ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

にっぽん文楽

にっぽん文楽「小鍛冶」初心者はこう楽しんだ!〜にっぽん文楽in明治神宮 感想

にっぽん文楽、二度目の鑑賞!
千穐楽の最終公演です。
夜の森に浮かび上がる舞台。

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今回は何と、何と、一番前の席が取れました!!!

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この!この距離感!!!
檜の香りがします…!!!

どうしよう、私なんぞが勘十郎さんをこんなに近くで拝見してしまって良いのだろうか、とよく分からない緊張感の中で幕を開けた、千穐楽の「小鍛冶(こかじ)の様子をレポートします。

 



1.「小鍛冶」初心者でも楽しめたのか?


楽しめました!

とは言え、想像のつきにくい神秘的な話だし、舞踊の要素が強いので、筋を耳だけで理解するのは厳しいかもしれません。
(ちなみにですが、床本はこちらから見られます。) 

剣を打て、という勅令が下ったが、良き相鎚(あいづち、鉄を一緒に鍛える相方)がいないという宗近の神頼みを受けて、稲荷明神が狐の姿で現れて相鎚を務め、無事に立派な剣を献上できた、という話。

この狐の動きが胸の透くようで爽快でした。
後述しますが、鉄を打つところの音も楽しかった!


2.「小鍛冶」感想


最初に出てくるのは宗近(人形:吉田玉助さん、太夫:豊竹希太夫さん)。
能が元になっているからか、きっちりと歩いて出てきてきっちりと正面を向き、名乗ります。
 
剣を打つよう勅命を受けたが、腕のあるいい相鎚がいないという宗近。
どうしたものか、と氏神である稲荷明神へ神頼みしたところへ、老翁(人形:桐竹勘十郎さん、太夫:豊竹呂太夫さん)が出てきます。

これは実は、稲荷明神。
剣というものの由来を語ると、宗近に「壇を飾って待てば、力添えをする」と告げるのでした。 

この老翁、語り始める前に左右の襟元をなぞって整える仕草がとても格好いい
最後にぐぐっと力が入るのです。
一番前なので、このあたりの細かい力の入りようがよく見えて感動ものです! 
語りが盛り上がるところも、勢いがありました。

さて、老翁の言う通りに首尾を調え、「力を合せてたび給へ」と懸命に祈願する宗近。

一心不乱に祈る姿、何だか「夜の神社」というシチュエーションに絶妙に合いますね!
屋外でやる楽しみを味わいました。

そして!ここに登場するのが狐姿の稲荷明神。
「春興鏡獅子」のような、白のふさふさの毛を付けています。

参考:いらすとやの「連獅子」イラスト→renjishi_white
 
手はちゃんと狐手になっていました!人形の狐手、小さくてなんだかかわいい!!
(狐手については、一瞬だけこの記事に出てきます。指先を丸めて手首を反らせる独特の手なのです。) 

この狐の踊り、とにかくダイナミックで凄い迫力でした!
舞台に巻き起こっている風がこっちにも流れてきそうなほど。
 
舞台狭しと大きく動き、力を遺憾なく発揮する狐姿の稲荷明神。
細かい首の動きのキレとか、歌舞伎の女形さながらに反るところとか、見所たっぷり!!
踏ん張ったり飛んだり、足の表情もおもしろかったです!
人形遣いさんたちもすごい運動量…! 

そして狐は、宗近の相鎚を務め、一緒に刀を鍛えていきます。

この場面、本当に人形が鉄を打つ音を出しているようです。 
鎚で叩くカンカンという音に、鼓の音が重なります。
小気味良く、軽快なリズムで響く音が楽しい!
一人で観ていたら体を揺らしてノリノリになってしまったに違いない。笑

囃子は中で演奏しているため、屋外だと響きづらいのですが、今回は舞台にとても近い席だったので、よくよく音を味わえました。

一度剣を鍛えたあとに、でき具合をじっくり眺めて、「まだまだ!」と首を振る狐の様子もなんだかかわいい。笑

こうして無事に立派な剣が出来上がり、狐が雲に飛び移る様子を見せて幕になります。

とにかく狐が動きに動く!
筋があまり分からなくても、この狐を観ているだけでも十分に楽しめそうなくらいです。


3.まとめ


このブログでも何度も書いていますが、私が初めて観た文楽で衝撃を受けたのが、勘十郎さんの遣っていらっしゃった人形でした。この記事

その勘十郎さんを、こんなに近くで拝見できる喜びたるや。
立ち見でも十分な近さではありましたが、チケットを取ってよかったと心から思っています。

***

今回一番感じたのは、「人形ってこんなに踊るのか!」というところ。

これまでも人形が踊るのは観ているのですが(「団子売」「三番叟」など)、今回一番「踊る体」を感じたように思います。 
リアルだったかと言われれば必ずしもそうではないのですが、体の動きの面白さ、舞台の空気をいっぱいに動かす力を見た気がします。 

撮影可能の公演でしたが、一瞬でも目を離すのがもったいなくて、とてもカメラなど構えられたものではありませんでしたよ…!

やっとの思いで撮ったカーテンコールは、光の関係で色が飛んでしまって何が何やら。笑

「太夫さん三味線さんです、どうぞ!」の稲荷明神(右端の人形)。左手にご注目。

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皆様お揃いで。

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最後は手を振ってくださいました。
人形も手を振ってくれました…
欲を言えば女の子の人形にも手を振ってもらいたかった

***

花粉の季節であり、寒いのか暖かいのか予測もつかず、雨の心配もあって、屋外の公演はなかなか障壁が多いと思います。

しかし、飲食が自由だったり、周りの空気も含めて物語を味わえたりと、屋外だからこその楽しみ方もありました。
チケット1,000円、無料の立ち見席あり、という料金設定も素晴らしくありがたい。

「にっぽん文楽」は今回が第7回とのこと。
ぜひこれからも続けていっていただきたいです。
次は友人にも声をかけたい!

にっぽん文楽「日高川入相花王」初心者はこう楽しんだ!〜にっぽん文楽in明治神宮 感想

始まりました、にっぽん文楽in明治神宮!!

過去何度かやっていたのを行き損ねていたので、楽しみにしておりました。

まずは一発目、「日高川入会花王(ひだかがわいりあいざくら) 渡し場の段」から。
会場への行き方や雰囲気も含めてレポートします!



1.にっぽん文楽・会場の様子


原宿駅・表参道口または明治神宮駅を出て、道沿いに右に回り込みます。
すぐに見えてくる「神宮橋」をそのまま渡れば、もう会場です!

こちらは神宮橋のあたりから撮った一枚。

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数日でこの舞台を完成させるのはすごいですよね!

さて、有料の座席は、3人がけのベンチが3つ横に連なったのが、左右2ブロック。確か前後は7列程度だったかと思います。
今日座ったのは前から4列目くらい。舞台も床もとっても近いです!

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よく見ると、舞台の上には「にっぽん文楽」の文字が!

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右手奥には、明治神宮の鳥居が見えます。

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み、見えますか…??笑

お土産やさんやお酒売り場は、床の右側
今回は覗きませんでしたが、お酒を飲みながらの観劇の方もたくさんいらっしゃいました。
寒い日は温かい甘酒なんかいいですね~。

***

お手洗いは会場外です。
再入場には半券が必須なので、なくさないようにお気を付けください!

このお手洗いが地味に遠くてですね、私は鳥居の右の通りをまっすぐ行った左側のところを使ったのですが、急いで歩いて片道5分、普通に行けば8分くらい。

劇場のように「直前に行けばいいや」ができません!ご注意を!

***

客席に屋根はありません。
冬だからとうっかりしていたのですが、晴れの日は焼けます
そして、晴れの日は舞台を見るのが眩しいです!!


2.「日高川入相花王」初心者でも楽しめたのか?


楽しめます!

この場面だけであれば物語はいたってシンプルで、
「好きな男を追ってきた女が、男に拒まれ、嫉妬のあまり鬼形の蛇体となって川を渡り、男をさらに追っていく」
ということが分かっていれば大丈夫かと思います。

男に「追ってくる女を舟に乗せないように」と言い含められた船頭が、女・清姫を渡すのを拒む。
間接的に男に拒まれた清姫は嫉妬に狂い、蛇になってまで後を追う、という話。

「ガブ」といって姫の顔が一瞬で鬼の顔になる演出が見せ場で、視覚的にとてもインパクトが強く、通りすがりの立ち見でも「おぉっ!」となると思います。


3.「日高川入相花王」感想


「安珍さまいのう」という清姫(人形:吉田勘彌さん、太夫:豊竹呂勢太夫さん)の、初っ端の詞。
このときの清姫にはまだ、一人の恋する女の子、という雰囲気が感じられます。
「男(安珍)を追ってくる」という時点でかなり重くて危なっかしい女ではありますが、その中に純粋な恋心があるように思えるのです。

しかし船頭(人形:吉田簑紫郎さん、太夫:豊竹睦太夫さん)の話す内容をじっと聞いたあと、だんだん言動に怒りと恨みが滲み始めます。
肩脱(かたぬぎ、片方の袖を脱いで「役の性格や心理の変化を表す」演出(「歌舞伎事典」昭和58年、平凡社))になって、足元を流れる川を覗きこんだあたりから、どんどん不穏な気配が漂い始めます。
 
それもそのはず、覗きこんだ川面に映る姿はもう蛇になっているのです。 

満月の夜、川面に映った自分の姿が蛇になっている…なんと不気味な。
そしてそれほど動じない清姫がまた恐ろしい。

「取り殺さいでおかうか」(取り殺さないでおかれようか) という清姫の詞、あぁもう彼女は完全にあちらの世界に行ってしまった…と。

清姫が川に飛びこんだあたりから、いよいよ見せ場です。
日高川の波がざんぶざんぶと荒れます。
その波間に見え隠れする清姫…

かと思いきや、また波に隠されてからぱっと見えた姿が蛇体の鬼になっているのです!

川を渡り終え、向こう岸に上がるときは清姫の姿。
よろついて柳の木に掴まり、ラストはまたガツンと鬼の形相になって終わります。

怖ぁ。。

公演が始まる前の解説で、豊竹咲寿太夫さんが「ダークファンタジー」とおっしゃっていましたが、全くもってその通りですね。。


4.まとめ


「山の端にさし昇る隈なき夜半の月影」「足元の明(あか)い内とっとと去(い)ね」というのが聞こえてきたので、まだ明るさの残っている日暮れ時が舞台なのでしょう。(床本はこちらで見られます。 )
せっかく屋外での公演なので、設定と時間帯を合わせて観てみると、また雰囲気が出ていいのかなぁと思いました。

夜の闇が迫り、だんだんと暗くなっていく中で浮かび上がる鬼の顔…

文楽を見慣れてくると、お人形を見て「かわいい!」としか思えなくなるのですが、子供の頃ってあのお人形、少し怖かったと思うのです。
その人形の持つ独特の不気味さというのが、夜だと浮かび上がってきそう。

劇場の音空間の中で味わうのも大好きですが、屋外でどこまでも広がっていく音もまたかっこいいですね。
晴天の下の浄瑠璃、何だか爽やかで、しゃんとしました。

青空文楽、楽しいです!
 
プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇5年目。このご時世でなかなか劇場に通えず悶々とする日々。
◆着物好きの友人と踊りの師匠のおかげで、気軽に着物を着られるようになってきた今日この頃。

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