…ほとんど!ほとんど観ました!笑)

その中でも比較的ハードルが低く、かつ平日も行きやすそうなものをピックアップしてみました。

「歌舞伎、ちょっと興味があるけど分かりにくそう…」という方、
「わざわざ出向くほどでもないけど歌舞伎は気になっている」という方、
お出掛けのついでにちょっと東銀座に立ち寄るのもアリかと思います!笑

※上演時間は19:28〜20:30、幕見チケットは18:35発売です。(2回目) 

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十一月の顔見世のときにだけ上がる櫓にもご注目。 
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***

最後に私事。

数ヵ月前に生活が大きく変わり、ブログを書く時間を取れなくなっております。
踊りとの付き合い方も幾分変わり、迷いもありつつ。 
その中でも素敵な舞台や出来事はたくさんあって、もどかしい限りです。

上手くブログを生活に組み込めるように頑張って参りますので、今後とも気長にお付き合いいただけましたら幸いです。

【日本舞踊】習った曲を振り返ってみる④春雨

日本舞踊を始めてから今までに習った曲を、習った順に振り返ってみる企画の第4回です。

これまでのシリーズはこちら 

※ひとつお断りしておくと、流派によって、どころでなく同じ流派でも先生によって、振付は全く異なります。あくまで、私が習った振りでのお話です。
 
***

1年目の冬から春にかけて教えていただいた曲。
こうやって振り返ると、そのときのレベルだけでなく、やはり先生は季節も意識して曲を選んでくださっていたんだな、と思います。


そして!これは!急に難しくなったんですよ!!
だから楽しかった!!!笑

振りがこれまでの曲よりも細かく増えて、当然知らない動きもたくさん出てきて。
お扇子を投げたり、早い間ですべったり。順番がごちゃごちゃになりそうな似た動きが何度も出てきたり。 

一番苦戦したのは、手を正面で一つ叩いてから「膝・膝・膝・胸・胸」と左右交互の手で打って、最後に手を正面に伸ばしてとんとんと二つ踏むところ。(伝わらない説明その1)
これは割と定番の動きで、いろんな曲にいろんな速さで出てくるのですが、初めてだとやっぱり大混乱です。

先生に「器械体操じゃないのよ~」と言われつつ。笑

初めての動きの何が難しいかというと、何をやらされているのかさっぱり分からないところなんですよね。
先生の動きを見ても、自分が何を目指してどうすればいいのか頭の中でつながらないのです。
機械音が聞こえてきそうなほどぎこちない動きをしていたのでした。笑

でもこの頃、おこがましくも自分の中に「もうちょっとしっとり踊ってみたいなぁ」というのが芽生えてきたんですよね。

というのも、この曲がとても好きだったんです。
鶯の声で始まる曲なのですが、最初はしっとりとした曲調、途中からお三味線が少し調子よくなって、何というか、大人の余裕が感じられる曲だったんですね。(伝わらない説明その2) 

とにかくまずは振りを覚えるのに今まで以上に必死で、先輩を掴まえて一緒に踊っていただいたり、どうしても分からないところを何度も教えていただいたりしながら何とか最後まで。
その一方で、自分なりに首の振り方を変えてみたり、滑り方を変えてみたり、いろいろと工夫をしてみたのでした。

***

苦労した分、この曲が上がったあとは今までよりも少しだけ自信がついた気がします。
多分、「できることが増えた」という実感があったのではないかな、と。

自信がついた分、それまで以上に積極的になった気がします。
もっとできる、もっとやってみたい、という気持ちがぐんぐん出てくるんですね。

そうです。
その気になりやすいタイプなんです。笑

今でもそういう気持ちは変わりません。
一曲上がるたびに、「次はもっとできることが増えるかもしれない」と思います。
同じくらいの大きさで「覚えられなかったらどうしよう…」という不安もあるのですが。笑


2年目からは、だんだんと長い曲が増えてきます。 
諸般の事情でここには書かない曲もありますが、気長にお付き合いいただけますと幸いです。

 

「艶容女舞衣」観てきました!〜国立劇場文楽9月公演 初心者の感想〜


超 今 更 ! ! ですが、国立劇場の9月文楽公演、感想第二段です。

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第一弾はこちら↓


8月に女流義太夫で聴いた「酒屋の段」(感想はこの記事
あのときは省略された(?)丁稚のもとに子供が預けられるくだり、酒屋のあとの半七・三勝の心中のくだりも加わり、2時間近くの公演でした。

以下、心に残ったポイントをぽつぽつと。

※カッコ内は以下の通りです。
役名(人形主遣い)、(太夫/三味線) 

***

前半、丁稚文哉さんがかわいいですねぇ。

頬杖をついて、隣の家のお稽古の様子に耳を澄ます様子とか、何かする度に主人に「阿呆」と言われてしまう間抜けさとか、愛らしいです。

5月の「妹背山」でも丁稚はかわいかった記憶(うわ、私これ感想書きかけになってる!うわぁぁぁ)

***

そして、前回素浄瑠璃で聴いたときにも刺さった宗岸(玉也さん)の、男手一つで育てた娘・お園(清十郎さん)に対するこの詞。

「…愚痴なと人が笑はうが俺や可愛い不便(筆者注:不憫)にござる。可愛うござる╱ ╲ ╱ ╲ ╱ ╲わいなう」 

それまではそんな気配はおくびにも出さないのに、堪えに堪えていたんだよなぁ。
こういう、感情が溢れてしまう瞬間に弱いのです。丁寧に語られるところに、追い打ちをかけてくる三味線(ここは藤太夫さん清友さん)。 
 
自らが一番辛いであろう立場のお園ですが、驚いて父に寄り添います。
お園ちゃんは本当に、気遣いの塊なんですよ。。

***

「今頃は半七様、どこにどうしてござらうぞ。…」

で始まる有名な詞(この辺りから津駒太夫さん藤蔵さん)。
ここ、人形で観るとお園清十郎さんの形が何ともきれいですね。。
 
行灯をつけて、その行灯にもたれ、玄関を見遣り、所在なく家の中に目を遣る。
じわじわと動く人形。
気もそぞろな様子が非常に細やかでリアルです。

去年患ったときにいっそ死んでおけば…と悶えながら泣くお園に、やっぱり胸が痛みます。どうかそんなこと言わないで…。
 

このあと夫の愛人の子に当たるお通ちゃん(勘昇さん)が出てくるのですが、お園はこのお通ちゃんを迷いなく抱く、その抱き方にも愛があって、本当に何て強い女性だろうかと。
夫のことを一番に考えて、愛人にも恨みを持たず、その子供を愛情深く抱き上げるって。
舅に当たる半兵衛がお園を手放したくないのも、よく分かります。

前回私が好きだったのは、半七からの書置を家族で読む場面。

ここね、お通ちゃんがかわいいんです。はいはいするんです。
はいはいして、半兵衛(玉志さん)のとこに寄っていって、半兵衛がそれにはっと気付いてよしよししてあげる。このさりげないくだりが、何だかとても温かくて良かった
頑固ジジイのような役どころかと思わせておいて、半兵衛はどんどん温かみを増してきますよね。
 
その場で動いている人物以外の、こういう細かい部分って、やっぱり聴いて想像するだけでは補い切れない部分で、人形浄瑠璃だからこその情の深さだなぁと思います。


この書置のなかの、「夫婦は二世と申すことも候へば、未来は必ず夫婦にて候」というところ。
半七はあの性格なので絶対口だけだと思うんですが(実際このあとの道行で、三勝に向かって「千年万年先の世まで、必ず二人は一緒ぞや」とか吐かしてるんですよね)
それを読んだお園が素直に喜ぶところ、そして父・宗岸が「われが為にいつち良いことが書いてあるなあ」と言ってあげるところ、どこまでも美しい親子だなぁと…。
 
たぶん、二人ともそんなのは口先だけだと分かっていると思うんです。
それでも、半七の両親がいる手前もあるかもしれませんが、そこに望みを見出だして素直に喜びを見せる。
そういう嫁に、半兵衛夫婦も助けられるところがいっぱいあったんだろうなぁと思います。


で、この一連の流れを外から見ているのが、事件の中心にいる半七・三勝カップルです。
三勝の嘆き、外にいるなんてバレたらまずいわけで、絶対に声を抑えなきゃいけないところなんですよね。
でも、心の中は到底静かなわけがなくて。

そういう内面的なドラマを、太夫と三味線がしっかり見せてくれるんです。
物凄く盛り上がるのです。静かな場面ですが、音曲的には一番盛り上がっていたと思います。

義太夫の、こういうワーッと感情を煽るところ、いつもがっつり心を持っていかれます。。大好き。

このあと、二人の最期の様子を見せる道行の段があって、幕になります。

*** 

いやぁ、毎度ながらすごい迫力。

歌舞伎座で観る義太夫狂言も好きなのですが、私が文楽を観るのは専ら国立小劇場なので、体に届く音圧が歌舞伎座とは全然違うんですよね(歌舞伎座も舞台から遠い席ばかりなので笑)。


12月の文楽公演、チケット取れるかしら。
次はあの「熊谷陣屋」を含む「一谷嫩軍記」。一度通しで観てみたかった演目です。(歌舞伎の「熊谷陣屋」感想はこちら
それから、鑑賞教室の方では、去年も出た「伊達娘恋緋鹿子(だてむすめ こいのひがのこ) 火の見櫓の段」この記事と、「平家女護島(へいけ にょごのしま) 鬼界が島の段」が観られます(それぞれ「お七」「俊寛」 と言った方が分かりやすいかもしれません)

スケジュール的に、鑑賞教室は諦めかもしれませんが…この12月公演は本当にチケットが取れなくて、去年も日々戻りを狙っていた記憶があります。

チケット争奪戦、頑張ります…!!


 
プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇5年目。このご時世でなかなか劇場に通えず悶々とする日々。
◆着物好きの友人と踊りの師匠のおかげで、気軽に着物を着られるようになってきた今日この頃。

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