ほんのり*和もの好き

歌舞伎や文楽、日本舞踊、着物のことなど、肩肘張らない「和もの」の楽しみを、初心者の視点で語ります。

浅草

物知らずが行く歌舞伎#18〜新春浅草歌舞伎(令和2年浅草公会堂)今の知識と演目選び

この企画は、「知識が足りないから…」と歌舞伎への第一歩を踏み出せずにいる方の背中を押すべく、
歌舞伎歴2年の初心者が何をどのくらい知っていて、何を目的に観に行くのかをさらけ出す企画です。
初心者の無知っぷりと、この2年でちょっと学んだことを、背伸びせず、恥ずかしがらずにお伝えできればと思っています。


年末年始休みにつき、全力で更新しております。笑

新年はとにかく、いつも以上に歌舞伎公演が多い!
まだ遠征はしないワタクシ、専ら都内でしか観劇しませんが、今年は歌舞伎座に加え、新春浅草歌舞伎、国立劇場新春歌舞伎公演に足を運ぶ予定です。
(新橋演舞場は諦め。本日時点で1等以外は売切でした。「鈴ヶ森」と「め組」は観たかったのですが…)

今回は浅草公会堂で行われる「新春浅草歌舞伎」について、「こんな感じで観にいきますよ〜」というのをお伝えできればと思います。

ちなみに新春浅草歌舞伎は、若手の役者さんたちが主になって行われる公演です。
公演前に日替わりで役者さんがご挨拶される「お年玉」という大きなお楽しみがあるのが嬉しい!

新春を迎えた浅草の雰囲気が味わえるのも良いところです。

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写真は去年の浅草公会堂の様子。華やかですね〜!



■浅草公会堂 新春浅草歌舞伎の演目は?


令和2年の新春浅草歌舞伎、演目は以下の通りです。

【昼の部】
一.花の蘭平(はなのらんぺい)
二.菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
 寺子屋
三.茶壺(ちゃつぼ)

【夜の部】
一.絵本太功記(えほんたいこうき)
 尼ヶ崎閑居の場
二.仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
 祇園一力茶屋の場


■各演目について、現時点での知識


*そもそも知っている演目はあったのか?


【昼の部】


「寺子屋」は何度も観ている演目です。
直近では昨年の秀山祭、中村吉右衛門さんの名演が記憶に新しいところ。(この記事

「茶壺」も、映像で何度か観ています。楽しい舞踊の演目です!

「花の蘭平」は、歌舞伎「蘭平物狂」が元だろうとは思うのですが、この「蘭平物狂」が分からないんですよね。笑
 

【夜の部】

「尼ヶ崎閑居」も去年、歌舞伎座でかかりました。ちょうど一年前になるのですね!(この記事

「祇園一力茶屋」は、名前ばかり知っていて、とても有名なのも分かっているのですが、残念ながら内容が分かっておりません。。


*現時点で知っていることは?


◇菅原伝授手習鑑(寺子屋)


以前大まかにまとめたものを再掲します↓

------ 

「忠義のために我が子の命を犠牲にする」という、浄瑠璃に非常によく見られるお話の流れです。

ものすごくざっくり書きますと、

舞台は藤原時平(しへい)vs菅丞相(かんしょうじょう)という時代にあります。
時平側は菅丞相の息子・菅秀才(かんしゅうさい)の命を狙っており、これを避けるために菅秀才は田舎の寺子屋に匿われています。(※この辺りの設定は、特に芝居の中では触れられないはず。)

しかし実はこの居場所がすでにバレており、寺子屋を営む武部源蔵(たけべげんぞう)夫婦は、菅秀才の首を差し出すように命令されているのです。

何としても菅秀才の命は守らねばならない源蔵。

折しも今日、この寺子屋に新たに入門してきた男の子がいました。
ちょっとこの辺りでは見ないような、品のある顔立ちをしています。

そうです。
「菅秀才」と偽ってもおかしくないような雰囲気をたたえているわけです。
 
源蔵夫婦、苦渋の決断でこの子を身代わりにして、首を差し出すのです。

首実検にやってきたのは、時平に仕える松王丸。
差し出された首を見て(この「首実検」が見せ場!!)、子細ありげな様子を見せながらも「相違ない」と、この首が菅秀才の首であることを認めます。

しかし、歌舞伎において首が本物であることなんてほぼなく。笑

さてこの首の正体とは、松王丸の隠している真実とは、というところに大きなドラマがあります。

最後の「いろは送り」と呼ばれる部分が名文なので、ぜひ浄瑠璃にも耳を傾けてみてください。

【関連記事】
「団子売」「菅原伝授手習鑑」(文楽鑑賞教室@国立劇場)観てきました!
 「寺子屋」初心者はこう楽しんだ!〜秀山祭九月大歌舞伎(歌舞伎座) 夜の部感想
 

◇茶壺

狂言が元になっている、楽しい舞踊です。

主人の命で茶の買い付けに行ってきた田舎者の麻胡六は、酒に酔っ払い、あろうことか道端で居眠りを始めてしまいます。
そこにやってきた盗人の熊鷹太郎、この麻胡六の茶壺を盗もうと目論見ますが、そこに目代(代官)が通りがかり、この二人の茶壺の取り合いを仲裁し始めて…という流れ。

この麻胡六と熊鷹太郎のやり合いが面白い!
特に、後半の二人の連舞いが大きな見せ場です。リズムの良い踊りに観ていて楽しくなること請け合いです。


◇絵本太功記(尼ヶ崎閑居)

主君を殺してしまった武智光秀(=明智光秀)と、その運命に巻き込まれる家族たち、光秀の苦悩が描かれる場面です。
光秀は途中からの登場ですが、この場面における主人公は、光秀と言っていいと思います。

事前にこのくらい分かっておいたら楽かなぁ、というのを以前ちょこっと書いていたので、ちょっと編集しつつ再掲します↓

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まず物語の前提として、「武智光秀vs真柴久吉(=羽柴秀吉)という構図があり、
その原因となっているのは「光秀が主君である小田春永(=織田信長)を討った」ということ。
久吉は春永の仇を討つために、光秀を追っているのです。 

加えて最低限分かればいいのは、舞台に出てくる人々の人間関係かと思います。

皐月(母)
 |
光秀=操(妻)
  |
 十次郎(息子)=初菊(息子の許嫁)


という血縁関係です。

このうち、光秀以外の人が前半の物語を進めていきます。 

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織田信長と明智光秀、豊臣秀吉が名前を変えて登場するお芝居です(この場面に出てくるのは秀吉と光秀のみ)。
「直接名前を出せないのでちょっとひねりました」パターン、歌舞伎でよく見る気がします。

【関連記事】「絵本太功記」初心者はこう楽しんだ!~壽 新春大歌舞伎 夜の部感想


■観てみたい演目と気になるポイント


今年の大河ドラマは明智光秀とのこと、光秀が出てくる「絵本太功記」はタイムリーかもしれませんね!(先日「にっぽんの芸能」(番組についてはこの記事でも取り上げられていました。)

「忠臣蔵」も、有名な場面にも関わらず私は観たことがないので、本当は観ておきたいところ。

と言いつつ、
舞踊大好きな私がチケットを取ったのは昼の部でして。。

「茶壺」が楽しい舞踊だと知っていればもう、行かないわけにはいかないのです。笑
まして麻胡六と熊鷹太郎が中村歌昇さん坂東巳之助さんとあっては。巳之助さんの熊鷹太郎は特に楽しみです。

「花の蘭平」も舞踊とのこと。中村橋之助さんの踊り、じっくり拝見したことがなかったかと思うのでとても楽しみ。
橋之助さんは、今年の日本舞踊協会公演にもご出演ですね!(公式サイトはこちら

「寺子屋」は繰り返し観ていますが、何度も観て初めて役者さんの芸を味わえるようになっていくのかなぁと思います。
尾上松也さんの松王丸、きっと熱いんだろうなぁ。。


■まとめ


縁あって、浅草歌舞伎は歌舞伎に本格的にはまる前にも一度足を運んでいます。
まだ右も左も分からなかったのですが、役者さんの年始のご挨拶(「お年玉」)がとても面白く(その時のご担当は坂東巳之助さん)、演目も分かりやすく楽しくて、大満足で帰ってきたのでした。

そんなわけで、きっと新春浅草歌舞伎は親しみやすい公演なのではないかと思うのです。

年がら年中大混雑の浅草、年始はいつも以上にごった返していますが、それもまた風物詩の一つ。
なんとなくおめでたい気分になれるので不思議です。

と言って人混みは大の苦手なのですが。笑
今年も浅草の活気に身を委ねてこようと思います!



新春浅草歌舞伎2019 昼の部に行ってきました!〜初心者の感想〜

毎年恒例、若手の役者さんたちによる新春浅草歌舞伎。
広告からしてポップです。

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ぴんく!

浅草の仲見世の、雷門に向かって二本左、オレンジ通り沿いの突き当たりにある浅草公会堂。
大きな看板が出ていて、とても華やかです!

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観劇する人もしない人も、みなさんひっきりなしに記念撮影をしていました。
「スターの手形」もあって、ここだけでも見どころたくさんですね! 

さて、新春浅草歌舞伎、とても楽しい時間だったので、演目ごとに感想を振り返ってみたいと思います。

★関連記事⇒物知らずが行く歌舞伎#4〜新春浅草歌舞伎(浅草公会堂)今の知識と演目選び

 


0.お年玉<年始ご挨拶>


新春浅草歌舞伎では、開演前に出演者によるご挨拶の時間があります。
私の観劇した日の「お年玉」担当は、坂東巳之助さん
奇しくも初めての新春浅草歌舞伎と同じです。

この日も素敵なお声で、「第1部と第2部の入れ替えに30分しかないのはひとえに上演時間の計算ミスです」というお話。笑
計算ミスって…!(ちなみに終演後、すでに第2部のお客様が会場内にずらりと並んでいらっしゃいました。)

いつもはもっといろいろなお話をされるそうですが、今年はそんなわけで時間がなかったとのこと。

歌舞伎役者らしく朗々と挨拶が始まったと思ったら、さっとマイクを持って「えーとですね、」と話し始めるギャップが面白かった。笑


1.戻駕色相肩


ほとんどが、のどかな廓話を表す踊りです。
 
駕籠かきの浪花の次郎作中村歌昇さん、駕籠の後ろ側)と吾妻の与四郎中村種之助さん、駕籠の前側)が、乗せてきた禿たより中村梅丸さん)と絡みながら、廓の様子を語っていきます(あんまり内容は理解できていないのですが、三人がそれぞれの土地の廓話を語っていたようです)
 
途中で次郎作が女性の振りになり、一つの羽織を与四郎と二人で羽織って、一緒に三味線を弾くところが好きでした!
ちゃんと本物の三味線の音に合わせて動きます。高い音のところで与四郎がちょっとむきになる感じが楽しい。笑
そして禿の首の振り方とか、思いっきり膝を折って踊る感じとか、幼さがとてもかわいらしいです。

ところが、ふとした拍子に次郎作が巻物を、与四郎が香炉を落としたところから様子が激変
二人の正体が、この落し物で明らかになるのです。
実は与四郎は真柴久吉、そして次郎作は石川五右衛門。敵同士だったのでした。 
ここからはお互いが本性を出して、かっこいい立回りになっていきます。

のんびりとした雰囲気を楽しみつつ、最後のきりっとした空気は爽快でした。

それにしてもよく考えると禿、何の気もなく駕籠に乗っていたはずなのにこんな場面に出くわすなんて、災難ですね…。


2.源平布引滝 義賢最期


ちょっとストーリーが複雑ではありますが、主要登場人物(義賢、多田行綱とその妻小万、小万の父九郎助と子の太郎吉)は全員源氏方、というのが分かっていれば大丈夫です。
(義賢は表向き平家方なのですが、源義朝と血縁関係があるため、心の中は源氏再興を望んでいます。)
当然、途中で花道から攻めてくるのは平家方のみなさんになります。

これは迫力があって良かったです!!
あんな必死な立回りは初めて見ました、立回りってもっと「型」を見せるものだと思っておりました。
命の際の義賢尾上松也さん)、文字通り命がけの争いを見せます。

もう立回りの始まりからとても派手です。
金の襖を使って、大きな動きがたくさんあります。
 
中でも注目は戸板倒し。二枚立てた襖の上に一枚襖を渡して、その上に役者さん(今回は義賢)が立って乗ります。
|‾| ←こうなっている上に乗る、ということです。)
下の二枚の襖を支えている役者さんが手を離し、襖が倒れるのに任せて上に立っている役者さんがどーんと落ちるのですが、
これがとにかくものすごい迫力!客席も盛り上がります!!

そして義賢絶命の際は、「仏倒し」といって、仁王立ちのまま正面にどうと倒れます
もう本当に義賢役、生傷が絶えなそうです。。 

義賢のかっこよさは当然のこととして、個人的に最もかっこいいのは小万坂東新悟さん)ですね。
女性でありながら、平家の討手を倒していく力の強さ、そしてどんな場面でも落ち着きを忘れずに、常に必要なことを的確にこなす精神面の強さ
義賢の最期に際し、のめる義賢を駆け寄って支え、水を飲ませる姿はもう、全武将はこの人を妻にすべきと思うレベルです。 
 
平家に仕えながら、実は源氏再興の意志を持つ義賢と、源氏方の武将・多田行綱中村隼人さん)の妻である小万。
同じ意志を持つ者として、義賢もこの女性を信頼し、大事な源氏の白旗を託すのです。 

平成中村座で観た「実盛物語」に繋がる部分(あまり内容に触れていませんが、感想はこの記事
実盛物語では痛々しい姿で登場するあの小万が、どういう経緯で白旗を守り抜いたのか、やっと分かりました。

緊張感のある展開の中で、小万のお父さんに当たる九郎助大谷桂三さん)と息子の太郎吉(ごめんなさい、筋書を買わなかったものでどの子役さんだか分からず…)が癒しだなぁ…
九郎助、真剣なんですがどこかのんびりしているんです。笑 
そして平家の討手に対し、九郎助におぶわれたまま棒で応戦して、見得までする太郎吉のかわいいこと!
このあとの「実盛物語」でも太郎吉がかわいいのは知っているので、ぜひいつかこの二つを流れで観て太郎吉に全力で癒されたい。笑 


3.芋掘長者



これは何も分からなくても安心して楽しめる、そして誰もが幸せな気持ちになれる演目ですね!
舞台の端まで見逃せません。

以前この記事でもあらすじを載せましたが、再掲。
過去の「歌舞伎美人」に載っていたものです。太字と配役は筆者が追記しました。
(※この説明のページにリンクします。「みどころ」からご覧ください。)

◆踊りが苦手な男の困った末の大一番
松ヶ枝家では、息女緑御前坂東新悟さん)の婿選びの舞の会を催します。そこへ友達の治六郎中村橋之助さん)とともに現れたのは、緑御前に思いを寄せる芋掘藤五郎坂東巳之助さん)。舞ができない藤五郎のために、面をつけた舞上手の治六郎が途中で入れ替り、藤五郎のふりをして見事な踊りを披露します。感心した緑御前から、藤五郎は面をとって踊るよう所望され…。
藤五郎が困った末に見せる芋掘踊りなど面白味のある舞踊です。平成17年歌舞伎座で十世坂東三津五郎が新たに振りをつけて45年ぶりに復活させた十世の思いがこもった作品です。

とにかく舞の好きな緑御前。
結婚相手も舞上手がいいと、舞の上手い人をその場に招待していて、治六郎や藤五郎の前には莵原左内中村歌昇さん)と魁兵馬尾上松也さん)が舞います。
左内の緑御前に対するデレデレぶりがなかなかです。笑

ちゃんと舞を理解している、格の高そうなこの家に、ただの芋掘がやってくるのですから大変です。
藤五郎は身のこなしがさっぱり分からず、治六郎の全力の指導も虚しく、全然うまくいかない。笑
この辺は藤五郎のダメっぷりがわざとらしいくらい分かりやすくて楽しいです。

「藤五郎は舞ができない」という事実を隠し通すため、面で顔を隠して代わりに治六郎が舞います。
この治六郎が舞っているとき、ぜひ横目で藤五郎にも注目してみてください。隠れて楽しんでます。笑

ここから先が藤五郎の見せ場で、「面を取れ」と言われてもはや全ての隠しようがなく、ままよ!とばかりに芋掘踊りを始めるのです。

このあたり、踊りも軽快でノリが良く、音楽も調子が良くて、純粋にいい気分で観られます!

そしてこの芋掘踊りがまさかの結末を呼ぶのでした。なんとおおらかな芝居でしょう。笑

最後はみんなで芋掘踊りを踊って幕です。
やっぱり「みんなで踊る」っていいですよね。気持ちが晴れ晴れします。
横一列で後ろを向いて芋を掘る振りに何だか癒された。笑

昼の部最後の演目がこれなのは、とても良いと思います。
観劇後の半日を爽やかな気持ちで過ごせました。笑 


4.まとめ


知らない演目ばかりでしたが、昼の部に行ってみて大正解でした!
華やかな立回りあり、大好きな踊りありで、たっぷり味わえた感じ。

二階後方席からの観劇でしたが、花道も半分くらいは十分に見え、舞台も全体が見渡せました。
オペラグラスがいらなかったくらいです。

会場一階や二階の通路にたくさんお店が出ていたり、幕間にお弁当やおやつを売りに来たり、観劇以外の楽しみも充実!

肩の力を抜いて観に行ける、素敵な公演でした✨

プロフィール

わこ

◆首都圏在住╱平成生まれOL。
◆大学で日本舞踊に出会う
→社会に出てから歌舞伎と文楽にはまる
→観劇5年目。このご時世でなかなか劇場に通えず悶々とする日々。
◆着物好きの友人と踊りの師匠のおかげで、気軽に着物を着られるようになってきた今日この頃。

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