公演情報が出た瞬間にときめき、心待にしていた演目。
昨年の平成中村座で、勘九郎さんの実盛で観た「実盛物語(さねもりものがたり)を、今度は仁左衛門さんで観られる喜び!!

はい、やっぱり素晴らしかったです。

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今月のポスター、片岡仁左衛門さんの実盛。渋かっこいい。。今月だけなのが惜しい。。




■初心者でも楽しめるのか?


楽しめますが、軽くで良いので予習をしておくことをおすすめします!

登場人物の立場が途中で「実は…」と変わってしまうので、初心者としてはちょっと理解しにくい。
そもそも「片腕」というものの存在が、なかなか予想をつけにくくしていると思うので… 

しかし!
子供のかわいさや、武士として、人間としての生き方の重みや深みはやはり胸に響くものがあるし、
最後の花道での馬の表情などは、歌舞伎の堅苦しい印象を取っ払うと思います。

以前にも書きましたがこの記事、本当にいい話なんです。
もし迷っている方がいるならば、難しく考えずにぜひ行ってみていただきたい!!

***

初めてでも楽しめるように、極力情報を絞ってまとめてみました。
 

力不足ではありますが、少しでもご参考になれば…


■私はこう見た!ここが好き!


いやもう、全体的にとても温かみがあって、また大好きな一本が増えたな、という感じでした。

出だし、太郎吉寺嶋眞秀くん)の「おれがとったー!おれがとったー!」がよく響きますね!
持っているものは「片腕」という、見様によってはかなり不気味なものなのに、太郎吉のおかげでだいぶのどかなシーンになっています。
よく考えれば太郎吉、お母さんの腕だとどこかで分かっていたから、怖くなかったのかもしれませんね。

母・小万片岡孝太郎さん)に対する太郎吉の態度には、やっぱり胸を打たれます。
動かぬ母に向かって「もう無理は言わぬ」とすがったり、泣きながら母をぽんぽんと撫でたり、その泣き声がだんだん小さくなっていったり…
こちらも泣かされました。 

眞秀くん、先月に引き続きとても立派でした!!


この太郎吉をとりまく人々の温かさもとても良かった。

太郎吉が来るのを迎える祖母・小よし市川齊入さん)の手、
実盛に小万の死を聞かされて、太郎吉の膝を力強く撫でる祖父・九郎助片岡松之助さん)。

この夫婦が、馬に乗せてもらった太郎吉に手を振ってくれるところも、ほのぼのとしていて思わず頬が緩みました!太郎吉嬉しいだろうなぁ。笑


太郎吉との絡みで最もぐっときたのは、やはり瀬尾中村歌六さん)です。 

瀬尾、最初はやっぱりどう見ても悪いやつにしか見えないんです。
話し方も話す内容もいちいち高圧的だし、一旦立ち去るところの去り際のセリフも嫌味っぽい。

「腹に腕(かいな)があるからは、胸に思案が…いやいや、なくちゃかなわぬ」

みたいな感じのセリフだったかと思うのですが…どうにも嫌らしいなぁ。笑

ちなみにここの言い方が個人的に好きで、「胸に思案が」まではいかにもな感じで勿体をつけて言うのですが、「いやいや」でふっとくだけるのです。
その感じがもしかすると、先述の嫌味っぽさを感じた所以なのかもしれません。…どうだろう、うまく説明できないのですが。。

その嫌らしい瀬尾が後半は一変。

小万を足蹴にするとき、瀬尾は一瞬ためらいます。
それでも我が娘の亡骸を蹴飛ばして、わざと実の孫である太郎吉に刺される。

刺されてからの瀬尾、本当に好きです。

いとおしそうに太郎吉に手を伸ばす様子、
「これ孫よ、爺ぢゃ、爺ぢゃ、爺ぢゃわやい」と大事な孫を抱き寄せる様子…
実の孫と対面できるのが、奇しくも自分を斬らせて武勲を立てさせる場面になってしまうという、壮絶で悲しい場面の中に、太郎吉への愛情が溢れていました。

太郎吉、どこまで状況を理解しているんだろうか。。何歳くらいの設定なんでしょう。
嫌なやつと思っていたこのじいさんが、本当は命がけで自分の将来を考えてくれたんだと、この場じゃなくてもいいから気付いてほしいな。

平馬返りという大技こそなかったけれど、歌六さんの瀬尾の深みはやっぱりとても好きです。


さぁ、やっと実盛片岡仁左衛門さん)を語りますよ!!笑

ポスターからも分かる通り、実盛、大変に格好良いのです。

葵御前中村米吉さん)の子が生まれた」と差し出されたものを、立場上どんな気持ちで確認すれば良いのかと思案するところから、
包みを開き、中が片腕であるのを驚きをもって瀬尾とともに見てきまるところまでの、一連の流れの美しさ。
腕を挟んで実盛と瀬尾がきまったところ、絵にしてほしいくらいでした。

腕を切った女がこの家の娘であり、幼い太郎吉の母であると分かったあと、無礼を顧みずに「なぜ切った」と詰め寄る九郎助の言葉を聴く実盛の表情も、胸に刺さります。

平家の中にありながら、源氏再興を潰えさせたくない実盛の立場としては、あの場面では腕を切るしかなかった。
しかしそうは言っても、やはり一人の娘であり母である小万を殺してしまった、という事実に変わりはない。
その間で苦悩する鎮痛な表情に、平家の武士ではない、一人の人間としての実盛が表れてくるなぁと思いました。

その苦しみがあるからこそ、のちの太郎吉に向ける優しい顔がまた重みをもって見えてきます。
この子の母親を救えなかったこと、この子がのちに源氏の大将になるべき人の家来になること。
いろんな思いがありながらの、あのいとおしそうな笑顔なんでしょうね。

綿繰り機の馬にまたがって「勝負!」と息巻く太郎吉のもとに、扇子をぱちぱちやりながら気持ちよく歩いていく実盛、絶対子供好きなんだろうなぁという雰囲気。
そのあとに太郎吉の鼻を拭いてあげるところとか、葵御前の産屋を覗こうとする太郎吉を連れ戻しての「つねつねするぞよ」というセリフとか、
自分が子供だったらああいうおじちゃんは無条件に信頼してしまうなぁと思いました。笑

そんな場面があってからの、最後の花道。

馬を出す瞬間、それまで伏せていた目を、きりっと上げて前を見据える実盛。

もうここからは、一人の武士としての実盛です。

これまでの全てを含みこんで、自分がゆくゆくはあの子供に討たれるのだという未来も胸にありつつ、救えなかった小万のことも思いつつ、実盛は生きてゆくのでしょう。

実盛の人間として、武士としての凛々しさ、格好良さが、あの目に全て表れているようで、やられました。


■まとめ


先述しましたが、「実盛物語」は純粋にいい話なんですよね。
誰も悪くないんです(告げ口する矢走仁惣太片岡仁三郎さん)は別として)。だから、一人ひとりにとても感情移入してしまうし、胸を打たれるのです。

初見で好きだなぁと思った話をこうして別の配役で観られて、新たな感動を得られるのは、歌舞伎のとても好きなところ。
平成中村座と違って今回は気軽に幕見に行けてしまうので、おかわりの誘惑に打ち克てるかが今月の課題となりそうです。笑

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