ただ歌舞伎のハードルを下げるだけでなく、
「つまらない」と思ってしまった人への言葉、
観劇中の退屈をしのぐ方法、
果ては「伝統」とはどういうものなのか、というところまで、

とことん「歌舞伎初心者」の心情に
寄り添ってくださった一冊
です。 

東京大学名誉教授・文化人類学者の
船曳建夫先生によるこの本、

歌舞伎に行こう! 手とり足とり、初めから [ 船曳建夫 ]

価格:1,620円
(2018/10/23 00:47時点)



『歌舞伎に行こう! 手とり足とり、初めから(船曳建夫、海竜社、2017年) 

前半はとにかく、本当に初心者を安心させてくれる内容。

後半の「伝統とは」というあたりは
「なんで歌舞伎とか残す必要があるの?」という方にも、
そういう質問をぶつけられてうまく答えられなかった方にも、
ぜひ読んでいただきたいです…!




1.きっかけから観劇終了までフォロー!


この本がすごいのは、

「歌舞伎を見に行くきっかけ」から
チケットの選び方・買い方、
当日着て行く服や食べるもの、
前日までに必要な準備、
幕間の過ごし方、
観劇中の退屈撃退法、
観劇終了後の感想の持ちようまで、

本当に一つの公演を見に行く最初から最後まで
丁寧に追ってあるところです。

そしてこれらの情報の前に、
歌舞伎の歴史解説、みたいな堅苦しいお話が
一切入っていない
ところ。

伝統芸能が「敷居が高い」と言われてしまうのは、
「伝統芸能」という構えさせるような言葉が良くないのでは、と私は思っていて、

この本ではその「伝統」の部分を
最初ではなく最後に持ってきているので、

入り口で跳ね返されないですむところが
とてもありがたいです。


2.歌舞伎で退屈した人にもやさしい


「退屈してしまった人」にも
目を向けてくれる入門書って、
そんなに多くない
のではないでしょうか。

どうして退屈だと思ってしまったのか、
退屈なときにどうやって時間をやり過ごせばいいのか、
というところにも踏み込んであって、

それが先日ブログに書いたことにも通じることだったので、
ちょっと引用させていただきます。

「まず、なめてかかること。
古典芸能、なんて思って尊敬したりはしないこと。
「へー、こんなことするんだ」とぼんやり見る。
懸命に集中して分かろうなどとしない。」
(p.122 )

これ、まさしく先日書いた、
あのとき歌舞伎にはまらなかった理由。」だと思うのです。

初めての歌舞伎で、私は
ものすごく身構えてかかってしまって、
どの瞬間も理解しようと必死だったために
歌舞伎を純粋に楽しむことができなかった。

退屈とまでは行かないまでも、
今ほど「おもしろい」とは思えなかった。

先にこの本を読んでいたら!と思います。笑


3.伝統が守られるべき理由に納得


「どうして伝統を守らなければならないのか?」
という問いに対して、
「伝統芸能」を好きになったにもかかわらず
うまく答えることができずに、
ずっともどかしい思いをしておりました。

それを書いてくださったのが
とても嬉しかったです。

今の文化の礎であること、
この伝統芸能を含めて「芸能の生態系」が成り立っていること。
現代の文化の根底にある「伝統芸能」に
今現在でも触れられること。

だから残さなきゃいけないのだ、と。

このあたり、ちょっと抽象的で
ちゃんと理解できているか不安なのですが、

私なりの解釈と、考えたことはこんな感じ↓

---

伝統芸能は、意識的にも無意識的にも
現代の芸術・文化に影響を与えているわけです。

(この本に挙げられているのは映画やマンガですが、
文学やデザイン、音楽などの発展にも
大きく寄与していると私は思います。)

何百年も続く芸能から、新しい流行や文化まで、
全部引っくるめてお互いに影響し合いながら
「日本の文化」という総体ができあがっている
のだ、
というのが、この本で言われている
「芸能の生態系」 ということだと解釈しています。

では、この生態系の根幹にある「伝統芸能」が
もしなくなってしまったらどうなるか。

それをもとに育ってきた新しい「日本の文化」は、
もとを辿れなくなり、地盤が頼りなくなり、

発展や創造の選択肢も減り、
文化全体が縮小してしまうのではないかというのが、
この本を読んで自分なりにまとめてみた答えです。

(古典という、あらゆる文化の「源流、本物」に
今でも触れられることの重要性については、
p.218で触れられています。) 

というわけで、
現代の日本文化全体のために、
たとえどんなに斜陽であっても、
伝統芸能を絶やしてはならないのだ、というのが
最終的に行き着いた結論です。

---

…全然違ったら本当に申し訳ない。笑

何にせよ、「伝統って何で必要なの?」の問いに対して
自分なりの方向性を見つけられたことにおいて、
この本に心から感謝です。


4.まとめ〜このブログの存続意義


この本、鬼に金棒だと思うのです。

もともと歌舞伎について
相当なご経験と知識をお持ちでありながら、

こんなに初心者の気持ちに寄り添える。

どちらの軸もあるのは最強です。

そのため、読み終わったときは

「このブログ、いらないんじゃない…?」

という気持ちになりました。笑

よく考えると、そう思うことすらおこがましいです。笑


初心者が「分からない」「でも好き」を発信しているだけなので、
そこに知識や経験の裏付けはないわけですよ。

まぁでも、

情報を更新していけるところがネットの強みであり、

蓄積していけるところがブログの強みであり、

本当にものを知らないところが初心者の強みであるので。笑

一年前の、今よりもっとものを知らない自分が
「えぇっこんなに分かってないのに観に行くの?!」
と呆れつつもちょっと安心して、時々頼りにくるような、
そんなブログを作っていければと思います。
 

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