以前、この記事で触れた「夏祭浪花鑑」

歌舞伎の方を観た直後に、
これを文楽で観てみたいと直感のように思った作品です。

念願叶い、国立劇場・九月文楽公演の楽日に行ってまいりました。

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いやもう、素晴らしかった

全編通して、情と心意気とどうしようもない因果とに
何度も目頭が熱くなりました。

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圧巻だったのは、やっぱり「長町裏の段」
だんじり囃子が聞こえる中、
団七が、泥にまみれながら舅である義平次を手にかける場面です。 

義平次の執拗な嫌がらせと、子供じみた言いがかり。
それを「舅も親」と懸命に飲み込もうとする団七。
それでも悔しくて悔しくてならないのが、
「こなたは、こなたは、こなたは……!」という詞章で痛いほどわかる。

その後の泥沼義平次殺しの場面は、
語りは何もなく、煽るような三味線とお祭りの賑わいだけ。

大音量で華やかに盛り上がるだんじり囃子と、
「チョーサァ!ヨーサァ!」という大勢の掛け声が、
ただでさえ凄惨な場面に息を詰めているこちらの心拍数をさらに上げていく。

ことが終わって神輿が去り、祭り囃子も遠のき、辺りが静まり、
殺してしまった義父に「南無阿弥陀仏」と手を合わせる団七。

一瞬の静寂ののち、

「八丁目、指して」

の「は」の一音でがばっと我に返る、あの勢い。

心臓わしづかみでした。

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このお話で好きな登場人物は、何と言っても
徳兵衛とその女房・お辰。 

男伊達とその妻なのですが、
これが非常に肝の座った、よくできた者どうしの夫婦です。

お辰は一場面だけしか登場しないのですが、
一度決めたことを貫くために、自らの美しい顔を犠牲にする強さは
どの登場人物にも負けないインパクトがあります。

吉田簑助さんのお辰、どの瞬間を切り取っても美しく、絶品でした。

徳兵衛は、主人公団七と義兄弟の契りを交わした相手。 
最後の「田島町団七内の段」での侠客っぷりが見事です。

団七の舅殺しの罪を知った上で、
あの手この手で、自分が悪者になってでも団七を逃がそうとする徳兵衛。
なんと義理堅いことでしょう。 

最後の場面、屋根上で団七を捕らえるふりをして
銭を渡し、玉島へ逃げるよう囁く徳兵衛のかっこいいこと。

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「田島町団七内の段」 では、団七の女房・お梶も泣かせます。

夫に親を殺されるという、あまりに辛い板挟みの立場のお梶。
それでも夫の罪を少しでも軽くするために、
三婦や徳兵衛の芝居にのってみせるのです。

この場面でのお梶の言葉が、どれも胸に刺さる。

この流れで言うのもアレですが、
歌舞伎の立廻りと違って人形だと
倒された者たちが容赦なくぽいぽい飛ばされていくので、ちょっと面白かったです。

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文楽は、筋書を買うと床本がついてくるのがいいですね。
心に残った場面や、理解が不安だった場面を振り返るときに、とても便利。

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圧倒されっぱなしで、本当にあっという間に終わってしまった4時間半。

しばらくは何にも触れずに、この余韻に浸っていたい。

痺れました。