ずっと読みたかった本をやっと読了。

朝井まかてさんの『恋歌』

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ブックカバーをかけたくないくらい素敵な表紙。
物語の重要な舞台「萩の舎」にちなんででしょうか。


 『阿蘭陀西鶴』『眩』(いずれも 朝井まかて著)に描かれる女性たちの強さと
ふとした瞬間に見せる周りの優しさが好きで、
こちらも気になっていたのです。

 ***

三宅花圃・樋口一葉らの歌の師、
中島歌子の手記を中心に、物語は進みます。

手記に描かれるのは、おきゃんな娘の一途な恋と、
その恋ゆえに巻き込まれていく
幕末・水戸藩の凄絶な動乱。 

当時は「登世」と名乗っていた一人の若き女性が、
武家の妻となり、
激動の時代を、夫への想い一本で
生き抜いていく姿です。

***

『恋歌』という題名ながら、
 中島歌子の詠んだ歌はそれほど多くは出てきません。

しかし、物語の要として、
常に和歌が存在
しています。

登世と、のちに夫となる林以徳とを
引き合わせるきっかけとなり、
その後も折に触れてよすがとなる歌

江戸から水戸へ嫁いで、
様々に交流を持った人々が、
命の際に詠んだ辞世の句

中島歌子となってからの伝統に則る歌風に似合わぬ、
溢れる想いを詠んだ激情の歌…。 


最も「恋歌」と言えそうな
最愛の夫・以徳と詠み交わした歌が、
物語の中に出てくるのは一つの場面だけ。

しかし、この歌がきっかけとなって
彼女は歌の道を志すようになるのです。

「なぜもっと、己の心を三十一文字に注ぎ込まなかったのだろう。
戦場の夜も昼もあの人の胸で響き続けるような、
そんな言葉をなぜ捧げられなかったのだろう。」(p.341)

誰がいつ命を落としてもおかしくなかった
幕末の水戸藩。

その中で生きた女性だからこそ、
命をかけて歌を詠もうとした。 

物語の文脈の中で詠まれるどの歌も、
たった三十一文字にもかかわらず、
どれだけ言葉を尽くしても伝わらない感情
まっすぐに響いてきます。

***

誰にも、どんな雑音にも邪魔されたくなくて、
静かな部屋にこもって読みました。

心をぐわっと鷲掴みにされて
そのままぐわんぐわん揺さぶられるような小説です。

 

恋歌 講談社文庫 / 朝井まかて 【文庫】

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