観てきました!
三谷幸喜監督の新作歌舞伎「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち!!

もうこれは新作なので、初心者がどうとか関係ないかなぁと思い、純粋に感想だけ。

ネタバレできないので、何とも難しいところですが…

伊勢から江戸に向かう途中、大嵐で遭難した商船・神昌丸。
大黒屋光太夫をはじめとする乗組員たちは、やっとの思いで陸地に到着するも、そこはロシアという、遠い異国でした。
故郷日本に帰ることだけを一途に思い、懸命に生きていく彼らの様子を描く物語です。

何が歌舞伎か歌舞伎じゃないか、仕上がりとしてどうなのか。
新作っていろいろ意見が割れると思うのですが、私はたくさん笑ったし、心に刺さっている場面がいくつもあります。

IMG_20190615_102546
今月いろんな場所に掲示されているこのポスター。
まさかこれが歌舞伎のポスターだとは…。笑
 


開演前〜プロローグ


開演前に、すでに幕が開いて舞台が出来上がっています
その演出がもう新鮮!

ただし、いつもの気持ちでお写真を撮れてしまいそうな雰囲気なので、撮影禁止というところだけここにも書いておきますね。

あと、松也さんファンの方はぜひ松也さんへの質問をご用意の上、プロローグにご参戦を!!

尾上松也先生が、楽しく劇場と物語の橋渡しをしてくれます。


一幕目


一幕目は、光太夫たちの航海の様子と、流れ着いた島での生活を描きます。

船頭・大黒屋光太夫松本幸四郎さん)、船親司・三五郎松本白鸚さん)はじめ、17人の乗組員。
顔覚えの悪い私としては「どうしようついていけるかしら(*_*)」となりましたが、大丈夫です
どうして大丈夫なのかあまり言いたくありませんが、とりあえず大丈夫です。 

普段歌舞伎で観るような感じではない、現代劇のようなお芝居。
みなさん生き生きと楽しい!

新蔵片岡愛之助さん)と庄蔵市川猿之助さん)は際立って船内を乱すキャラクターなのですが、その曲者二人が率先して見せる気遣いがいい
二人とも分かりやすく優しくはないんですよ。これ、三幕目までそうなんですが。
 
それから、若き船乗り・藤蔵中村鶴松さん)に泣かされました。
純粋で真っ直ぐな笑顔の、気の利く青年。
その溌剌とした明るさがあるからこそ、同年の磯吉市川染五郎さん)に見せる本心が刺さります
リアルタイムでは観ていないのですが、当時の新作だった「野田版 鼠小僧」(この記事)でも鶴松さんには泣かされてるんです。。

あと個人的にツボだったのは、九右衛門坂東彌十郎さん)の目の良さですね。笑
一瞬のシーンで、何気ないので聞き逃しがちですが、大好きです。 

笑えるっていいなぁ。 


二幕目


寒さ厳しいロシアを転々としながら、故郷へ帰る手だてを探す厳しい日々が描かれます。

笑い要素もかなり多く、一人観劇でしたが心置き無く笑いました! 

役者さんたちの芸の見せどころ、という印象でした。
特に光太夫幸四郎さん)・磯吉染五郎さん)の親子芸はさすがテンポが抜群に楽しい。笑 
九右衛門彌十郎さん)の頑固じじい具合も良かったです。


物語は竹本が語ります
いつもと違って非常に聞き取りやすいです。笑

途中、竹本ならではの演出が入ります。
ネタのように使われたのかと思いきや、これがじわじわと効いてくるんです。。

勘太郎市川弘太郎さん)にスポットが当たる場面。
生きて故郷に帰るために選択しなくてはならないことと、どうしても受け入れられないこととのせめぎ合いを、太棹が煽ります。

竹本に関して言えば、幕が開いた直後の出方がかっこいいのでぜひご注目を!

それから音楽面、光太夫が黒御簾の音に合わせてセリフを言うところがあるのですが、これもまた楽しかったです。
歌舞伎音楽の自由な使い方。笑

歌舞伎の演出の使い方としては、すっぽんをそう使うのか、というのも興味深かった
歌舞伎の舞台って、仕掛けがとても多いんだなぁということを再認識させられます。
いろんな可能性があったんだな、と。 


後半に市川高麗蔵さん澤村宗之助さん片岡千次郎さんのお三方によるロシア語だけの場面があるのですが、あれは意味が分からずともロシア語の勢いを楽しむのが一番だと思います!!笑 
ロシア語、このためにみなさん覚えたんですねぇ…役者さんはすごい。 


さて、散々笑わされる二幕目ですが、決して楽しいだけの幕ではありません。

先ほど触れた竹本の場面がまず一つ。

それから泣かされたのは庄蔵猿之助さん)。
二幕目の最後の庄蔵の叫びには、遠い地で翻弄される悔しさが詰まっていて、こっちも叫びたかった。

苦すぎる別れが続く中で、小市市川男女蔵さん)は強いですね。
彼がなぜ強いかというと、その場その場を柔軟に受け入れられるからです。
光太夫も「小市はいつも楽しそうだ」と。
こうなってしまった責任を抱える船頭としては、願っても叶わない境地なんでしょう。


三幕目~エピローグ


いよいよ帰国の望みが見えてくる場面。
と同時に、最も悲痛な場面。
さらに言えば、衣装が最も絢爛な場面。笑 マリアンナ坂東新悟さん、ロシア女性の拵えが馴染みすぎて。。
 

ここでお待ちかね、キリル・ラックスマン八嶋智人さん)の登場です!
屋号は「トリビ屋」さんです。細工が細かい。

八嶋さん、「舞台は友達」感がすごかったです。
空気を持っていく力が抜群!あっという間に舞台の勢いが変わります
光太夫一行が呆気に取られるのも半ば素なのではないかというくらい。笑

このラックスマンとの出会いが、光太夫たちの道を開きます。

彼のお陰で叶った、エカテリーナ猿之助さん)との謁見。
彼女がついに、日本への船を用意してくれるのです。

この場面はエカテリーナの衣装がまぁ絢爛ですごいので、ぜひご注目を。
その前にこの人さっきまで庄蔵だった人ですよね。笑

そしてポチョムキン白鸚さん)がさすがの貫禄です。
厳格で堂々としたお偉方、という感じ。


こうして道は開けたのですが、ここに来るまでにいかんせん時間がかかりすぎた。

すでにそのときには、「全員で帰る」ということは不可能になっていたのです。

ずっと個人主義者だった新蔵愛之助さん)の、身を呈した決断。
庄蔵猿之助さん)の絶叫。

庄蔵、新蔵、光太夫の三人のシーンは、最も「歌舞伎らしい」と思いました。
後から筋書を読み返したら、それもそのはずで、三谷さんは原作のこの場面があったから「歌舞伎にしたい」と思ったそうです。(p.46)
観劇から数日経った今思い出しても、胸が締め付けられます。


結局無事に日本に帰る船に乗ることができたのはほんのわずか。
いえ、でも光太夫は最後まで船頭です。

一番最後に見える景色。
観ている方もこれで、やっと日本に帰って来ることができるんですね。


まとめ


新作を観て思うのが、古典として上演され続けている名作は、いろんな物語の種を含んでいるんだなぁということ。

今回の三谷かぶきにも、今までに観た演目が香るところがありました。

どこまでを「歌舞伎」と呼べるのか、私にはいまいち定かでないのですが、
歌舞伎がそういうネタを持っている、そして音楽や演出の工夫もいろいろ持っている演劇であることは、新しいものを作り続けていく上でとても貴重だなぁと思います。


演劇でも本でも何でもそうですが、一場面でも、一言でも何かが心に留まっていれば、それはそのとき出会うべきものだったんだと思っています。

その意味において、三谷かぶきは私にとって、間違いなく良い観劇経験でした。