国立劇場の12月文楽公演、観てきました!

今回は「鎌倉三代記」と「伊達娘恋緋鹿子」の二本立て。
この公演については、こちらの記事で無知を晒しております。

順を追って感想を綴りたいと思います!
あらすじが複雑で(特に鎌倉三代記)まとめるのを断念いたしました…かたじけない…




0.幕開き三番叟


これ、ずっと観たかったんです。

三浦しをんさんのエッセイ『あやつられ文楽鑑賞』(双葉文庫、2011年)で、日々の公演前に「幕開き三番叟」なるものを上演すると知り、
そのような儀式が現代にも残っていることに、とても感銘を受けたのです。

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しかし一体どのタイミングでやっているのか、そもそも本当にやっているのか、一般人でも観られるものなのか…などなど、分からないことだらけ。

そんななか、Twitterにて「幕明け三番叟は、本公演『鎌倉三代記』の開演15分前に行います」との情報を入手!

おお!三番叟、本当にやってる…!!!

というわけで、開演15分前に座席についてみました。

ぴったり開演15分前。何やら幕が開き、浅葱幕の前に三番叟の人形が登場!
床には誰も座りませんが、舞台下手の御簾から「たっ ぽぽっぽ」と鼓の音が鳴り始めました。

幕開き三番叟の人形は、二人で遣うようです。
「おおさえおおさえ〜」という台詞を言っていたのは人形の方かしら?
最後まで床に人が出てくることはなく、演奏は全て御簾の中から聞こえていました。

素朴で、何となく愛嬌がある三番叟。

おめでたいこの演目を、毎日開演前に、特に大きく広報もせずに続けているのですね。

粛々と続いてきたものに触れられたのが嬉しかったです。

ちなみにこの三番叟、5分弱で終わります
開演前にお手洗いを済ませたい場合は、このあとでも何とかなるかと思います。
(ただし国立小劇場のお手洗いはとても混みます)


1.鎌倉三代記


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見てください、この三浦之助の憂い。時姫の色気。
筋書(今回は600円)に載っている、河原久雄さんによるお写真なのですが、表情の変わらない人形にも関わらず、これだけ表情が出るのです…!


時姫の実の父親・時政と、時姫が愛する三浦之助は、戦乱の世の中で敵同士。
この狭間で葛藤する時姫が不憫でした。

というか、

三浦之助がひどい。。

時姫が敵方の娘であるために、疑いを持ってしまうのは分かるのですが、
それにしても時姫の疑いを晴らす条件として出すのが「実の父である時政を討つこと」だなんて。。

いくらなんでもそれはどうなの!と思ってしまいました

三浦之助が、立場上自分のことを疑わざるを得ないのを、時姫も分かっています。
そして、三浦之助が討死をする覚悟であること、もう会えないであろうことも、分かっているのです。

この時姫が、つれない三浦之助に縋る場面、台詞も良く、時姫の動きも情感たっぷりで、一番印象に残っています。

(※討死の覚悟を)なぜあからさまに打ち明けて、この世の縁はこれ限り、未来で夫婦になつてやろ、と一言言うては下さんせぬ」

という時姫の、三浦之助への台詞。恋心が真っ直ぐすぎて切ない。。

このあたり、時姫と三浦之助の二人だけの場面なのですが、
時姫が三浦之助を見上げる角度がものすごく色っぽいのです。
舞踊に出てくるような動きをするところもあり、台詞に加えて一連の時姫の動きからも目が離せません
文楽のお芝居でもこんなに動くんだ!というほど、語りながら時姫、結構動きます。

時姫はとにかく真っ直ぐで一途なんです。

その純情具合はときに方向を間違っていて(笑)、
姫育ちでありながら必死に町人の言葉を覚えようと頑張ったり、
経験のない家事を何とかしようとしたり(その上で結局何もできなかったり)、という様子はちょっと滑稽なくらい。

でもこのただひたすらな「三浦之助の妻でありたい」という気持ちが、最終的に時姫に重大な判断を下させるのですよね。
これで周りも大きく動き出すわけです。

今回この演目を観るにあたって、「赤姫とは何か」というのを少しでも掴みたい、という気持ちがありました。
(「赤姫」については「歌舞伎美人」の解説(こちら)が分かりやすい。
私個人の「赤姫について知りたい」という話はこの記事です。)

姫様育ちで常識はいろいろ足りない、それでもこれだけの思いと実行力とを持って、愛する男へ尽くすことができる。
そういう性格が、「赤姫」というものの一つの特徴なのかな、と思います。

話は逸れますが、前半に出てくる近所のおばちゃん的な役・おらちが結構好きです。笑

時姫とは正反対も正反対、さっぱりしていてだいぶ図々しい。笑
(時姫とおらちの会話の噛まなさが愉快です)

でも何だかんだで、時姫に家事を教えてあげたりして、面倒見がいいんですよ。
近所にいたら話題が絶えなそうなおらちさんです。


2.伊達娘恋緋鹿子


この記事で、お七は放火をするのか?しないのか?と気を揉んでおりましたが(※そこまででもない)
結論。放火しません。

そのかわり、「火事ではないのに火の見櫓の鐘を鳴らす」という重罪を犯します。やっぱり悲恋だった…

前半、お七が意にそぐわぬ結婚を両親から説得される場面。
愛しい吉三郎のことを思い、母にすがりついて泣くお七が何とも悲しくて、それでいてかわいい
本当に一人の娘です。後々あんなことになるなんて、このときお七は考えてもいないんだろうなぁ。

お杉という下女が、また頼もしい人なんですよ。
お七もためらいなく頼ります。
出先から戻ったお杉に駆け寄って嘆くお七がまたかわいい

このお杉、お七の思いを受けて、丁稚の弥作と共に吉三郎を救おうと一肌脱ぐのですが、
弥作の登場がなかなかに楽しいので注目です(笑) なぜそこにいた…。
弥作&お杉は、最後まで安心して見ていられるナイスコンビでした✨

さて、このお話では途中に舞台転換があります。
かの有名な火の見櫓の場面の前です。

この火の見櫓のセット、直前まで浅葱幕で隠されていて、
幕がぱっと振り落とされると一気に舞台が見えるようになっているのです。

浅葱幕、以前も書きましたが(この記事)本当に凄い演出ですよね。
「一気に見える」というところ、スピード感と驚きを生むにはとても重要だと思います。

この火の見櫓が、お七の人生を大きく狂わせることになるんですよね…

火事でもないのにこの鐘を鳴らすと、火炙りの刑になってしまうのだそうです。

一心不乱に櫓に向かうお七に、心の中で「お七!戻っておいで!!」と願わずにはいられなかった…

この櫓に上る演出、凄いんですよ。
人形浄瑠璃で観るのは初めてだったのですが、

本当に人形が登ります!!

人形を遣う人は、櫓の後ろから動かしているようで、
舞台上に見えているのは櫓に上がっていくお七だけなんです。

凄かった。

最後は舞台がぱっと明るくなり、登場人物が舞台上にずらりと並んで幕になります。

壮絶だなぁ。。
とにかく演出が凝っていて、文楽における工夫に改めて驚いた演目でした。


3.まとめ


今回も充実した時間を過ごすことができました!
床の近くの席だったこともあり、音圧にも圧倒されました。

以前「夏祭浪花鑑」を歌舞伎で観たときに、「これを文楽で観てみたい」と思ったという話は過去にも書いたのですが、
今回は逆に「鎌倉三代記」を歌舞伎でも観てみたいな、と思いました。

時姫の見せ場、どんな感じなんだろう。
あの時姫の台詞を聞きたい。

お七の方は幸せなことに、1月の歌舞伎座で観ることができますね✨
(1月歌舞伎座の「物知らず」はこちら

同じ演目を文楽と歌舞伎とで比較してみると、それぞれの特徴や良さがあってとても面白いのです。

そういう楽しみ方ができるくらいに、どちらの文化も現在進行形で残っているのが、本当にありがたい限りです。

★2018.12.13追記★
 1月歌舞伎座の「松竹梅湯島掛額」は、これとはだいぶ展開が異なるようです!
とはいえラストは「人形振り」とあるから、やはりこの場面が観られるのでしょうか…?
何にせよ、関連する演目が直近で観られるのは嬉しいです^^
(公式サイト「歌舞伎美人」の該当ページはこちら )


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今回もイヤホンガイドは借りずに筋書だけで臨みましたが、
笑いどころなどをちゃんと理解するにはイヤホンガイドが良かったのかもしれません。
多くの方が笑っている場面で笑い損ねたところがいくつかありました(単なる理解力のなさも大いにありますが)。

もし「理解に自信がないけれども筋書派」という方がいましたら、先に児玉竜一さんの「上演作品への招待」(p.16-17)に目を通しておくと雰囲気が分かりやすくて良いかもしれません。