6月の歌舞伎座、昼の部の締めは「恋飛脚大和往来(こいびきゃく やまとおうらい)」。「封印切(ふういんぎり)」と呼ばれる場面です。
上方の香りがしてくる一幕。
楽しく観ていたら、知らず知らずのうちに取り返しのつかないことになっていて、見事に引き込まれました。
片岡仁左衛門さんの亀屋忠兵衛。
ふんわりとしていて、間違いなくいい男なんだけど憎めなくて、最後のおそろしい緊張感にやられました。。
今月の絵看板。上から主人公・忠兵衛、恋仲の傾城・梅川、恋敵・八右衛門。
聞き取りやすい、現代とそう変わらない言葉で進むので、ストーリーも掴めると思います。
笑いどころ多く、テンポも良く。おすすめしたい一幕です!!
封印を切るに至る心理、何だか分からなくもないな…と思わせる説得力。
封印を切るに至る心理、何だか分からなくもないな…と思わせる説得力。
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総じて分かりやすいですが、強いて言うならざっと以下のことが分かっていると良いかもしれません↓
・主人公・忠兵衛は飛脚問屋。荷物やお金を運ぶのがお仕事。
・大切な荷物の封には印が押してあって、これを勝手に破るのは超重罪。
・傾城・梅川の身請をめぐり、八右衛門と忠兵衛が張り合っている。(梅川は圧倒的に忠兵衛が好き。)
■私はこう見た!ここが好き!
いやもう、何せテンポがいいので初っ端から引き込まれてしまうんですよ。
忠兵衛(仁左衛門さん)のいい男ぶりはもう花道から匂い立つよう。
「いい男」といっても強そうでは全くなくて、むしろ頼りなさそうな、憎めないかわいらしさがあるというか、「ほっとけない」感じでしょうか。
それを迎える女将のおえん(片岡秀太郎さん)の軽口も楽しい!
ふわっとしていて、手慣れた感じで、そっと笑わせてくれます。
下駄の音も心地よいです!
下駄の音も心地よいです!
おえんと忠兵衛のやりとり、いいですねぇ。
忠兵衛も来慣れているのがよく分かるくらい、二人の間のぽんぽん投げ合う会話が調子良くて好きです。
梅川(片岡孝太郎さん)との二人の逢瀬の場面、これもまた二人の間に流れる空気がとても良くて、わざと冷たくする忠兵衛もかわいらしい。
そんな楽しい場面なのですが、きまって形を見せるところは美しいのです。こりゃ惚れるわ。。
八右衛門(片岡愛之助さん)とのやり合い、これは口だけでいったら八右衛門が強い!
勢いに飲まれます。まくし立てる八右衛門、見事に嫌なやつ!笑
勢いに飲まれます。まくし立てる八右衛門、見事に嫌なやつ!笑
でも周りはみんな忠兵衛推し。
だから別に忠さん、無茶しなくても良かったのに…と思ってしまいます。
いや、でもここ、本当にすごいなと思ったんですよ。
八右衛門と忠兵衛のやりとり、本当に他愛もないものなんです。
八右衛門の難癖なんて正直「子供か!」という感じだし、それにむきになる忠兵衛もまた「こいつもやっぱり頼り切れないんだよな~」と思わせてしまう。
そんな大人げないやりとりだったのに、気付くと忠兵衛が、どうしようもないところに追い込まれている。
顔面蒼白の忠兵衛の手元からばらばらと零れ落ちる金貨の輝き…えぐいです。。
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細かいところですが、忠兵衛が店を訪ねるとき、中で梅川が「畳算(たたみざん)」をしているんですね。
かんざしをとって、畳の上に落として、落ちたところから縁までの畳の目の数で占うものなんですが、
この振り、踊りに非常に良く出てくるのです。
実際にかんざしでやっているのを初めて見て、「これか!」となりました。
やっぱり歌舞伎を観ると、踊りへの理解が深まって嬉しい!
なくなってしまった風俗的なものを見られるのも、歌舞伎の好きなところです。
■まとめ
そのお言葉通りの舞台でした。
前半に力を抜いて観ていた分、忠兵衛が封印を切ってしまって血の気を失うところ、こちらも緊張で指先が冷たくなりました。笑
上方ならではであろう言葉のやり取りの面白みや勢い、柔らかさを存分に味わえるのも魅力です。
「石切梶原」で思いっきり時代物を堪能したあとにこれが待っているという、今月の昼の部の満足感たるや。
筋書にはこの二つの演目を比較した葛西聖司さんの文章も載っていて、とても興味深かったので、そちらもおすすめです!