平成の終わりも終わりに歌舞伎にはまった者としては、果たして背伸びにならないだろうかという不安もありましたが、
めちゃくちゃ面白かった。
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この本に出てくるのは、私にとっては生の舞台を拝見することができなかった方々ばかりです。
他の本を読んだり、過去の映像を観たりする中で、ほんの少し家系図や芸の伝承の流れが分かってきたからこそ理解できる部分が大きく、
「これから歌舞伎を観よう」という方にとっては正直何が何やらかもしれません。
たぶん去年の自分じゃ分からないことだらけだったと思いますし、この先もっと歌舞伎を知ってから読んだら全然満足度が違うと思います。
でも、じゃあ初心者は読まない方がいいかというと、決してそういうわけではないと思う。
むしろ「これからずっぷり歌舞伎沼に浸かるぞ!」という勢いの初心者こそ、現状を掴むためにも読んでおくべき一冊な気がします。
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平成の間に出版された芸談(原則的に)を引用しながら、歌舞伎のあり方を見つめていく本です。
役者の一つの言葉を元に、その背景や、それにまつわるエピソードなどをまとめたエッセイが続く構成になっており、その数は43にもわたります。
エッセイ中に別の本から関連する発言が引かれたりもするので、実際に取り上げられている「芸談」の数は、この倍以上ではないでしょうか。
エッセイ中に別の本から関連する発言が引かれたりもするので、実際に取り上げられている「芸談」の数は、この倍以上ではないでしょうか。
芸談そのものの興味深さはもちろんのこと、膨大な冊数から言葉が引かれているので、初心者としては「歌舞伎をより深く知るためにどんな本があるのか」というガイドにもなると思います。
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芸談の貴重さは、私がここで語るべきことではありません。ただ読むべし!
矜恃と厳しさとがありありと浮かんでくる言葉やエピソードの数々には、ひたすら頭が下がります。
もちろんそれは、主になる役者さんだけではありません。
脇を固める方々のお話も、ものすごく深い。
やっぱり最初は主ばかりを観てしまいがちですが、見方が変わります。
主に注目できる、その上で感動できるのはなぜなのか、という話ですよね。
個人的に面白かったのは、一見何の関わりもないものの鑑賞が、「すべて芝居に通じて」(p.26)いるということ。
それは八代目三津五郎さんの多岐にわたる趣味であり、十代目三津五郎さんのお城であり、四代目猿之助さんの骨董であるわけなのですが、その形や有り様が、すべて芸に繋がっているのです。
それが「芸のためにああしようこうしよう」ではなく、ごく自然にそこから会得してしまうのがすごい。
ちなみに私、前日見た浮世絵の人の形がものすごくきまっていて、あぁ踊りってこれだよなぁと勝手に思ったのですが、
もちろんここで語られるのはそういう即物的な話じゃないんですよ。笑
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ビデオの技術が発達し、歌舞伎の興業そのものが増え、芸の伝承のあり方は随分と変わったようです。
それを憂えるのはそれこそ私のすることじゃない。
ただ、芸とは何なのか、これからどういう風に歌舞伎を楽しんでいけばいいのかという一つの指針を、この本から得られたなぁと思うのは確かです。
価格:820円 |