ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

歌舞伎まわりの用語が基礎から分かった一冊『歌舞伎音楽入門』

Twitterでも何度か挙げた、先日見つけた本です。

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『歌舞伎音楽入門』(山田庄一、音楽之友社 昭和61年)

古書店での出会いだったので、
新刊書店で扱いがあるか分からないのですが、
 
何となく疑問に思っていたことがいろいろ解決した
ありがたい一冊でした。

***

この本のいいところは、
流れを俯瞰しながら理解できるところ。

歌舞伎の発生から現代に至るまでの大まかな流れや、
種々の音楽がどこに起源を持ち、どう発展したのかなど、
概観していけるので とても分かりやすかったです。

一つひとつ理解しながら進むと、
その場で調べた取って付けたような知識よりも身に付く感じがします。


歌舞伎を見始めたものの、
何となく分からないことがちょこちょこある。。

といった方や、

大まかに歌舞伎について知りたい!

という方にぜひおすすめしたい一冊です。


ちなみに私がこの本ですっきりしたのは…

*ふつうの会話っぽい芝居と聞き取りにくい芝居とあるのはどうして?
*今年10月の芸術祭『助六曲輪初花桜』は何で『助六由縁江戸桜』じゃないの?
*長唄、清元、常盤津って何が違うの?
*新内とか大薩摩とか、名前は時々聞くけどどんなもの?
*文楽の太夫と歌舞伎の竹本って違うの?

といったもやもや。 

こういうの、インターネットでも出てくると思うのですが、
なぜかこういうものを画面で読むのは億劫なんです。

多分、ネットの画面でパッと理解するような
情報量ではない
のでしょうね。

そういうときに、やっぱり本は重要だなと思いました。

じっくり時間をかけて、それなりの分量の情報を理解していく。

その作業に向いているのは、ネットよりも本なのだと思います。 

***

昭和61年の本ですが、古典芸能ということもあって
情報は古びていないと思います。

ただ、現代で憂えていることを当時から憂えていたのだな、とか

当時抱かれていた危機感を、今解決できないままなんだろうな、とか

そういう寂しさは感じました。

そして何より、

途中に出てくる女子高生の文章力が凄まじい。。

国立劇場で初めて歌舞伎を観た高一女子の感想文なのですが、
非常にしっかりとした日本語で綴られていました。
見習いたいものです。どうしたら高校生であんな品の良い文章を…
本筋とは全く関係のないところで
いたく感動してしまったのでした。。






歌舞伎役者の言葉に学ぶ、日本舞踊の「見る」振りのこと。

山を望むとか、
お花見をするとか月を眺めるとか、
周りの景色を見渡すとか。

日本舞踊には、「見る」振りがたくさんあるなぁと思います。

その見方もいろいろあって、
何かに気付くときの見方があれば、
物思いにふけってぼんやりと見ることもあり、
もちろん眺めを楽しむ見方もあり。

こんな記事をなぜ書き始めたかというと、
自分が今、「見る」振りで悪戦苦闘しているからです。。笑

そんな踊りの「見る」ことについて
複数の歌舞伎役者さんが同じようなことを言っていらして面白かったので、
半ば自分のためにまとめます!


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まず十代目・坂東三津五郎さん

『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』(長谷部浩 編、岩波現代文庫)の中で
以下のように述べていらっしゃいます。

「…たとえば富士山が出てきたときに、
もちろん踊り手には、富士山が見えていなければいけないわけです。
演者が見ていないと、お客さまには
絶対見ているように伝わりません。」(p.67)


さらに、その富士の大きさや場面がどんなものなのか、
振りをつけた人はどんな富士を見ていたのか。

自分の中に、そういうファイルをたくさん持っておくべきだ、というお話。

この他にも、『京鹿子娘道成寺』を踊るときに
実際に和歌山の道成寺を訪れてみて、
初めて分かったことのお話も興味深かったです。(p.81〜82)

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***

それから、四代目・市川猿之助さん

この本が好きすぎてしょっちゅうこのブログに登場するのですが(笑)
『舞うひと』(草刈民代、淡交社)の中にこんなお言葉がありました。

「たとえば『北州』という作品で、
待乳山という上野の山から下を望む所作があるんです。
普通「山から下を望む」というと下を見るけれど、
実際の待乳山はとても低いから、
下というよりも遠くをみるような振りになるわけです。
(中略)
ですから、その山を知っているかどうかで表現が変わる。…」(p.176)

やはり、踊る上で実際の景色や風俗を知っていることの重要性
説いていらっしゃいました。

***

「見る」ことに限定した話ではなくなってきますが、
同じ『舞うひと』の中で
五代目・尾上菊之助さんがおっしゃることも
本質は同じだと思っています。

「…そこにいる女性は若いのか年増なのか、
「散りかかる」花はどんな花なのか……
膨大な情報が「散りかかるようで」の振りにこめられているんです。」(p.74)


やはり、踊りながら実際の景色を「見て」いらっしゃる

この「膨大な情報」を振りにこめるには、
そもそも年増って何歳くらいなの?とか、
その花がどの花だったらどうするの?とか、
前提となる知識が必要不可欠なんですよね。


舞うひと 草刈民代×古典芸能のトップランナーたち [ 草刈民代 ]

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***

「見る」振り(に限らず全てにわたって言えることですが)に重要なのは、
知識想像力だということが何となく見えてきました。

その時代に見えていた景色や、文化、人々の動作…

そういうものの知識を、少しずつつけていきたい。

さもないと、想像するにもできないのです。

踊りの舞台となるどこかに行ってみるでもよし、
江戸の文化をもっと学んでみるもよし。

でも、そう思うと日常の全ての動作が
踊りの糧になる
ような気がしてきます。

自分がこういうものを眺めるとき、どんな感じだろう。
どんな景色を見てきただろう。

一つ一つの経験や、何気ない一瞬も、学びになりそう。

と言ったところで、
私が立ち止まっているのはもっと初歩的・技術的な問題だったのですが笑
(「レベルが違う」どころではないほど違いすぎて解決せず)

いつかは!いつかは上手くなりたいから!!
今から意識するに越したことはないんですってば!!笑

お三方のお言葉を胸に、お稽古頑張ります。


 

歌舞伎座横の古本屋さん『木挽堂書店』で探していた本に出会えた!!

幕見のあと、次の予定まで時間があったので、
近くに古本屋さんでもないかしら…と探してみたところ、
 
歌舞伎座の横に「木挽堂書店」というところがある、との情報をキャッチ。

なんでも歌舞伎をはじめとする伝統芸能や、
日本映画などの専門古書店
なのだとか。

ちょうど探していた本もあったので、
行ってみることにしました!

***

歌舞伎座を出て左(歌舞伎座正面から見て右)の、
お稲荷さんと文明堂に挟まれた通りを振り返ると、

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奥に見えているのが「茜屋珈琲店」。
手前の赤いお店は美容室。 

その間、緑の看板のビルのお2階に、

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見えました!

コーヒー屋さんの横の階段には、

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歌舞伎の本がたくさんあるだろうな、と
思わずわくわくしてきてしまう看板。

階段を上ると、
所狭しと本が積み上がった空間が…!!!

完全に通路に本が食い込んでいる勢い。

入って右手には、歌舞伎関係の小説や聞書、解説などの文庫本、
左にはムック本や過去の筋書など。
ブロマイドもたくさんありました。

少し進むと、役者が芸について語った本も並びます。
写真集や台本も豊富。

奥の方には、邦楽関連の本もあるそうです。

専門古書店というだけあって、
そのラインナップは広く深い

私は知識が浅いので、まだピンとこない本もたくさんあったのですが、

これで知っている役者さん、ひいきの役者さんが増えたり
伝統芸能について もっと詳しくなったりした日には
とんでもない量のお宝が眠っているのだろう、と

入店まもなく次に来る日が待ち遠しくなりました。

***

本当にどこを向いても興味をそそる本しかない、という
本でできた隠れ家のような、
自分の芸を持っている方たちが一斉に語りかけてくるみたいな
とにかく物凄いお店。

読みたかったこの本も…

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見つかりました〜!!!感激!
(ア●ゾンよりも安く入手!)
精進します!!!

そんなわけで、

歌舞伎座に来たときの楽しみが増えました。

ぜひ。






京の芸舞妓さんに学ぶ、社会での生き方。『舞妓の言葉』感想

舞妓さんの着物姿の美しさが好きで、
可愛らしい写真のたくさん載っているこの本を手に取りました。

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『舞妓の言葉 京都花街、人育ての極意
(西尾久美子、東洋経済新報社)


舞妓さんたちが、修行を始めたばかりの「仕込みさん」から
舞妓として成長していき、
芸のプロフェッショナルである芸妓となっていく過程で、

先輩の芸舞妓さんや周囲の人からかけてもらう言葉、
自分自身を律していく言葉など、

成長のカギになってくる言葉が紹介されています。

耳に柔らかい京ことばで語られるそれぞれの言葉には、

舞妓の世界だけでなく、私が社会人になってから
初めて気づかされたようなこと
もたくさん。


頭でっかちにならずに謙虚に行動すること、

ミスをしても隠さずに報告すること、

周りを見ながら何が必要かを考えて動くこと、、


それを10代半ばから後半くらいの女の子たちが
当たり前のように身につけ、実践し、
後輩に指導までしているのですから、

花街の教育システムは凄いと思いますし、
吸収していく彼女たちの熱意にも頭が下がります。 

***

一番印象に残って、自分も心がけている言葉を一つ。

「どんなことがあっても、
お稽古休んだらあかんのえ」

見習いさんから舞妓としてデビューするころに、
お茶屋のお母さんからかけられたという言葉です。

プロになったら、夜遅くまで仕事があって、
朝からのお稽古は体が辛く、休みたくなる。

けれどそれでは、自分の力が伸びないだけではなく
周りからの信用まで失ってしまう。

だから、お稽古を休む口実を探し出してはならない、
多少の体調不良はおしてもお稽古に行く。

…という意味に加え、

先輩たちのお稽古に常に触れることで
自分の目標を意識し続ける、という
お稽古場ならではの成長機会も意図しているとのことです。(p.48〜50)
 
***

この言葉に触れてから、私自身も今まで以上に
お稽古を休まない、ということを意識し出した気がします。

自分はあくまで趣味で踊りを習っているのにすぎないのですが、
いつかもっと上手くなって、
今よりも踊る機会を増やしたい。 

そうなったときに、常に絶好調なんてことはあり得ない。

そのため、体調が万全ではなくても
踊れるようにしておきたいと思っています。

舞妓さんにかけられる言葉とは 少し意図が変わりますが、
お稽古場に行けば、そこに常に目標があるのは同じ。 

えいやっ!と思って一度お稽古に行ってみてしまえば、
もうそこはモチベーションの塊で、

後悔は絶対にしないのです。 

この本を読んでから、
お稽古をうやむやにサボりそうになるときは
「どんなことがあってもお稽古休んだらあかん!!!」 
と自分に言い聞かせるようになりました。笑 

***

すでに社会に出ている自分も はっとさせられる言葉がたくさんの一冊。

加えて、何より写真が素晴らしく美しいので
わくわくしながらページをめくり、眺め暮らしました。

着物好きの方、京都好きの方、
ぜひお手に取ってみてください。

 

舞妓の言葉 京都花街、人育ての極意 [ 西尾久美子 ]

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竹本住大夫さんの言葉が深い。。『人間、やっぱり情でんなぁ』を読む。

9月の文楽公演を観に行くにあたり、
文楽まわりのことをもっと知りたいな、と思って
この本を手に取りました。

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『人間、やっぱり情でんなぁ』


平成26年に大夫を引退され、今年4月に亡くなった
“文楽の鬼”こと竹本住大夫さんが、
文楽人生を語ったのを、聞き書きでまとめた本です。

住大夫さんの長い文楽人生には
ぐっとくる言葉がたくさんありました。

人間、やっぱり情でんなぁ (文春文庫) [ 竹本 住大夫 ]

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■三味線、人形への信頼と絆


印象に残った言葉↓
 
「六十八年、人形たちは私のつたない語りで、
泣いたり笑ったり、生きたり死んだり……
いつでも頑張ってよう動いてくれました。」(p.28)

「大夫にとって三味線は道案内役です。
へばってきたら鞭を入れ、
行き急いだときはブレーキを掛ける。
そうして暗がりを懐中電灯で照らすように、
『ここに来なはれ、ここに来なはれ』と少し先を弾きます。」(p.167)

大夫、三味線、人形の三業の絆というか、
切っても切れない関係というか、
とにかく文楽の舞台を創っていく方々のかっこよさを感じた部分でした。

人形がいて、三味線がいて、大夫がいて、
初めて文楽は成り立つ、という一見当たり前のようなことを
大切に、感謝して、「当たり前」で終わらせない

人間国宝でいらっしゃいながらなんと謙虚な、とも思いますが、

長年やっていらっしゃったからこそ
出てくるお言葉なのかもしれません。

 

■引退に際して〜周りの反応


長年苦楽を共にしてきた、三味線さんや人形さん。
引退を伝えたときには、皆さん泣いてしまったそうです。

「淋しい」と三度言ったきり、
電話口で泣き出してしまった吉田簑助さん

泣いて体調を崩して、
あくる日の公演を休んでしまった鶴澤寛治さん

先ほどの「三業の絆」みたいなものを感じたあとだと
なおさらこの話は泣けてきてしまいます。


■68年間、基本に忠実に。


小さい頃から文楽に親しみ、
小学四年生からお父様(六世住大夫さん)に
文楽を習い始めたとのことですが、

なまじ早くからやっていたために
プロを目指しての正式な入門のあとに言われたという言葉は痛烈でした。

「あんたの浄瑠璃は汚れた半紙や」

中途半端に知っているために、
まっさらな状態から学ぶことが難しいし、
教える方も教えにくい。

つまり「墨を落としても染まらない」という意味で
言われた言葉だそうです。(p.68〜70)

なんか…私のような砂つぶほどの人間にも刺さる

それから68年間、
「とにかく基本に忠実に、素直に語ること」
ずっと心がけていらしたとのこと。

それは若い世代へ向けた
「ヘタが上手ぶってやるな、素直にやれ」(p.192)
という言葉にも通じるものがあります。 

なんか…刺さる…(2回目)
何のお稽古でも同じですね、
すぐ調子に乗る私自身のことを言われているようでどっきりしました。

「永遠の素人」精神はいつまでも忘れないようにしたい。


■現代の稽古について


これは以前ご紹介した『舞うひと』(⇒この記事)でも触れていましたが、
やはりここ15年くらいで
若者たちのハングリー精神が欠けてきたそうです。

浄瑠璃が好きじゃないのか。
好きなら好きで、もっと好きに、もっと必死になれないのか。

住大夫さんのもどかしさが、
いたるところに語られていました。

経済的な余裕、便利なツールの普及…

稽古に対して甘くなってきてしまう理由なら
いくらでも挙げられます。

生活が便利になる一方で、文化が育たなくなってしまう。

恐ろしいことですね。。

自分自身が「現代っ子」であるがゆえに、
自分でも気づかないまま甘えていることも
山ほどあるのだと思います。

私のお稽古は趣味レベルですが、
それでも真剣に取り組みたい。
できる限り自分を律していこうと思いました。


■何度も読み返したい一冊でした。


長々と語ってしまいましたが…

全編にわたって、住大夫さんの大阪弁が心地よい
くすっとくるようなお話もたくさんありました。

(海外公演の話なんかは特に。
「醜女(=ぶさいく)」の人形を
アメリカでは「チャーミング」と捉えられてしまい、
話が通じなかったので翌日からは人形を変えた話とか大好き)

まだまだ文楽に詳しくない状態で読んでしまいましたが
芸事を学ぶ端くれの端くれとして
はっとさせられることも多々。

もっともっと文楽を知りたい。
文楽を観に行きたい。

今よりも文楽の知識を増やしてから
何度でも再読したい一冊です。


…きっと読むたびに、
住大夫さんの浄瑠璃を生で聴けなかったのを
悔やむ気持ちが強まるんだろうなぁ。

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プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇5年目。このご時世でなかなか劇場に通えず悶々とする日々。
◆着物好きの友人と踊りの師匠のおかげで、気軽に着物を着られるようになってきた今日この頃。

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