今月どれだけ歌舞伎に行くのかという話ですが、、

大変失礼ながら、実は全然マークしていなかった国立劇場の公演。
名高大岡越前裁(なもたかしおおおかさばき)

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「歌舞伎が好きならば是非!」という声を方々で聞き、
これは行ってみねばと思い、急遽チケットを取ることに。

国立劇場は2等席でも2,700円と求めやすい価格なのがありがたい! 

さてこれがですね、
とても渋くて良かったのです。 

国立劇場は、初心者には耳馴染みのない演目を通しで上演することが多く、
歌舞伎座のようなめくるめくエンターテインメント性には欠けるのではないかと思います。

しかし、じっくりと腰を据えて味わいながら観る余裕があります。
(私が歌舞伎にはまったのは、歌舞伎座ではなく国立劇場がきっかけでした。)

長くなってしまいましたが、各場面を振り返りつつ感想をしたためてみました。
大いにネタバレを含んでおりますので、これから観る方はご注意くださいませ。

***

今回のお芝居は、有名な「天一坊事件」をもとにしているものです。

…と言われても、時代劇に詳しくない自分には
さっぱりピンとこなかったのですが
要は
「将軍の御落胤と偽る天一坊 VS 大岡越前」
という構図。

ただしこの天一坊に、山内伊賀亮(やまのうちいがのすけ)という強力なブレーンがついてしまい、
加えて本物の御落胤の印まで手にしていたため(もちろん悪事を働いて手に入れたものなのですが)、
さすがの大岡越前もあわや切腹というところまで追い詰められてしまうのです。

伊賀亮、そんなに頭がいいのに
どうして無計画な悪事を始める法沢(ほうたく、のちの天一坊)についてしまったのだろう。

そもそも法沢も、おそらく出来心で始めたであろう壮大な犯罪を
どこまで本気で突き進めようとしていたのだろう。

前半は「むむむ?」と思うところが多かったというのが正直なところ。

しかし、大岡越前が出てきたあたりから
どんどん話が面白くなってきました!

***

この大岡中村梅玉さん)の登場。
花道から出てくる姿は、かの大岡越前にもかかわらずどこか疲れた風情です。 

それというのも、天一坊が御落胤でないなどというのは無礼だと、
将軍に袖にされてしまった後なのでした。

それに加え、大岡家の断絶までほのめかされ、
閉門(屋敷の出入りが禁じられる)の処分を受けてしまうのです。

それでも大岡の眼力、
やはり天一坊は絶対に将軍の御落胤ではないと分かっており、
閉門でありながら屋敷を脱出し、小石川の水戸徳川家へ
今一度 天一坊を調査したいと助力を頼みに行くのですが、

この脱出シーンがおもしろい!

閉門中でも唯一出入りできる とある場所から抜け出るのですが、
その計略に乗る家臣たちと、門番(嵐橘三郎さん)とのやりとりが軽妙。 

さらにこの場面、廻り舞台で次の場に切り替わるのですが、
舞台が廻りきるぎりぎりまで前の場の登場人物たちがわいわいしているので
ずっと舞台から目が離せませんでした。笑 

さて、この次の、水戸徳川家のシーンが私はとても好きだった
徳川綱條(つなえだ)坂東楽善さん) と大岡梅玉さん)とのやりとりの場面です。

天一坊の悪計を見抜いているにも関わらず、
思いのままに調査ができない状況に陥った大岡。
綱條は大岡をとても信用していて、大岡のために良いように取り計らうのです。

ここが渋くて温かくて本当に良い場面だった…!

綱條の、病をおして危急の時に力になってくれるかっこよさ、
不利に立たされた大岡に「名奉行」と声をかける強さ、 
しみじみと良かったです。。ここだけでももう一度観たい。

綱條の助力を得て、大岡は天一坊(市川右團次さん)を奉行所に召喚し、取り調べを行います。
この取り調べに臨むときの大岡、気を引き締めるように着衣をぴしりと整えるのですが、
この所作がなんともかっこよかった。

しかしここで出てくるのが、手強いブレーン・山内伊賀亮坂東彌十郎さん)。 
大岡の訊問に対して淀みなく答え、大岡を黙らせてしまうのです。

この場面の伊賀亮、圧巻でした
「網代問答」という有名な場面らしい。

自信たっぷりに、半ば威圧的に答える伊賀亮。
最初は「なんで天一坊方についちゃうの?」とキャラが掴めなかったのに
どんどんその難敵ぶりに惹き込まれてしまいました

しかしこの問答の最後、天一坊がぽろりと口を滑らせます。
伊賀亮が取り繕いますが、そこは大岡、聞き逃しません。

このあとの伊賀亮の引っ込み、七三で立ち止まるときの心中はどんなだろう。
頭のいい伊賀亮のことだから、100%言い負かしたとは思っていないはず。
この悪計の行く末を、どこかしら悟っているのかもしれないな、と思います。

さて、伊賀亮にやり込められてしまった大岡は
天一坊の失言を頼りにさらに調査を進めているのですが、
時間ばかりが経ち、調査にやった家臣・平石と吉田からは音沙汰がありません。

ついに大岡は、切腹を決意します。

この切腹の場面、浅葱幕と竹本の演出効果が凄かった
ぱっと幕が落とされると、大岡とその妻、幼い息子の忠右衛門が白装束で三人並んでいるのです。
もう覚悟をしなければならない。
竹本の語りが、哀しさを倍増させます。 

子供ながらに切腹の手順を完璧に身につけている忠右衛門市川右近くん)。
その身のこなしがとてもきれいで、それもまた切ない。 

介錯を頼まれた家臣・池田大助坂東彦三郎さん)は、
ただただ狼狽し、 平石と吉田の帰りを待つ。
この場面、 誰もが池田の気持ちになると思います。
二人の戻りの遅さに焦り、なんとかして主人を切腹から救いたい池田に、
思わずほろりとしてしまいました。

いよいよ刀を手に取る大岡と忠右衛門。

そこに、

帰ってきました!平石坂東秀調さんと吉田市川男女蔵さん!!
間に合った!!!

いや、展開上そうなることは分かってたけど! 

「天一坊が御落胤ではない」という証拠とともに帰ってきた二人を、
大岡は感謝とともに迎えるのです。

このときの忠右衛門が、泣き笑いを誘います。
「もう切腹はいたしませぬか?」
という、なんともかわいいセリフ。
完全に状況を理解はできていないのだろうし、
切腹の覚悟を決めるのは、幼いながらにとても無理をしていたことでしょう。
よかったね、と素直に思いました。。

さぁ、ここからは大詰・大岡裁き。
天一坊に決定的な証拠を突きつけ、天一坊がお縄となって幕です。 

***

一気に語ってしまいましたが、

お芝居として濃密で、4時間なんてあっという間でした。
周りの言葉を信じて観にきてみてよかった。 

ご出演の役者さんたちの声がとても好きで、
惚れ惚れしながら聞きました。 

いぶし銀の魅力というのでしょうか、とにかく渋かっこよかったです。 

分かりやすく「うわぁー!」となれるような演目ではありませんが、
初心者の私でも味わい深いと思える舞台でした。

もう一回観たい…