2019年初観劇!
門松も青々とおめでたい雰囲気の歌舞伎座に、早速足を運んでまいりました!

まずは夜の部・一幕目の「絵本太功記(尼ヶ崎閑居の場)から、初心者なりの感想と楽しみ方をレポートします。

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すんごいジャギってる。泣




■初心者でも楽しめるのか?


私は大いに楽しみましたが、眠くなる方もいらっしゃるのではないかと(終わった後に前後左右から「寝てしまった」という声が聞こえてきたので)…。

武智光秀vs真柴久吉という構図と、登場人物それぞれの関係性が分かれば、ストーリー自体は難しくないと思います!

眠くなる要因としては、「役者がセリフを語る」というよりも「竹本の語りに合わせて役者が動く」割合が多いからではないでしょうか。
(これは人形浄瑠璃が基になっている「義太夫狂言」の特徴のようです。)

ですがその分、役者さんたちの動きの美しさを存分に楽しめます!
私個人としては義太夫が結構好きなので、太棹の音が作り出す重厚な雰囲気を味わいました。


■私はこう見た!ここが好き!


印象に残ったところを、物語を振り返りながら語ります!今回は長いです!笑

***

舞台に最初に登場するのは、光秀の息子・十次郎松本幸四郎さん)。
見目麗しい十次郎の、太刀を置く所作に憂いが見えて、惹かれました。
それはそうですよね、十次郎はこれから討死する覚悟を決めているわけですから…。

そこに登場するのが、十次郎の許嫁・初菊中村米吉さん)。
赤の着物にきらきら光るかんざし、登場するなり舞台がぱっと華やぎますが、物語上は悲しい場面です。

まだ祝言も済んでいないのに、十次郎は討死するかもしれない。
おまけに「自分は死ぬから、初菊は他の相手を見つけた方が彼女のためだ」なんて言って…男はいつもこうして勝手にかっこよく散ろうとするんですよっ!笑

十次郎に行ってほしくなくて、必死にとどめるけれど、結局出陣の用意を手伝うことになってしまう一連の初菊のかわいらしいこと…!守ってあげたい!!笑
初菊にとって、兜はうんと重いのです。。工夫しながら一生懸命運びます。

鎧兜に身を包んだ十次郎と、許嫁の初菊は、皐月(光秀母=十次郎祖母、片岡秀太郎さん)と(光秀妻=十次郎母、中村雀右衛門さん)が見守る中、盃を交わします。
これは十次郎の初陣祝いと、二人の祝言を兼ねているのですが、初菊にはこれが「別れの盃」になることが分かっているんですよね。
竹本に耳を傾けると「悲しさをこらえて笑顔で」みたいな内容のことを言っていて、切なくなります。

さて、十次郎が出陣したあとに一瞬だけ登場する旅僧中村歌六さん)。
家族が悲しみに暮れている中、「お風呂沸きましたよ!」というだけの登場で「いやいや今じゃないでしょ」という感じなのですが、
この人、去り際が怪しい。何やらこの部屋の様子を伺ってから去っていく。

それもそのはず、この人こそが光秀の敵・真柴久吉なんですよね。
歌舞伎はこういう「実は〇〇」が多くて気が抜けません。笑

家族が奥の部屋へ入り、無人になった舞台にやってくるのが武智光秀中村吉右衛門さん)。
竹藪からがさごそやってくるのですが、

いやもう、かーっこいいですよ。

この場面において光秀は結構な悪いやつなのですが、存在感が凄い。

光秀はここに敵である久吉がいると知り、やってきたのでした。
その辺に生えていた竹を切って竹槍をこしらえると、障子の向こうにいるであろう久吉めがけてぐさりと一刺し。

ところが障子の向こうにいたのは、久吉ではなく自らの母・皐月。
敵を刺したと思ったのが、何と光秀は実母を刺してしまったのです。

この皐月の嘆き。
そもそも光秀は、主君である小田春永を討っている。主君を討つなどという家名を汚すことをした者の母なのだから、自分がこのように死ぬのは当然、と。
皐月は何も悪くないのに。。しかもだからと言って光秀がこのようなことを起こしていいはずもないのに!

光秀の妻である操も、「善心に返るとたった一言聞かせてたべ」と改心を懇願しますが、光秀はにべもない。
自分の正当性を堂々と語る始末です。(そしてそれにまた妙な説得力があるのです。。)

この場面の操、心のやりようがないだろうなぁ…。
自分の愛する夫を信じたいという気持ちがあるのは間違いない、でもその夫が自分の母を目の前で死に追いやってしまった。
上のセリフに、そんなどうしようもなさを私は感じました。

そこに、深傷を負った十次郎が戻ってきます。

ここからの場面が一番印象に残っています。

母親や妻の言葉を突っぱねていた光秀が、虫の息の十次郎に見せるのは、親の愛以外の何物でもない

「傷は浅いぞ、気を確かに持て」と十次郎に丁寧に水を飲ませ、
「ててじゃ、ててじゃ…てての顔が分かるか」と語りかけるあたり、今までの光秀からがらりと雰囲気が変わり、ぐっときました。

気が付いた十次郎に、光秀は戦の様子を語らせますが、

これ、語ってる間に絶対傷深くなってますよね。
死に際になんて無茶させるんだ…さっきまでの優しさはどこ行ったよ…。

そして十次郎は、祖母とともに息絶えます。
死に際の初菊とのやり取り、泣かせます。
もう目が見えない十次郎。初菊の手を取ろうとしますが、どこにあるのか分からない。
初菊の方から手を取ることは、おそらく女性としてお行儀が悪くてできないのでしょう。十次郎が探りやすい位置に、何度も手を置き直す初菊の切なさ。

自らの蒔いた種で、母親と息子を死なせてしまった光秀。
さしもの光秀も、思わず涙に暮れます。

そこに、遠くから軍の寄せる音。
光秀は松の木に登って、様子を確かめます。

「和田の岬の弓手より〜」から始まるこの光秀のセリフ、かっこいいです。

そして光秀の敵に当たる久吉が姿を現わすのですが、
敵の姿が見える前の、光秀の「挟まれた感」が興味深かった。
舞台上手の部屋の方から久吉、花道奥の鳥屋からは久吉の家臣・佐藤正清中村又五郎さん)の声が聞こえるのです。
声だけで「今は逃げ場がなくなった」と感じる場面でした。

そして正清の動きのキレ
槍に足をかけてきまるまでの一連の流れ、登場時間は短いものの、非常に印象に残っています。

久吉は、今ここで決着をつけるのではなく、後日山崎で戦おうと光秀に申し出ます。
光秀も思うところあってこの提案を飲み、最後は上手から久吉・光秀・正清と並んでの見得で幕となります。

この最後の見得が!素晴らしいので!最後はせめて起きてください!!

 

■これさえ押さえれば楽しめます


以下に挙げるのは、観劇してみて
「初めてでもこれが分かっていれば楽しめそうだな」
「これを知っていればもっと楽しかっただろうな」
というのをまとめてみたものです。

★大体見せ場では、
「待ってました!」「〇〇屋!」という掛け声がかかります。
この声を頼りに、舞台にぐぐっと注目!

まず最低限分かればいいのは、舞台に出てくる人々の人間関係かと思います。

皐月
 |
光秀=操
  |
 十次郎 =初菊


という血縁関係です。

このうち、光秀以外の人が前半の物語を進めていきます。 

それから物語の前提として、「光秀vs久吉」という構図があり、
その原因となっているのは「光秀が主君である小田春永を討った」ということ。
久吉は春永の仇を討つために、光秀を追っているのです。 

当然十次郎も父・光秀側で戦いますが、久吉の軍勢にやられてしまうわけです。

ということが分かれば、それほど難しい筋ではなかったと思います。


■まとめ


出だしから何やら切ないし、どんどん人が死んでしまうし、
「お正月の一番初めに観る演目として暗くないか…?」と思ったのが正直なところ(笑)。

しかし確かに笑いどころなどはありませんが、厚みがあります。
筋書のインタビューで、吉右衛門さんが「出演者全員に、しどころがあります」とおっしゃっている通り、 見せ場がたくさんあります。
最後の見得なんか特に歌舞伎らしくかっこよくて、胸がすっとしました。

そんなことを考えると、新年最初の観劇としてはやっぱり良かったのかもしれませんね。
義太夫狂言の名作、堪能いたしました。